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少女の想い

  ◆



 ……どうしたら私はチドリさんの力になれる魔法使いになれるだろう?


 はじめてのダンジョンでも力になる事が出来ず、いるだけだった……。

 シュタイナーさんの用意してくれたテントで横になって寝た振りをしながら今までの出来事を思い出していた。


 物心付いた頃、私は……お母さんと言う人がいないけれど、おばさんが大事に世話をしてくれていると何の疑問も浮かべずに生きていた。

 村は貧しかったけれど、食べるのには……そこまで困っていなかったから。


 ある日の夜。

 私はトイレに行こうと部屋を静かに出て、寝ぼけ眼でおばさん達が会話をしている所を耳にしてしまった。


「一体あの魔物はいつ退治されるのでしょうね……」

「さあな……冒険者共も言う事は立派だが、あの様ばかり……精々負けたら供物と成ってくれているからこそこっちは助かる物だ」

「そうね……生贄さえ差し出せばしばらくは雨も振って土地も豊かになるし……」

「問題は挑む冒険者が減って、いつ村に生贄を差し出せと要求されるか……」

「大丈夫よ……その為にリーサがいるんじゃない」


 ……と言う話を耳にした時、私は……私がこの村でどんな存在だったのかを改めて悟った。

 今まで優しく私を見てくれていると思ったおばさんを初めとした村の人の目と、他の人の目が違って見えるように感じた。

 顔は笑っているけれど、目が微塵も私を見ていない。

 そんな……目……。


 私の聞き間違いだったんじゃないかって想いも心の何処かにあったけれど、村の子供達との扱いの差にもその頃に気付いた。

 少しだけ優遇してくれていたのは、生贄を要求された時にいつでも差し出せるように、小汚い姿にさせない為だったんだと思う。


 そして私は……絵本とか読み聞かせてもらえた物語の世界に現実逃避をする事を覚えた……。

 魔物の行いに憤激して戦いを挑む人達を見てきた。

 けれど、みんなその魔物を倒す事が出来ずやられてしまうか、命からがら逃げて来るかばかり……。

 どうか……物語の様に、悪い魔物を倒してくださいと、私はいつも戦いに赴く人達に祈りを捧げていた。


 せめて死なずに生き延びて欲しい。

 だけど……そうなったら今度は私が生贄にいずれなる。

 なんて葛藤する私は、凄く身勝手で汚れた存在で悪い子だから……生贄にされてしまうのだろう。

 そう思い始めた頃から無表情とか愛想が無いと言われ始めた。


 やがて……来るべき時が来た。

 大人達は大層な表情を浮かべつつ近隣に住む凶悪な荒らぶる神への生贄になる者を村で決めようと話になった。

 白々しく、要求されたのは生娘だと言って、村で天啓と言いながらくじを引く事に。


 結果は……わかり切った物だった。


 何も知らない子供達は私の境遇に同情してくれたけれど、大人達は心からの同情の目はしていなかった。

 そう……最初から何かあった際の生贄は決まっていたから。

 この為に飼育されていた……家畜の様な私を、村の大事な時に処分するだけ……。

 生贄に相応しいと、せめてもの罪悪感からなのか良い生地の服を着せてもらい、私は生贄としてあの滝の場所へと届けられた。


 怖くて逃げたい……けど、私に行くあても無ければ逃げるあても無い。

 ここから逃げたら村の人達が追って来て今度こそ生贄にされるのはわかり切っていた。

 だからこそ、私は……何度目かになる諦めの思いで、その時を待った。

 淀んで見える沢から……龍の頭が何本も伸びて来て、ゆっくりと私の元へと近寄ってくる。


「……」


 せめて恐怖で叫んだりしない様に、震えを堪えて私はその様子をただ見つめることしか出来なかった。

 やがて龍の首の下から大きな巨体が沢から姿を現し、私に向かって龍の頭が近づいてきた。

 世界は物語の様に出来てなんかいないと言うかのように……誰も私を助けたりなんかしてくれない。


 あの時を私は何があっても忘れないと思う。


