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水雷竜刃

「えーっと水龍と呼ばれる魔物と比べたら?」


 この世界に生息している俺の知っている竜系の魔物と言えば水龍だけだ。

 多分水龍の方が強いだろうけど、比較対象としてどんなものなのか気になる。


「比べるまでも無い程格下のはずじゃ……じゃが、この個体は随分と力を出していた……何かしらの力で理性が失われておるからこその代物か。もしくは更に上位のソルジャードラゴン……いや、パワーソルジャードラゴンだったのかもしれん」


 つまりまだまだ上のドラゴンが無数にいるって事か。

 周囲にとっては些細な一歩だったとしても、俺にとっては大きな一歩だと思うほか無い。


「う……うう……凄い声でした」

「体がまだ痺れるような気がする」


 レナさんとリーサがヨロヨロと俺達の方へと歩いて来る。


「勝ったのですよね」

「ああ、そうだね」

「チドリさん強い」

「どうにかね」


 負けるかと思った。

 だけどサンダーソードのお陰でどうにか危機を乗り越えられた。


「ところでこの魔物は霧散しませんね、お爺ちゃん」

「そうじゃな……このドラゴンウォーリアーだけ別の理由があるのじゃろうが……」

「まずは解体しますか?」

「いや、反応が近いのう。魔石採取をする前に少し先を確認するか」

「ええ」


 ドラゴンウォーリアーの死体に意識を向けつつ俺達は先の部屋をそっと覗きこむ。

 そこには金銀財宝って訳じゃ無いけれど、目当ての代物らしき魔法陣や何やら機材が置かれてある祭壇を発見する。

 なんとなく金目の物がありそうな雰囲気?

 どうやらここが目的地のようだ。


「よし、ワシは調査をするから……」


 という所で俺達の後ろが淡く光りが見える。

 思わず振りかえるとドラゴンウォーリアーを囲む様に魔法陣が発生して、煌々と輝いていた所だった。


「ぐ……グルルルルルルル。ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 見る見る内に俺が着けた眉間の傷が塞がりドラゴンウォーリアーが立ち上がって咆哮する。

 二度目のドラゴニックボイスを受け、レナとリーサは耳に手を当てて眉を寄せる。

 恐慌状態には陥っていないみたいだが……場所が悪い。

 奥の部屋を見に行っていた俺達は逃げ道が塞がれてしまった。


「これは明らかにおかしい。魔力の流れを感じた。おそらく、この部屋にある魔術式があのドラゴンウォーリアーに力と不死性を与えている様じゃ!」

「ではそれを早く見つけて破壊してください! 俺は奴を足止めします!」


 俺は急いで立ち上がるドラゴンウォーリアーの目の前に駆け寄り、再度戦闘を再開した。

 第二ラウンドの始まりだな、おい。


「私達は……」

「正直、二人に攻撃が向かう方が怖い。出来ればシュタイナー氏と手分けして仕掛けを見つけて欲しい」

「でも……」

「リーサちゃん、今は堪えて。私達はチドリさんの手伝いをするには力不足なの」

「……」


 凄く切ない顔をリーサがしている。

 本気で申し訳ない。

 けれど、リーサを戦いに参加させるには俺に余裕が無い。

 シュタイナー氏が戦えば余裕が出来るのかもしれないけれど、そうなると仕掛けを早く見つける事も壊す事は難しくなる。

 リーサは無言でシュタイナー氏を追いかけ、奥の部屋の魔術式を探しに行った。


「ほらほらこっちだ」


 気を付けなきゃいけないのは竜のブレスを吐かれて後ろの部屋に攻撃が届く事。

 そしてドラゴンウォーリアーが俺を無視して後ろの部屋に行かれる事だ。

 どれだけ強力な攻撃を放っても不死性から倒す事は敵わない。


 ここでこのドラゴンウォーリアーを殺す方法を考えてみる。

 ありそうなのは心臓を貫いて魔石を破壊するとか……か?

 それも再生したら元も子も無い。


 と言うかそんな正確に狙うのは中々に骨が折れる。

 アームドサンダーで動きを抑えると言っても腕や斧が行く手を遮るのだから頭を狙った方がはるかにやりやすい。

 とにかく、今は如何に動きを止める事を優先すべきだ。


「アームドサンダー!」


 タコの腕の様な雷を出してドラゴンウォーリアーの動きを止める事を優先する。


「グルルルル……ギャオオオオオオ!」


 一度使った手は通じないとばかりにダメージをモノともせずに持っている斧でアームドサンダーを一本、また一本と切断して霧散させて行く。


「はあっ!」


 その隙を俺は逃さずに一の型・隼で尻尾を切り飛ばし距離を取って一旦鞘にサンダーソードを納めて二の型・鎌鼬を首目掛けてぶちかます。

 首にしっかりと命中したが……浅い傷で血が出る程度に留まっている。

 防御力は思いの外無さそうだ。

 本来だったらこれだけの一撃を受けたら押しきれると判断出来るのだが……。


「ギャ!? ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 跳ね飛ばされた尻尾の痛みで雄たけびを上げたドラゴンウォーリアーだったが、やはり足元に魔法陣が出現して逆再生するかのように尻尾が浮かんで元通りにくっついて傷が塞がる。

