水のささやき
明日から新しい町へ目指して出発する。
調査隊のテントを貸して貰って就寝だ。
そこでリーサが寝付けないのか横になってゴロゴロしている。
「寝付けないのかい?」
そっと語りかける。
「……」
なんかリーサはいつにも増して困った様な眼で俺を見つめて来る。
そして無言で頷く。
まあ、今日はいろんな事があったから興奮が冷め切らないのかな?
「じゃあ寝つけるまで何か話でもしようか? この前途中だった前の世界での物語とか」
そう尋ねるのだけど、今夜のリーサは首を横に振って困った目で俺を見つめるだけだった。
自己表現ややりたい事を伝えるのがあまり得意じゃないから察して上げないといけない。
イヤだって事なのかな?
「……」
うーん……寝付けないけど何かしたいって感じに見えるんだけどなぁ。
どうしたものか。
俺は周囲に目を向ける。
みんな寝静まっていて静かだ。
調査も終わって一旦祝杯って感じで盛り上がったもんなぁ。
見張りの人以外は寝ているか。
思えばリーサと久々に二人きりの空間な気もする。
まあ、テントの布一枚で作られた空間だけど。
ここ最近疑問に思っていた事を聞くには良い機会かもしれない。
何だかんだあって二人になる時が少なかったし、下手に聞かれて妙な騒動を招いたら大変だからなぁ。
俺がこの世界の人じゃないってのは、知られて大丈夫なのか? とか。
余計な波風を立てない様にある程度状況を把握しないといけない。
リーサは信じてくれたし、聞いても大丈夫だろう。
だから俺にとって一番気軽に聞ける人物はリーサって事になる。
「じゃあリーサ、ちょっと聞いて良いかな?」
「なに?」
「えっとね、ここ最近、ステータスとか確認していて思うんだけど……技能って自分で選んで習得出来るよね?」
「?」
首を傾げたリーサが胸に手を当てて引っ張る様に自分にしか確認できないステータスを呼び出す。
それからしばらく目を泳がせたかと思うと、不思議そうな表情で俺を見てきた。
「そんなの無いよ?」
そっかー……リーサには無いのかー……。
シュタイナー氏やレナさんの様子から考えて薄々そうなんじゃないかとは思っていたんだよなぁ。
もしかしたらこれはサンダーソード、エロッチの力のお陰で出来るようになったモノなんじゃないかって。
「じゃあ何が書いてある?」
「えっと、Lvと職業……」
つまり詳細なステータスも確認出来ないのか。
「細かい数字は?」
「……数字?」
うん、どうやらLvと職業しかわからないみたいだ。
となると俺独自の力なのか、サンダーソードのお陰なのかはわからないけれど、ここまで詳細に確認出来るのは俺だけって事になる。
しかも電気治療を施した相手のステータスを弄る事が出来る。
これはシュタイナー氏が研究して同様に出来るようになるのかも関わってくるな。
ある意味、この世界にとって世紀の大発見になりえるかもしれないけれど、同時に混乱を招きかねない。
かなり重要な問題だよなぁ……。
「ねえ、チドリさん」
なんて考え込んでいるとリーサが俺にねだる様な目で見上げて来た。
「なんだい?」
「私も、レナお姉さんやシュタイナーさんみたいに……あの電気の奴、やってみたい」
二人みたいな電気の奴……電気マッサージか?
そういえばレナさんに電気マッサージをした後、リーサが俺を見ていたっけ。
あれは軽蔑の眼差しではなく、興味津々って意味だったのか。
しかし、これはお酒とか煙草を子供がやってみたい的なおねだりになってしまうのか?
いや、一応やる事に意味が無い訳じゃないけれど、相手はリーサだぞ?
俺の良識ある部分がおかしいと注意してくる。
が、同時にこれはレナさんの例から考えて、リーサの今後の為にもなる。
技能を割り振る事でリーサが望む様な力を授ける事が出来るんだぞ?
悪魔の誘惑にも感じてしまう。
リーサがやがて巣立った時、幸せになれる確率を引き上げるには……施した方が良いのは明白だ。
けれど、不相応な力を授けてしまう可能性だって捨てきれない。
本当にリーサの為になるのか? 問題はそこじゃないのか?