 一筋の雷が魔物……マッドストリームイヴィルオクトパスに降り注ぎ、一瞬で黒こげになって倒された。

 そして……その雷が、淡い光を纏った人の形になり……光が散ると同時に立ち上がって腰に下げた剣を振り上げていた。


「念願のサンダーソードを手に入れたぞ!」


 あの姿は……まるでお伽噺にある、生贄にされた絶体絶命の乙女を救う英雄の様だった。


 私を助けてくれたチドリさんは事情が呑み込めずに私に色々と聞いてきた。

 そこからは怒涛の出来事であり、私の今までの人生からすると刺激の連続だった。

 本来この地の神様をしている水龍様の封印が解かれたとか……行く宛ての無い私をチドリさんが世話してくれるとか。

 水竜様から凄く綺麗な、魔法が簡単に使える腕輪を私にくれたとか……。


 ここで私は……ワガママを言ってしまった。

 だけど、チドリさんも水龍様もとても優しい目で私のわがままを受け入れてくれた。

 もしも……自由になれるならあの村での生活じゃなくて……物語の英雄を支えられる女の子になりたい。

 私を助けてくれたチドリさんの力になりたい。

 そう思っている。


 初めての町に行くまでも大変だった。

 一日中歩き通しだったし、魔物とも遭遇した。

 けど……チドリさんがすぐに倒してくれた。

 凄くドキドキした。やっぱりチドリさんは凄く強い英雄だった。

 その事を含めて、チドリさんにどうして助けてくれたのかと聞いた。


 するとチドリさんは、自分が助けたんじゃなくて神様が使いとして寄こしたんだって答えた。

 神様が本当に、私の事を見てくれていたから助けてくれた……。

 私はチドリさんが言う神様に感謝の気持ちを抱く。

 同時に私をあの場所から連れて行ってくれる優しい目をしたチドリさんにも感謝の気持ちでいっぱいだった。


 それからチドリさんの事を知りたいと言ったら……ここに来る前の出来事を色々と教えてくれた。

 チドリさんが元々この世界の人じゃない事、こことは違う世界でいろんな冒険をしていた事。

 チドリさんが話してくれる事は、嘘じゃないのがわかる。

 だって、あんな登場をして、私を助けてくれたんだもの……。


 それからも初めての出来事ばかり……村の人達が話はしてくれても連れて行ってくれなかった町に着いて、いろんなお店を見て回って……。

 この世界の事が何もわからないからって冒険者になるにはどうしたら良いかってギルドで教わって。

 初めての依頼達成からの出来事……悪い冒険者との戦いをしてから、また別の町へ目指して移動。

 馬車での移動……乗り物酔いしちゃったっけ。


 それからレナお姉さんが私に声を掛けて来て……シュタイナーお爺さんから魔法を教えてもらった。

 チドリさんが電気治療ってシュタイナーお爺さんとレナお姉さんに雷を当ててた。

 マッサージをしてもらった事があるからどんな感じなのかわかる。


 けど……ちょっと羨ましい。

 何か変な気持ちになる。

 胸がむかむかする様な……変な感じ。


 レナさんも魔法に効く治療って言うのをしてもらったら魔法が上手になったってご機嫌で練習に誘ってくれた。


 ……初めてのダンジョン。

 物語でしか聞いた事の無かった場所で、魔物にレナお姉さんと一緒に覚えたての魔法を当てた。

 凄くドキドキワクワクした。

 本当に私は冒険者になったんだって思えた。

 けど……一番奥で出てきたドラゴンの声で麻痺して、私は足手まといに……。


 もっと、強くなりたい。


 そして学校に私が行く事に……チドリさんやシュタイナーお爺さん達が私の事を考えて提案してくれているのはわかる。

 だって、目が優しいから。


 正直……出来過ぎているんじゃないかと、時々怖くなる。

 もしも夢なら……どうか覚めないで欲しい。

 何度も……思う。


 私は……命を助けてくれて、あの場所から連れ出してくれたチドリさんの為に生きたい……。



  ◆


次回は電気マッサージ

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