 ……なんか遠くで地響きが聞こえた様な気がした。


「ガアアアアアアアア!」


 フッと、ドラゴンウォーリアーが俺に急接近し、回避しようとした先に先回りして斧で切り返しを放ってくる。


「くっ!」


 どうにか弾いて受け流す事が出来たけれど、攻撃が重い。


「ガアアア!」


 ブンと俺に狙いを定めて大きく斧を叩きつけて来る。


「うお!」


 バチッとサンダーソードの雷の力で斧の金属部分に干渉して反動を利用して跳ねることで避ける。

 俺がさっきいた所には深々とドラゴンウォーリアーの斧が叩きつけられており……地面が大きく裂けていた。

 あんなの当たったらミンチだ。


「あった! が、なんじゃこれは! とてつもなく強固な魔術式じゃぞ。もはや壊す方が早いが……ちょっと待っておれ……バーストフレア!」


 シュタイナー氏達が見つけた様だ。

 室内からチラッと右奥にある何かの像みたいな物をシュタイナー氏達が見て、破壊しようとしているのが確認出来た。

 赤い爆発がシュタイナー氏の前方で見えたのだ。

 だが、壊そうとしている代物は健在。


「グル!?」


 うわ!

 ドラゴンウォーリアーが自身の不死性を守る為に仕掛けの方に頭を向けている。

 これは……うん、シュタイナー氏が破壊するために魔法を詠唱する時間が惜しい。

 サンダーソード! お前に任せる。


「みんな、そこから下がって!」


 咄嗟に俺は振り返り、サンダーソードを持っている事でなんとなくだけどどんな形状の攻撃なのかの射程ラインみたいな物は使わなくても確認出来る。

 だからこそ、やるしかない。


「わ、わかった!」

「任せたぞ!」


 そう言って咄嗟にシュタイナー氏はレナさんとリーサを部屋の隅に素早く突き飛ばしてから下がり、魔法防壁みたいな代物を生成して身を守る。


「はああああ! 水雷竜刃!」


 そう、サンダーソードを振りかぶると剣先から雷を帯びた龍の頭を模した水流が飛び出し一直線に飛んで行って魔術式だと思わしき像をぶち壊す。


「ギャオオオオオオオ――」


 ドラゴンウォーリアーの足元で煌々と輝いていた魔法陣にヒビが入り、砕け散る。

 するとドラゴンウォーリアーは仰け反ったかと思うと……仰向けに倒れた。


「よし!」


 どうにか窮地を乗り越える事が出来たか。

 なんて思った直後……ゴゴゴと辺りが揺れ始める。

 その直後、ガラガラと天井が崩落し始めてドラゴンウォーリアーがいた場所に降り注いた。

 あっという間にドラゴンウォーリアーは土砂にのまれてしまった。


「このダンジョンを維持するための魔術式でもあった様じゃ。早くせんとワシらも生き埋めになるぞ! 急いで脱出じゃ!」


 シュタイナー氏が指示を出しつつ室内の物や魔術式の要に使われていた像の破片を無造作に懐などに入れて走り出す。

 転んでもタダでは起きないのは感服します。

 いや、これくらいの決断力が必要って事なのかもしれない。


「わ、わたしも!」

「精々一個か二個にして早く行くのじゃ! は!」


 と、シュタイナー氏が上に防壁魔法を張りながらレナさんとリーサを連れて出て来る。

 俺も周囲を警戒しながら手招きして急いで脱出を図る。

 そりゃあもうそこからは全力疾走でダンジョンから出ることしか考えなかった。

 後でシュタイナー氏の推測と調査隊の人達の証言でわかった事なのだけど、ダンジョン内に居た魔物達は俺達が魔術式を破壊した直後に影となって霧散したそうだ。

 なんて余裕もなく、俺達は来た道と全力で戻った。


「あ!」


 リーサが転びそうになった所を俺がどうにか支えて駆け。


「早く行くのじゃ!」


 ダンジョンの迷路部分の半分辺りで……俺達の後方が埋没した所で、急激な揺れは収まったのだった。


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