音響把握
「ウォーターショット!」
「ん!」
レナさんとリーサが揃って水の魔法で先制攻撃を行う。
「――アア!?」
「シャアアア!?」
「――!?」
水の塊がビッグイグアナと毒大根とエビルスネークにそれぞれ飛んで行き、命中……思ったよりも機敏に動いているけれど二人とも上手く当てている。
シュタイナー氏も何かしらの魔法を詠唱している様だ。
俺を巻き込まない様に調整しているのがわかる。
早めに仕留めるのが良さそうだ。
とりあえず数が多いな……うん、まずは接近して切り伏せるのが先決だな。
ラルガー流剣術、一の型・隼!
俺は腰を低くして一番手前に居たビッグイグアナをサンダーソードで切りつける。
「――アア!?」
ビクンとビッグイグアナが大きく息を吹きつけようとしていた口を閉じる形で切り付けが成功。
と、同時にバチバチとサンダーソードから電気が発生してビッグイグアナを感電させる。
「アガアガアガ!?」
思わぬ電気攻撃に驚きつつ毒大根が紫色の体液を吐き出し、エビルスネークが合わせるように牙の毒腺から毒を噴射してくる。
「喰らうか! アームドサンダー!」
バチバチとタコの足を模した雷を放ち、飛んでくる毒液を薙ぎ払う。
く……ちょっと届かないか。
思ったよりもタコの足が伸びない。
「ファイアアロー!」
その直後、炎の矢が飛んで来てビッグイグアナと毒大根とエビルスネークを討ち抜く。
「――!?」
魔物達は黒い影の様になって霧散して行った。
「やりましたね」
レナさんが勝利に声を掛けて来る。
俺はサンダーソードを鞘に戻しながら頷く。
「助かりました」
「やった……けど、強くなったのかよくわからない」
「うむ……楽勝じゃな。何事も反復練習じゃよ。どれだけ難しい魔法が使えても実戦で使えなければ意味は無い。それに状況次第で大きな魔法ではなく、簡単な魔法の方が効果的に働く事も多いのじゃ」
なんとも女子二人の授業みたいな戦闘になってしまったかな。
「見た所じゃと……この程度の魔物はチドリ殿一人でも余裕で勝てそうじゃな」
「確かにそうですね」
正直、動きも対処できない程ではないし、毒攻撃もアームドサンダーで叩き落とせる。
仮に毒になったとしてもシュタイナー氏が毒消しを所持しているそうなので、そこまでの驚異にはならない。
「奇襲に気を付ければどうにかなると思います」
それもまあ、俺の気配察知とか、物音とかである程度分かる。
「うむ……頼りにしておるぞ。では進もう」
と言う訳で俺達はダンジョン内をどんどん進んで行った。
なんて言うか……このダンジョンは確かに生活の痕跡らしき名残が所々に散見していた。
ボロボロになった図書室、調理場らしき部屋、こう……歴史を感じさせる部屋が多い。
まあ丸々地中に埋まっているって話だし、現に埋まっている所は多いんだけどさ。
本当、極一部だけ土を除去した感じで維持されているだけなんだと思う。
どういった仕組みなのか、魔法に詳しくないので全然わからない。
とにかく、時々魔物が出て来て俺達の道を遮っているんだけど、苦も無く戦えているのが唯一良い所かもしれない。
大分奥へと潜って行き……なんか大きな壁画みたいな物が描かれている場所に出た。
なんか七体の悪魔とその上に居る四体のボスのような奴の絵だと思う……所々削れてわからないんだけどさ。
「ふむ……これはダンジョンを作り出した、魔を司る者達を象った壁画じゃな」
「崇拝していたって所でしょうかね?」
「どうじゃろうな? その隣にはドラゴンに関する壁画もあるようじゃ……奥には遥か過去に世界を平和に導いた王の絵もある」
ただの壁画って事で良いのかな?
