肩凝り解消
「えーっと」
「おおうっ……もっと、そう、そこじゃっ! きくううううぅぅぅぅぅっ!」
ダメだ。
聞こうと思ったのだが、シュタイナー氏は良い顔をしているだけで聞いてくれそうにない。
なんか日本に居た頃にネット内で見た背景が虹色になるネタ画像みたいな感じになっている。
だが……うん、項目も弄れてしまいそうだ。
とはいえ……この人のステータス、凄いな。
Lvは元より職業も大魔術師という魔法使いよりも遥かに上の職業だ。
ちょっと見てみると魔術師とか、火魔術師とか専門的でいろんな職業を得て至ったみたいだし。
ただ……疑問符でよくわからない所も多い。
何か理由がありそうだな。
他の職業Lvは大体『?』になっていて確認しきれなかったし。
これが熟練の人のステータスなのかって参考にさせてもらえている気分。
この修練系の中にその系統の魔法が収められているんだろう。
俺もサンダーソードマスタリーを取ったら、なんとなくだけど出来る事の区別が付いたりして、よりサンダーソードを理解できる様になったしな。
しかし……なんか気になる技能が散見する。
肩凝り腰痛って、自分で習得したのだろうか?
胃痛も関節痛も……どう考えてもマイナス技能だ。
老化などが原因でオートで取得してしまう代物である可能性が高い。
申し訳ないけど凄く困っているみたいだから勝手に振らせてもらうか。
悪事以外ならどんな事でもするって言っていたし。
念の為胃痛を弄っておこう。
すると胃痛が2から1に低下した。
それでスキルポイントが30から29にダウン。
うん、マイナス技能だ。
胃痛を消す事が出来るかと思ってもう一度振る事は……出来なかった。
下限値って事だろう。
とりあえず残っているスキルポイントを使って肩凝り腰痛と関節痛を1になるまで振った。
「あああぁぁぁぁぁぁ……! 良いぞぉおおおおっ!」
「チドリさん凄いですね。お爺ちゃんが凄く気持ち良さそう……」
レナさんがシュタイナー氏の声に驚きの声を上げている。
とりあえず……振り終わったのでサンダーソードの電気治療を停止させた。
「おおう」
パチッと電気が消えると同時にカクッとシュタイナー氏が頭を下げる。
やがて何度か瞬きをした後、シュタイナー氏は肩をぐるぐると回して驚きの表情を浮かべる。
「こ、これは凄い! 長年の凝りが取れておる!」
喜びに満ちた表情でシュタイナー氏は俺の手を握った。
「チドリ殿、感謝する。非常に助かった」
「ど、どういたしまして」
こんなマイナス技能で悩むくらいなら早く割り振れば良かったでしょうに。
なんてシュタイナー氏がお礼を言ってすぐの事。
「魔物だ!?」
運転席の人がそう声を上げた。
言われて馬車の外へ顔を出すと、キャラバンの脇から無数の鳥の群れが羽ばたきながらこっちに狙いを定めて突撃してくる。
「ピョイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
奥には親玉っぽい大きな鳥がいるな。
「ヤレヤレ……何があったかわからんが、最近魔物が随分と活発に動いておる様じゃな」
「そうですね」
シュタイナー氏が重い腰を上げて立ち上がろうとしているので俺が遮り、魔物の襲撃に止まった馬車から先に降りる。
こう言った事態ではキャラバン全員で事に当たるのは通例だ。
更に戦闘に重きを置いた冒険者が前に出なくて、何が冒険者か。
俺はサンダーソードの柄を握っていつでも抜けるように構える。
「チドリ殿?」
見た所あの一番奥に居る親玉が指揮しているみたいだ。
サンダーソードを振って全滅させるにしてもちょっと数が多い気がしなくもない。
いや、倒せない訳じゃないけれど……ちょっと無駄な気がする。
なので大将を仕留めた方が戦いやすいとの判断だ。
さて……空を飛ぶ魔物ってのは思いの外面倒臭い。
あっちの異世界でもそれはイヤと言う程、俺は経験している。
適切に戦うのなら魔法か弓等を使用して遠距離で戦うのが無難だな。
そう言った意味でリーサやシュタイナー氏達が対応するのが正しくはある。
が、前の異世界で使えた技がそのまま同じ効果で作動するのならこう言った時に役立つ技もある。
原理は不明だけど出来るのだからしょうがないと俺も強引に納得した技がさ。
尚、その技が使えても俺は魔法を使えなかった訳だけど……。
俺は……使いなれた技の構えを取り、大きな鳥目掛けて技を放つ。
ラルガー流剣術……一の型・隼を途中で中断して……二の型・鎌鼬!
