を手に入れたぞ!
で、次に目が覚めた時、ここに居た。
「そうだ。貴様は殺されて、サンダーソードを奪われたのだ」
な、なんだって!?
確かにサンダーソードは高価な武器なので強盗が現れても不思議ではない。
だが、俺も冒険者としてそこそこの腕前だ。
簡単にやられるつもりはないんだが……。
「不意打ちだ。貴様が舞い上がっていて、隙だらけだったのも理由だろう」
くっ……なんて事だ。
サンダーソードみたいな高価な武器を持っていたら盗賊に狙われる可能性はあった。
十年も掛けて手に入れたから、舞い上がっていたという老人の言い分も間違ってはいない。
……日本人風に言うなら尋常ではない死亡フラグだ。
フラグが三つも四つも立っている。
俺がもしも小悪党だったなら狙うかもしれない。
今際の台詞も今考えたらネタにしか見えないぞ。
「そうして殺され、サンダーソードを奪われた貴様をワシは哀れに思ってな……冥府の神と交渉して、ここに招いたのだ」
冥府の神?
何故このムキムキサトリ仙人にそんな事が出来る?
「だからー……もういい。熱心な信者でもあったので寛大に許そう。安易に神とは会えないとの考えが根底にあるのだろうしな。正真正銘、ワシはエロッチだ」
え? マジ? 本物?
「サンダーソードはワシの加護の掛った武器……入手条件に献上した金銭を通じて、貴様の苦労、徳、思いが信仰という形でワシに伝わってきた。だからこそ所持を認めた」
そういうモノなんだろうか?
まあ確かにサンダーソードはエロッチという神様に金銭を献上した後、他の何らかの条件を満たす、という変わった条件のある武器だ。
現に武器屋に飾られていたサンダーソードにお金を献上したら、光になって消えたしな。
……お金が消えたけど、武器屋的に儲けになったんだろうか?
と、思わなくもないが、購入した際の店主の反応は嬉しそうだった。
武器屋としては呪いの武器みたいな扱いだったのかもしれない。
まあ少なくとも十年以上、名物として飾ってあったので呼び込みとしては優秀だっただろうし、総合的に悪い話でもなかったのかもな。
「ここまであの剣を欲しがり、剣に恥じない様に行動した者は初めてであった……何より捧げられた金銭に悪事をして得た物は一つもなかった」
まあ、サンダーソードに相応しい男になる為にがんばったけどさ。
人を騙して手に入れたら俺のサンダーソードへの思いまで穢れる様な気がしたしな。
その分、購入までに掛った期間は長かったけど。
「そんな貴様が碌に剣を振るう事なく、非業の死を遂げた事を哀れに思ってな……」
だから同情されているのか。
「冥界の奴も異世界人の魂だから処理に困っておったし、貴様の経緯に同情をしていた。故に交渉はすんなりと進んだ」
え? 異世界人の魂って処理に困るの?
なんでだ? やっぱり地球にも神様が居て、そっちで処理しなくちゃいけないとか?
「そこはこちらの事情だ。ともかく、それ等の事情から貴様をここに呼んだという訳だ」
「あの……それって、何を、してくれるのでしょうか?」
「具体的に言えば貴様の蘇生に該当する」
マジで!? 非業の死を遂げた俺を神様が同情して生き返してくれるんだって!
異世界召喚される前に読んでいた小説みたいな展開だ!
……考えて見れば既に異世界召喚されているんだし不思議じゃないか。
「物分かりが良くて良いが……そう言えば貴様はあの邪神退治をした者達の仲間だったな」
ちなみに俺は二軍扱いで俺と同じく召喚された奴等が邪神を倒した。
確か……6年くらい前の事だったっけ?
