電気マッサージ
イストラ行きへの乗り合いの馬車に乗って数日……。
乗り合いの馬車は途中で複数の馬車……商人の引く馬車等と合流してキャラバンへと変貌していた。
どうも町から町への移動は目的地が一緒ならば固まって移動する方がメリットが多くなるそうだ。
数が多ければそれだけ有利だもんな。盗賊等に襲われても対処しやすくなる。
難点は組織だった襲撃には弱い点もあるけれど、それを言ったらキリがない。
旅をする面でもメリットが無い訳じゃない。
休憩中に他の馬車が開いている店の商品を購入出来たりするし、魔物が現れたら倒して素材を売る事も出来る。
まあ……解体とかは専門の人にやってもらった方が結果的に良いのだけどさ。
俺はキャラバン内の本売りをしている商人から薬草辞典を購入して読書をしている。
文字は読めないけれどイラストで書かれているから、どんな薬草なのかの判断が出来る様になる。
どんな効能があるのかは後で人に聞くなりして調べれば良い訳だしね。
前に居た異世界に居た時も文字を覚えるのは中々大変だったなぁ。
とはいえ、人間必要に迫られれば覚えも早いってね。
文法に関しては多少だけど勘が養われている。
時間は多少掛るけれど文字を読む事は出来るようになるはずだ。
というか……技能で覚えれば良いのか?
いや、俺はサンダーソードに相応しい男になると決めているんだ。
サンダーソードを極めるまでは他に振る気は無い。
なので他の部分は自力で習得するつもりだ。
幸いなのは簡単な文法から文字の形状を読み解くことで取っ掛かりは掴めて来ている。
一目で読める様になるにはまだまだ掛るだろうが1年もあれば多少は身に付くだろう。
「まあ、とりあえず講義はこれくらいにしておくかのう」
で、俺が読書をしている傍でリーサはキャラバン内で知り合ったお爺さんに魔法の初歩の初歩の基礎授業を教わっていた。
このお爺さん、同じ目的地へ行く途中の客同士……とはいえ、個人のやや豪華な馬車があるにも関わらず俺達の馬車に仮乗りして移動の合間に教えてくれている感じだ。
ああ、もちろん、お礼にお金は渡す事を約束しているし、前金は渡している。
「あ、ありがとうございました」
リーサが感謝の言葉を述べて頭を下げている。
「ほっほっほ……気にせんでよろしい。どうせ移動の暇な時間に教える簡単な説明でしかないのでな」
「いやぁ、本当に助かりますよ。俺は魔法を教える事は出来ないので」
読んでいた薬草辞典を閉じてお爺さんにお礼を述べる。
ちなみにこのお爺さんの名前はシュタイナー=トーレルと言う。
「いやいや、ここまで熱心に教わる姿勢を見せる者はこちらも気持ちが良い物でな」
「私も基礎の復習になっていますわ。お金も頂いていますし、チドリ……さんは気にしなくて良いですよ」
今、俺に向かってしゃべったのはお爺さんの孫娘であるレナ=トーレルと言う……かなり可愛い女の子だ。
リーサよりも年上の17歳で祖父と一緒に馬車で移動している最中の様だ。
茶髪ロングで肌もきれいで、清楚な感じで顔も良く、質の良さそうな服を着ている。
どこかの金持ちだってのは一目でわかる。
どう言った経緯で知り合ったのかと言うと、キャラバンの休憩中にこのレナさんがリーサに声を掛けた事が始まりだった。
「レナもリーサと知り合って退屈な馬車の旅を楽しんでおる。こちらこそ礼を言うべきじゃろう」
「あ、ありがとうございます……」
リーサが恥ずかしそうに頬を赤く染めて俯く。
「ああ、リーサちゃん可愛いわ!」
その様子をレナさんが可愛らしいって顔で抱き締める。
このキャラバン内だと年齢が近くて話が通じそうな女の子がリーサ以外居なかったのが原因かな?
しかもリーサは俺基準だけど美少女だもんな……幸薄い感じの美少女って感じで。
近くで見てると本当に献身的と言うか俺の為に気を使ってくれるし、どうにかしてあげたい欲求を刺激される。
それがレナさんの琴線にも引っかかったのだろうか?
