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剣術道場

 それから数日後の事。


「はぁあああ!」

「おっと!」


 俺は家の庭でサレルの稽古の相手をしていた。

 サレルに関してなのだが、倒すべき相手を倒した影響か、以前よりも多少明るくなった。


 で、当てもなく冒険に出るよりも、今は俺達の元で力を身につけたいそうで、半ば居候という形で俺達の家に住む事になった。

 ああ、もちろん宿泊費は出すつもりらしい。

 何だかんだ家は部屋が多くてね。

 サレルが居候をしたくらいでは部屋が埋まり切る事は無い。

 ちなみに有耶無耶になっていたリーサ誘拐による罪だが、ブレイスリザードの討伐に貢献した事と俺が保護者というか、監督する事で免除してもらっていたりする。


 なんて考えながらサレルの放つ素早い剣戟を往なす。

 それから再度、型をサレルに手本として見せる。


「剣の持ち方、構えはこう!」

「こ、こうか?」

「そうそう」


 それでなんだけど、サレルは俺に剣術を教えてほしいと願い出た。

 というのも……。


『ザノハールの話を聞くに、もしかしたら姉さんやリーサの様な思いをしている奴がまだいるかもしれない』


 そんな人達の助けになるには強さが必要だとサレルは言った。

 結果、俺の弟子になるのが強くなるのに一番の近道だと思ったらしい。

 しかし、俺の腕前は中堅。

 教える程上手な訳ではないが、サレルには確かに才能を感じる。


「その調子で良い。まずは第一の型である隼をしっかりと使いこなせるようにならなきゃね」


 何せラルガー流を真に使いこなすには左利きでなくてはいけない。

 サレルはその点で言えば十分すぎるほどの才能がある。

 基礎にして真髄であるのが隼なんだ。

 この移動の型と剣の動きを正しく理解しなくてはラルガー流を極める事は出来ない。

 俺もまだまだ未熟者なんだけどさ。


「わかった。一日でも早く習得して見せる」


 ブレイスリザードを倒したお陰で近くにいたサレルのLvも上がっていたし、スキルポイントも増えていた。

 今の所サレルの習得できる技能にラルガー流は出ていない。

 けれど、こうして稽古をしていけばサレルがラルガー流を習得できる日が来るかもしれない。


 どうしてそんな確信が出来るかと言うのなら……サンダーソードを持った時の勘と、今までの電気マッサージの経験から、かな。

 人によって習得できる技能に違いはあるけれど、何かしら努力をしている人だと無かったはずの技能の項目が出ている事があったからだ。

 しっかりと出てきたら割り振れば覚えるのは早いはず。

 俺よりも剣術の腕前は上になるかもしれないな。


 そんな訳で余裕のある日はサレルの稽古をしている。

 なんか平和な日々だな。


 そうそう……昨日の事なのだが、ルーフェの奴がな。

 小さくなったお陰で家の中に入る事が出来るようになったルーフェにも部屋を与えられて、色々と生活するようになった。

 で、家にはお風呂もある訳で、リーサと一緒に俺より先に入浴を楽しんだ。


「チドリさん、お風呂あがったよ」

「うん、ありがとう」


 ちなみに風呂を沸かすのは基本リーサだ。火の魔法の練習で沸かしてくれる。

 だからリーサが家の中で一番風呂に入ると決まりを作った。

 で……ルーフェはよくリーサと一緒にお風呂に入るようになったみたいなんだが……。

 俺が脱衣所で服を脱いで風呂場に行くと……。


「ルル、チドリ! 待ってた!」


 ルーフェがなんか桶に泡を貯めて、腹にタオルを巻いて俺を出迎えてきた。

 俺は無言で一度脱衣所に戻る。


「チドリ、どうしたの?」

「えっと、それは何の真似なんだ?」

「ルル? お背中流す手伝い?」


 ああ、怪しげな風俗とかの真似じゃないのね。


「そう教わった。こうするとチドリが喜ぶって」


 何の疑問もなくルーフェは俺にそう言った。

 まあ、ルーフェはな、健気なドラゴンだよな。