「はぁ!」
居合い切りの要領でサンダーソードを抜刀した俺の剣先から三日月形の剣圧が放たれ、前に居る鳥の魔物を貫通しながら一番奥の鳥の親玉に放つ。
思わぬ攻撃に鳥の親玉も対処できずって感じでばっちり命中した。
「ピョイイイイイイイ!?」
ズバッと鮮血を出しながら鳥の魔物の親玉が地面に落下を初め、体勢を立てなそうとした直後……。
ズドンと音を立てて鳥の魔物の親玉を中心に雷が降り注いで轟音が成り響いた。
「ピィイイ――」
それだけで鳥の魔物の親玉は落下、周囲に居た鳥も同時に堕ち……配下である鳥の魔物達は雲の子を散らす様に逃げて行ったのだった。
おお、さすがはサンダーソード。
相変わらずその追加効果のお陰で簡単に魔物を仕留める事が出来たぞ。
しかも鳥は空を飛んでいる訳だし、効果的な攻撃が出来たのではないだろうか?
異世界召喚される前にやっていたゲームとかだと鳥に電気って効果的だったし。
「な……」
「さて……食料と小金稼ぎに死体の回収に行きましょうか」
「うん」
シュタイナー氏達が驚いた表情で俺達を見ていたけれど、手短に戦闘を終わらせる事が出来たんだ。
気にしない方向で行ってもらいたいかな?
ちなみに倒した魔物の名前はパープルトロンボ-ンオウムという音波と風を攻撃に使う魔物だったらしい。
配下はブルートランペットオウムと言うらしい。
死体を回収して魔石を剥いだ後はキャラバンに居た専用の職人に解体を預けて事無きを得た。
今晩は良い焼き鳥が食えそうな気がする。
魔石は俺達がもらう事が出来た。
さすがに魔石の売買は町に着いてからと言う事になった。
「いやはや……ワシの頑固な肩凝りを解してくれたし、魔物の殲滅する力を見るにチドリ殿は中々の実力者の様じゃな」
キャラバンの旅はまだまだ続いている。
馬車の中で俺達は相変わらず雑談をしている。
で、どうも肩凝りがぶり返す素振りが無いので、シュタイナー氏は大変機嫌が良い。
そりゃあアレだけ高いマイナス技能を持っていたら肩凝りも酷くなるでしょうに。
もしかしたら……本人が確認出来ない物だったのかもしれない。
「本当にすさまじい物でしたね。アレだけの魔物を即座に倒してしまうなんて」
「チドリさんは……凄く強いんです」
リーサまで俺を後押ししてくる。
う~ん、照れるな。
「いえいえ……大したことでは無いですよ」
これは事実だ。
全てサンダーソードのお陰ですとしか俺には言えない。
だって前の世界じゃ中堅ギリギリでしたし。
なんでもサンダーソードに頼り切りになってしまって奢るような事が無いように自制したいけれど、サンダーソード以外の武器は使いたくないというジレンマ。
意識する事で雷が出ない様にする事も出来そうだから、しばらくそれで戦って見るのも良いかもしれない。
手加減しているみたいでそれはそれで失礼な気もするけど……悩ましいな。
どちらにしても言える事は一つだけだ。
サンダーソードに相応しい実力が得られる様、今後も努めて行きたい。
「これはリーサ殿には馬車に居る間、ワシが教えられる範囲で出来る限り教えんと礼が出来そうにないわい」
「えっと……がんばります」
まあ、気を良くしてくれたのなら良いかもしれない。
この機会にリーサももっと魔法を覚えたいと思っているみたいだしね。
「ところでチドリ殿は確かイストラへと向かっておるのだったか?」
「一応って所ですね。特にコレって目的地は無いんですよ」
「ふむ……ではもう少しした所でワシ達はとあるダンジョンの調査に行くのじゃが、同行してもらえんか? もちろん相応に報酬を出そう」