何かの参考とか仕掛けとかにはならなそうだ。
とりあえずマッピングを俺達はしながら進んでいる訳だけど……行ける所に行くだけで特に何かを見つけたってわけでもない。
宝箱って感じの棚とかも古くて使い物にならない物ばかり転がっているしなぁ。
錆びて朽ちた鎧とか、使い道は無い。
シュタイナー氏の話だと魔石とかは劣化が遅いから見つかれば金や資料になるらしいけど……。
ちょっと古い遺跡って事なのかな。
罠とかも時々見つかる。
サバイバル技能のお陰か淡く光るから簡単だ。
しかもワイヤートラップとかは俺のサンダーソードの電気が漏れているのか道で光るから尚の事楽に進めている。
「ダンジョン」
「ワクワクする気持ちはわかるわ。リーサちゃん」
「うん」
リーサとレナさんは冒険に胸の高鳴りが抑えきれないって感じだし、危険も少ないからピクニックって感じなのは否定できない。
なんて感じで行き止まり部分から戻ってを繰り返している内に先へ先へと行った俺達のマップはほとんど埋まってしまった。
「一旦戻ってどこかで別の道を探すべきかのう……」
魔物は継続して出て来ているし、シュタイナー氏の感覚だとダンジョン内に満ちる何らかの力に近づいてはいるのだが、道が無いとの話だ。
原因がある場所を感知出来るほどには近づいているって事なんだろうが……。
どこかに隠し通路でもありそうな感じだな。
「こりゃあもう少し人を連れて来て埋没している所を掘って向かうのが良いかも知れんな」
「そうですね……とはいえ、ちょっと待ってください」
「んむ? なんじゃ?」
「ちょっと調べてみますので」
俺はサンダーソードを背に隠しながら魔石を交換する。
変えるのはパープルトロンボーンオウムの魔石だ。
パープルトロンボ-ンオウムの魔石 □□□□
使用可能技能
プラズマスナイプ 轟音波 音響把握 プラズマフェザー レイピアマスタリー3
この使用可能技能にある音響把握って技能、こう言う時に役立つのではないだろうか?
そう思って音響把握を使用してみる。
……特に変化は無い?
そう思っているとトンとリーサが軽く地面を踏み直した所で気付く。
音が波紋みたいに響いて感じる……。
周囲の壁とか目を使わずにも感じ取れる様な気がする。
変化したサンダーソードで地面を軽く突くと電気と共に音響が飛んで行き……二つ前に調査した部屋に僅かな隙間がある事が把握できた。
軽く調べた感じだと特に何も無かったんだけどなぁ……。
どっちにしてもそこから別の所に行くのが近そうだ。
「おそらくあそこの部屋に何か仕掛けがあるんだと思います。本来は何か仕掛けを解けば良いのでしょうけれど……」
隠し扉の仕掛けの部分……動かすにはどうしたら良いんだ?
「なんと……そんな事までわかるのか?」
俺が案内した部屋に入ったシュタイナー氏が驚きの声を上げる。
「ええ、ちょっと電気を使いましてね」
「電気って凄い」
リーサの言葉に内心で微笑む。
だってサンダーソードのお陰だしね。
我が事の様な嬉しさがある。
そうして探索範囲はそこまで大きく無いけれど隠し通路を発見出来た。
……大きくないか?
壁が丸ごと動く仕掛けだぞ。
「おそらくここの壁が隠し通路になる……はずなのですが」
随分巧妙に隠されている……と言うよりも仕掛けが大分錆び付いている。
電気伝いで仕組みに干渉できないだろうか?
「魔法で多少壁を掘って見るのが良いかも知れん。土の魔法を唱えるかのう」
「いえ……」
壁の隙間にサンダーソードを通して……パチッと歯車部分に電気を通して見る。
金属伝いに……ああ、こっちも埋没している部屋みたいだ。
電気で強引に動かせないかな?
なんて考えた所でサンダーソードが俺の意図に反応したのか電気を放って磁力でも起こしたのか……仕掛けが作動する。
ゴゴゴと音を立てて仕掛けの大元が動きだし、隠された扉が動き出した。
結構大がかりな仕掛けだったのではないだろうか?