悪い言い方をすると美少女故に保護欲を刺激されるって感じだね。
レナさんも負けないくらいの美少女だとは思うんだけどなぁ。
ここ数日、レナさんはリーサの髪を空いたり色々としていた。
「そ、それじゃあ……教わった魔法の練習をしますので」
「うむ、常に精進あるのみじゃ」
って事でリーサは馬車の中でシュタイナー氏から教わった魔法の練習を始める。
小さな火を出す魔法を出せなくなるまで出し続ける練習だ。
意識せずとも出せるようになる事が始まりだとかなんとか。
一応、詠唱とかもあるみたいで、その魔法の基礎も一緒に教わっていたな。
教わった単語を定期的に呟く感じでリーサは練習を始めた。
ちなみにリーサは水の魔法適性が抜群に高いらしい。
シュタイナー氏が少し基礎を教えるだけで水の魔法だけはすぐに覚えてしまった。
まあ、水龍の腕輪を所持しているし、初めて使った魔法も腕輪経由で覚えた感じだからなのかもしれない。
そんな様子をレナさんが……なんかちょっと羨ましそうに見ている気がした。
ちょっと気になるが、とりあえず考えを戻す。
このシュタイナー氏は魔法学園で教鞭を振るう教師であるんだとか。
場合によっては彼等が仕事をしている学園にリーサを入学させるのも良いかもしれない。
学費次第だけど……結構な大金を持っているし、リーサの今後に良いのなら悪い手では無い。
「しっかりと学んで行けばいずれ良い魔術師になれるかも知れんな」
「ええ」
そんなリーサの練習風景を微笑ましく見ているシュタイナー氏の言葉に俺も同意する。
「ふう……」
やがて話を終えた所でシュタイナー氏が肩に手を当てて回し始めた。
どうやら肩が疲れてきた様だ。
そりゃあこんな馬車の中で一日中じっとしていたら肩も凝るか。
特に何もしていない時は何か難しそうな本を読んでいたし……。
「肩を揉みますよ」
俺は馬車の中で立ち上がってシュタイナー氏の背中側に移動する。
「いや、さすがにそこまでしてもらわんでも――」
「いえいえ、色々と良くしてもらっておりますし、これくらいどうってことないですから」
リーサに魔法を教えてくれているんだ。
金銭以外のお礼をしたい。
「じゃがワシの肩凝りは頑固じゃぞ? 正直、この肩凝りを消せるのなら悪事以外ならどんな事でもするぞ」
「ええ、お爺ちゃんの肩は筋金入りですよ? 私も揉んで上げるのが凄く大変なんですから」
レナさんまで言っている。
そんなにも凄いのか……。
「お気になさらずに」
と、俺はシュタイナー氏の肩に手を乗せてリーサの足を揉んだ時の様にマッサージを……くっ……確かに滅茶苦茶硬いな。
石かってくらい凝り固まっている。
もはや病気に近いぞ。
薬で筋肉を柔らかくした方が良いんじゃないかって位硬い!
ふん! ふん!
「お? おお……まあまあじゃ。本当にすまんのう」
石化しているのかってくらいの肩の凝りに俺は力を込めて揉み続ける。
うう……これなら石を揉んだ方が良い位だ。
恐ろしい硬さ……手にマメが出来そうな気がしてきた。
どうにか出来る手段は無いか?
と言う所で閃いた。
「シュタイナーさん、俺の地元では電気治療という物があるのですが、それをシュタイナーさんに施してもよろしいでしょうか?」
「ん? なんじゃ雷の魔法が使えるのか?」
「魔法とは少々違うのですが、何分地元の秘術みたいなものでしてね」
「ふむ……まあ良い。ワシは魔法防御が高いのでな。効くかはわからんが」
その返事はどうなんだ? レジストするって言いたいのか?
俺はサンダーソードを鞘に入れたままシュタイナー氏の背中に当て、弱電を発生させる。
イメージだと電気治療だ。
腰痛とかに効くと聞いたけれど肩凝りもカバーしているだろう。
出来るかと言うとちょっと気になっただけなんだけど。
どうもサンダーソードは俺の要望に対してある程度応えてくれるみたいなので、やってみた。
パチパチッとサンダーソードの鍔の辺りからシュタイナー氏に向かって電気を放出する。
「お……おお……これは中々……」
シュタイナー氏が痛気持ち良いのか、声を出し始める。
効果がある気はしたけれど、良さそうだな。
物凄く頑固な肩凝りだった。
これくらいしないと解す事も出来ないか。
「あ、あぁぁぁ……いい、良いぞ。これはワシも雷魔法に関して研究を……おおぅ」
シュタイナー氏が気持ち良さから喘ぎ始める。
良い感じにマッサージが出来ているな。
なんて思っていると、シュタイナー氏の背中から何かが飛び出して俺の目の前に広がった。
シュタイナー=トーレル Lv?5 男 種族 ハーフノーム 職業 大魔術師Lv39
習得技能 魔力向?9 知識向上9 体力向上3 視力向上3 魔力操作7 マジッ?マスタリー10
スタッフマスタリー8 ローブマスタリー7
魔力回復力向上9 火属性魔法修練9 四属性魔法修練7 神聖魔法修練8 闇魔法修練6 合成魔法修練7 補助魔法修練9
調合技能6 交渉術7 賢?の知? 古??法?識5
肩凝り腰痛10 胃痛2 関節痛5
スキルポイント30
……なんかシュタイナー氏のステータスが閲覧出来てしまっている。
もしやこれは体内の魔石を電気伝いで干渉してしまっているのではないか?
これはヤバイのでは?