もちろん二軍の俺が最終決戦に挑めるはずもなく、街の方で襲い来る魔物を堰き止めるので精一杯だった。
稼ぎは良かったので嬉しかったけどな。
「話を戻すぞ。貴様を蘇生する事なのだが、一つ条件があってな。その了承を貴様自身から聞かねばならん」
「条件とは?」
「むやみにこの世界で死者を蘇生させる事は理から逸脱するのは元より、冥府の神も許可を出さない。でだ……貴様の蘇生に付随する条件は他世界への半ば追放が条件となっている」
「えー……つまり、生き返らせる事は出来るけれど、その代わりに別の世界へと行かなきゃいけない?」
俺の返しにエロッチは頷く。
「そうなる。異世界人の魂は本来、この世界の魂とは異なる形をしていて処理に手間が掛るのが冥府の神が了承した理由の一つでもあるのでな」
何やら神様達なりの理由があるようだ。
こう……複雑な理由があって俺は現在、エロッチに謁見する事を許可され、蘇生を条件に別の異世界へと行く事になるのか。
「ちなみに断る事も出来るぞ。そうなると死者として冥府へ向かう事になるが……」
「いや、さすがにあの世に行きたい訳じゃないです」
既に死んでしまっているみたいだけどさ。
しかしこれって異世界人の魂は冥府からしたら処理が面倒だから厄介払いしたいって事なんじゃないのか?
「さっきも言ったが処理が面倒なだけだぞ? ワシが介入したのもあって冥府の神も許可しただけだ」
「俺だけ?」
コクリとエロッチが頷く。
なんとも甘美な響きです。特別感で気分は悪くない。
けど……ああ、サンダーソード。
恋焦がれるサンダーソードの無い異世界の何が楽しいのか。
ここで歌いたい。
30も歌詞のある俺が作ったオリジナルソング・サンダーソードの歌を。
その中にある麗しのサンダーソードをここで綴ろう。
あ~君は高嶺のサンダーソー――
「その気色悪い歌を脳内で歌うのをやめろ」
エロッチに止められてしまった。
そしてエロッチは深く溜息を吐いた後に手を前に出す。
すると何も無い空間に雷が現れ、集束し、一本の剣へと姿を変えた。
それは紛うことなきサンダーソードだった!
「哀れな貴様へのせめてもの餞別だ。異世界へと行くのなら、やる」
「もちろん行きます!」
俺は飛び付くようにサンダーソードを受け取る。
やった! サンダーソードが戻ってきたぞ!
ん?
「あれ? これって俺が買ったサンダーソードじゃないですよ? ほら、特有の経年劣化の傷が無いです」
ただ、サンダーソードから感じる雰囲気や気配、俺のセンサーは本物だって教えてくれる。
「よくわかるな……それは哀れな貴様の為にワシが新たに作り出した貴様以外が使えない様にしたサンダーソードだ」
なんと!
専用のサンダーソードまで用意してくれるとは!
これは太っ腹なエロッチ様だ!
そしてエロッチの前に渦巻く泉、某RPGとかで見るワープ装置みたいな物が出現する。
……最終決戦の時に邪神討伐に向かった奴等がこれを使っていたな。
「ここを潜れば貴様は別の世界に行く事になる。もう戻ってくる事は出来ないだろう。行くか?」
「そりゃあ約束しましたからね」
新たなサンダーソードをもらったからにはいかねばならぬ。
これまでのコネクションやツテの無い新たな世界なのかもしれない。
今までの世界で相応に色々と人とのつながりがあった訳だけど……既に死んだ者としてしか扱われないのなら行くしかあるまい。
「願わくば次の世界でその剣に恥じぬよう、勇猛果敢に生きよ」
「もちろんです」
「ではな」
若干苦虫を噛み潰していた様な顔をしていたエロッチが優しげな笑みを浮かべて俺に手を振る。
俺は手を振り返し、エロッチが用意した渦へと飛び込んだのだった。
一瞬だけ俺は見知らぬ大地の地平を遥か遠くまで見渡し……一筋の落雷となって地面に着地する。
バチバチと帯電した体でしっかりと着地し、顔を上げる。
そして鞘からサンダーソードを抜いて高らかに掲げながら勝利の声を上げた。
「念願のサンダーソードを手に入れたぞ!」
こうして俺の二度目の異世界転移が始まったのだった!