 俺達と一緒に生活がしたいってスタンスは変わらないし、相変わらず何を覚えたいのか聞くと戦闘よりも家庭的な事をもっと覚えたいって言うしね。


 とりあえずその日の晩はルーフェに背中を流してもらったよ。

 ただ、それだけだけどさ。


 でだ……サレルと稽古をしていると。


「おーい。紫電の剣士ー」

「おお、よく来たな」


 そんなルーフェに妙な事を吹き込んだ連中が親しげに手を振ってやってきたので、俺は隼を駆使して首謀者こと、ルーフェの友人をしている冒険者のリーダーの頭を鷲掴みにする。


「お、おう? いきなりどうしたんだ? 紫電の剣士」

「ルーフェに妙な事を教えないでほしいんだが」

「な、何の事かな? オレにはまったくわからねぇぜ!?」


 魔物故か世間知らずな面があるルーフェに妙な話を話されてはたまらん。


「ルーフェネットは紫電の剣士に尽くしたいみたいだから、サービスってのを教えてやっただけだ! 後悔は無い!」


 言い切りやがった!

 わからないんじゃないのか。


「それより紫電の剣士。ルーフェネットに早くヴィーヴルに変身する方法を教えるんだ! いだだだ!」


 冒険者のリーダーに込める手の力を強める。

 お前はルーフェを何だと思ってんだよ!

 ちなみにヴィーヴルへの変身をルーフェは出来ていない。

 どういった条件で変身する種類が増えるのかはサンダーソードでもわからないしね。


「まったく……ルーフェに用か?」


 ルーフェは今、主婦達の元で料理教室に参加している。

 小型になった事を驚かれたが、親しみやすい姿になったとの事で近所の奥様達には好評だ。


「いや、ちげえよ」

「ああ」

「今日はルーフェネットに会いに来たんじゃない」


 冒険者達は揃って答える。

 ルーフェ以外で彼等が何の用でここに来るんだ?


「紫電の剣士が剣術道場を開いているって聞いたんで、俺達も入れてほしいと思って来たんだ!」


 ……はい?


「もちろんタダじゃねえのは知ってる。金は持ってきたぜ」


 冒険者達は各々硬貨を出して見せてくる。

 なんで並んでます、みたいな雰囲気を出しているんだ?

 しかもその背後には孤児院の孤児達も混じってるぞ!?

 そりゃあサレルに稽古をつけているけど、それを誤解でもされたって事か?


「あー……まあ……」


 一体どうしたらいいんだろうか。

 別にラルガー流は門外不出って訳でもないし、教えても良いんだけど、どうしてそんな噂が広まったんだよ。

 ブレイスリザードを倒した所為か?

 おそらくそうだろうとは思うが!


「おい、お前が剣術道場を開くって聞いたんだが……」


 何故か教官までやってきた。


「いえ、最近サレルに教えていますが、そんな事を始めた覚えはないんですけどね」

「噂が一人歩きしたって事か。まあ、名を馳せるほどの凶悪な魔物を三匹も特に怪我も無く倒したんだから、教わりたいって奴が出てくるのは当然だな」


 教官が弟子入り希望の連中を見てバカにするような笑みを浮かべて言った。


「ま、がんばれよ。紫電の剣士様」


 サレルだけならともかく、どうしてこうなった!?

 俺はサンダーソードとエロッチに誇れるように生きていきたいだけなのに……。


「強いって言うのも大変なんだな……」


 サレルが気の抜ける様な事を言ってくる。

 こりゃあリーサには悪いけれど、どこか遠くに冒険に出た方が良いかもしれない。

 なんて思いながら、俺はイストラの街での平和な日常を楽しむのだった。

二章完です。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の謙虚さとお惚けぶりがとても良いです。 [気になる点] 鈍感な千鳥のコイバナはないのかしら? [一言] あれ❓地竜と風竜はどうしたのかな?
[一言] まさかの打ち切りエンド
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