だが、既に俺はレナさんに似た様な事を施している。
本人が望んでいるんだ。やっても悪くは無い……はずだ。
そもそもこの世界の法則を俺は把握しきれていない。
く……こんな所でも躓いてしまうのか。
とにかく、リーサの為にもやって損は無いかもしれないが、怠けたり力に溺れたりしない様に念を押しておかないと。
……リーサがそんな道を踏み外す事は無いとは思うけど。
「やってあげても良いけれど、しっかりと学校で勉強するんだよ?」
「うん……がんばって、チドリさんに色々と話せるようにする」
くう……こんな健気な事を言われたら引き下がれない。
「わかったよ。ただ、十分気を付けるんだよ」
「……何に?」
あ、これは間違いなくわかってない。
察してくれるかと思ったけれどさすがに理解が及ばないか。
後でじっくりと教えてあげた方が良いだろうなぁ。
「じゃあ、横になったままで良いから俺に背を向けてね」
「うん……」
リーサは言われるままにうつ伏せになる。
そして掛け布団を口に当てて噛んでいる。
うわぁ……レナさんやシュタイナー氏の例から、こう言う所だけはしっかりと学んでいて、何かイヤだなぁ。
おそらく変な声が出る事を理解しているんだ。
それがどういう意味であるかの有無に関わらず、な。
俺は半ば諦めた気持ちでリーサの背にサンダーソードを合わせ、電気治療を開始する。
「んくっ……んんぅっ……」
パチパチとサンダーソードの鍔の部分から電気が放たれてリーサの背中を伝って行った。
やはりというか、こう言う時にちょっとエッチだと思う声がリーサから放たれてしまう。
いや、電気が当っているだけなので、俺は触れてすら居ないけどさ。
そうしていると……レナさんよりも早く魔石に電気が届いたのか、俺の視界にステータスが表示された。
これは俺への信頼の表れなのか、俺が先日よりもサンダーソードを使いこなせる様になったのか、それとも何か別の理由があるのか……。
なんて思いながらリーサのステータスを確認する。
リーサ=エルイレア Lv15 女 種族 人間? 職業 魔法使いLv16
習得技能 力向上2 知識向上3 魔力向上5 生命力向上3 魔力操作7 マジックマスタリー3
魔力回復力向上5 水魔法修練9 四属性魔法修練5 神聖魔法修練6 合成魔法修練4 補助魔法修練5
調合技能4 水龍の力 水のささやき 守護の資質 歌姫
スキルポイント13
うん……なんて言うかシュタイナー氏に比べても随分と可能性のある子なんじゃないの?
種族の部分に疑問符が付いているのは謎だ。
確認しても出て来ないし。
……敢えて言うと、なんだこの才能の塊は。
特に何も振ってないのに水魔法修練が9もあるよ! 天才でしょ。
歌姫って何?
こう……俺が如何に凡人であるのかを見せつけられた気がしなくもない。
でも大丈夫!
俺にはサンダーソードがあるから!
くだらない嫉妬なんて湧いても来ないぜ。
これまで不幸な境遇だったリーサの未来が明るそうで良かったなぁって素直に思える。
ありがとうサンダーソード!
ありがとうエロッチ!
さて……総合的に見てリーサは魔法使い向きな構成だ。
特に秀でているのは水魔法だと思う。
とはいえ、納得は出来る。
水龍であるエアクリフォの生贄に選ばれる位だしな。
水という魔力自体に適性が高いんだろう。
正確にはその封印に御座敷いて力を吸い取っていた魔物だけどさ。
何より水龍本人から加護をもらっているって事なんだと思う。
水龍の力とかその辺りがそれだ。
……リーサの技能を確認して気になるのは修練は振ればすぐに反映される物ではなく、才能的な代物って事なのではないだろうか?
幾ら才能があっても伸ばさねば意味は無い的な奴かもしれない。
ただ……俺やレナさんの例もあるので、即反映される部分もあるんだろう。
もしくは事前に貯めていた努力……の様な部分が上昇した才能と結びついたとか、そういう感じだと思っておこう。
職業を確認……巫女って見知らぬ職業があるなぁ。
これも取得している技能とかいろんな物が関わって出て来るのだろう。
水龍の力は……貰った腕輪からの加護かな?
水のささやきとか守護の資質とか詳細を確認しようとしても出て来ない。




