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ダンジョン入り口

 リーサとレナさんが魔法の練習をしている。

 そんな様子をシュタイナー氏は何やら考えるように髭の生えた口元に手を当てて見つめ続ける。


「電魔法にこの様な糸口があるとは……ふむ……」

「あ、俺の所の地元独自の方法なんで下手に真似すると危ないかもしれないですよ」


 もしかしたらこれってサンダーソードの……エロッチの加護で出来ている可能性が大いにある。

 ただ、これを話すのは信用が出来る人物でないといけない。

 何分……俺もサンダーソードを奪われて殺された経験がある。

 ちょっと疑い深いかもしれないけれど、シュタイナー氏達が信頼できる確証が得られるまでは誤魔化した方が良いだろう。


「ふむ……確かに安易に真似をするのは難しい様じゃ。いずれチドリ殿にレクチャーをしてもらってから試すのが良いのかも知れんのう。レナもあの様に喜んではの」


 という感じでシュタイナー氏も一応に理解を示してくれた。

 そうしてその日は夜遅くまでレナさんは魔法の練習をし続けていたのだった。


 尚、従者の人が若干悪夢にうなされていたのは別の話だ。

 何でもレナさんが魔物に襲われている恐ろしい夢を見てしまったと青い顔をして悪夢の話をしていた。

 俺とシュタイナー氏は顔を見合わせて苦笑いしか出来なかった。


 だって……電気治療をしている最中にレナさんは声を上げていた訳だし、その声が寝ている間に耳に入って悪夢になってしまったのだろうって事くらいは想像出来るからね。

 魔法を使い過ぎて疲れたのかレナさんはリーサと寄りそうように幸せそうな寝顔をして眠っている。


「……レナの心からの笑顔を見たのは随分と久しぶりな気がするのう」


 そんなレナさんの寝顔を優しげな眼で見つめながらシュタイナー氏は呟く。


「そうなんですか?」


 いつも微笑んでくれている様な気がするけれど。


「うむ……気丈に振るまっておるが、あの子は学園で講師をしているワシの孫娘と言う重圧と、あまり上手く魔法が使えない事に対する悩みがあってのう……」


 シュタイナー氏はポツリポツリとレナさんの学園生活に関して話し始めた。

 どうもレナさんはシュタイナー氏が高名な魔術師であり、その孫であることから学園でも期待されて入学をしたらしい。

 ただ、蓋を開けてみれば魔法の才らしき物を周囲の物は感じる事は出来ず……親の七光りで学園に在籍していると周囲に浮いた存在として扱われているのだとか。

 筆記等の成績に関しては主席だったので……より妬みを受けやすかったと言うのも災いしたらしい。


「ワシも正直……薬学や調合技術の才をレナには見出しておった。おそらく薬師や錬金術師になれば自信を持って行けるのではないか……と、勧めていた所じゃ」

「そうだったんですか……」


 確かにそう言う話をしていた。

 それでも諦めきれないとレナさんも言っていたしなぁ……。

 何より割り振る前のレナさんの能力と合致する話だ。


「うむ……今回の調査に連れてきたのも、学園では息苦しかろうと思ったのと、薬学や錬金術等での助手の面が強い」

「確かに、俺もその片鱗は感じていましたよ」


 俺が薬草辞典を読んでいる事はシュタイナー氏も知っている。

 レナさんも余裕がある時、俺が絵だけ見ているページにある薬草に関して詳しく教えてくれた。

 俺の場合は技能的にサバイバル技能辺りが調合とかに引っかかっているんだろう。

 前の世界よりもこっちの世界の方がゲームっぽいし。


「今夜は随分と楽しく魔法を練習しておった。チドリ殿、またレナへの電気治療をして頂いても良いかの? 自信を持ってもらう為にも是非ともお願いしたい」


 うーん……技能の割り振りはしてしまっているからなぁ。

 出来るようになるにはスキルポイントを増やさないと無理なのではないかと思うけど……。

 リセット出来るのだろうか?

 見た感じそんな項目は無かったと思うが……材料が足りない気がする。

 いや、サンダーソードマスタリー的な勘だが。


「行う頻度はシュタイナー氏の肩凝りくらいにまでは減らせたと思いますよ」

「それならすぐに行わねば……とは思うが、随分と効果が長いのう。以前のに比べたら無いに等しいわい」


 シュタイナー氏は肩の調子が良い様で肩を回している。

 凄く楽しそうだ。


「さて……それじゃあワシ等も明日の調査に備えて早めに休むかのう」

「そうしましょうか」


 なんて感じの出来事はあったけれど、夜は過ぎて行ったのだった。




 翌日。

 朝食を終えた俺達はそのまま目的地のダンジョンへと到着した。

 馬車も通れるような大きな穴の途中にぽっかりと石造りで作られた壁があって、そこに穴が出来ている。

 ぞろぞろと調査団の者達はそれぞれ陣形を組みながら一人、また一人と入って行っている。


「……魔物の魔石目当てにこの手のダンジョンを狩り場にしている冒険者とかいますよね。そう言う人に任せては?」


 魔石が金になるのだから、ある意味、ここは資源採掘場って事になるのではないだろうか?

 にも関わらずその原因を取り除こうとするのには何か理由があると、俺の勘が告げている。


「そうなんじゃがな。ここの魔物は魔石が獲れず、討伐すると霧散してしまうのじゃ。じゃから金銭的な旨味が無く、それでありながらダンジョン内から魔物が湧き出す厄介な場所なんじゃよ」


 なるほど……旨味が無いから何か仕掛けを解いてこれ以上魔物が出て来ない様にしたいって事なのか。


「しかも出て来る魔物は割と決まっておって、厄介な攻撃をするし、戦闘経験にするにしても旨味が無いそうじゃ」


 良い事無いな。このダンジョン。

 ……まあ、俺達の目的は旨味の無い魔物が湧き出す原因の調査だから原因の除去をすれば良いだけか。


「それでは行くかの」

「はい。えっと……前衛は俺に任せてください」

「うむ」


 俺、リーサ、シュタイナー氏にレナさんのパーティーでダンジョン内に入る事になった。

 まあ、他の調査団の人もいるので少人数って感じはあんまりない。


「ほっ」


 シュタイナー氏が杖を掲げると光の玉が出て俺達を追尾しながら着いて来る。

 ランタン代わりになる魔法まであるのか。

 場合によっては松明が必要かと思ったけれど、これは助かる。


「入り口周辺は既に調査が終わっておる。出来る限り奥へと行くぞい」

「ええ、わかりました」


 そんな訳で俺達は暗いダンジョン内へと進んで行った。

 とりあえず中の感想は、ここのダンジョンを作った奴は何を考えていたのかよくわからないって事かもしれない。


 まずは曲がりくねった迷路みたいな所……それを抜けると地下に沈んだ噴水のある中庭っぽい所に出た。

 かなり広いのではないだろうか?


 で、出て来る魔物が固定と言うのは入って調査団の声や足音が聞こえなくなってすぐに遭遇した。

 オリーブグリーンビッグイグアナと言う大きなイグアナの魔物。

 ヴェノムウィッシュラディッシュという毒大根。

 それとエビルスネークと言う大きな毒を持つ4メートルくらいある蛇だ。


「魔物が出てきたぞ! 注意するのじゃ!」


 どんな魔物なのかをシュタイナー氏が教えてくれたので、すぐに戦闘態勢に入る。

 似た様な魔物が前に居た世界に居たので経験が無くて遅れを取るって事は無かったな。


「じゃあさっそく行きますね」

「毒に気を付けるのじゃぞ!」

「ええ」


 とはいえ、まずは牽制とばかりにサンダーソードを素振りしてみる。

 ……何も起こらない。

 どうなっているのかと考えて、サンダーソードの雷が落ちた時を思い出す。

 追加効果が発生するのはフィールドじゃないといけないのかもしれない。

 もしくはダンジョン内だから雷が届かないとか……何かしらの条件を満たせていない為だと思われる。

 まあ、追加効果の落雷に頼り過ぎな所があるから丁度良いかもしれない。


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