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念願のサンダーソード

「――念願のサンダーソードを手に入れたぞ!」


 苦節十年……俺が異世界に来てから既に十年が経っていた。

 というのも十年前、世界を救う勇者として地球人が何人も召喚されたのだ。

 その中に俺、文月千鳥も含まれていた。


 召喚された勇者はみんな特別な力を有している。

 しかし、俺は一緒に召喚された奴等に比べて特別秀でた能力が無かった。

 あ、異世界の人となら大抵話が出来る翻訳の能力は標準搭載で所持していたけどさ。

 当時は多少凹んだが、まあそれはそれで気楽でもある。

 召喚した国も責任は感じていたらしく毎月金銭援助をしてくれて、それだけの金があれば幻想的な異世界をのんびりと堪能する事も出来る。

 なので、世界の命運は他の連中に任せて、俺はスローライフでも決め込もうと考えていた。


 あの剣――サンダーソードと出会うまでは……。


 サンダーソード。

 この世界に存在する神の一柱、雷神エロッチの加護を受けた剣。

 邪神三柱を相手にたった一柱で戦った神様の加護だ。

 要するに特別な剣でもある。


 俺はその剣をとある武器屋で偶然目にした。

 文字通り電撃が走る様な思いだった。

 あの剣が欲しい! あの剣を使いたい!

 そう思わずにはいられなかった。それだけの不思議な誘惑が剣から放たれていた。

 ただ、友人知人はよくわからないらしい。


 サンダーソードはその出生に相応しく、非常に高額だ。

 俺を召喚した国に強請っても手に入らない。奇妙な事情が存在する。

 何より俺の評価はあまり高く無かったので、他人に頼って手に入れるのは難しかった。

 そもそもサンダーソードと同じ金額を積めるならば、もっと良い武器が無数に存在する。

 値段に見合わないと言っても過言ではない。

 国家が異世界人の道楽に付き合ってくれる程、安い訳でもなく、性能が良い訳でもない武器を与えるはずもなかった。


 しかも、その剣は本当に神の加護が掛っており、手にする事すら条件が必要となる。

 それは、金と……条件不明の何か。

 購入に必要な金銭を剣に捧げなければ触る事すら許されない。

 よくわからないが、それが神の加護というモノみたいだ。

 つまり武器屋の店主と交渉して、値引きする事も出来ない。

 ……と説明された。


 このサンダーソードとの出会いが俺の運命を変えた。

 国や他人を頼れないと悟った俺は自分の力でサンダーソードを購入する事を決意した。


 そう決めた訳だが、サンダーソードの値段は尋常じゃない。

 普通の人間が一生を掛けても手に入らない金額だ。

 それだけの金銭を稼ぐには、普通の仕事では不可能だ。


 なので、収入と出費の激しい職業である冒険者になる事にした。

 理由としては、勇者が召喚される様な世界だ。

 戦いを生業にする冒険者が儲かる時代でもあった。


 商人という手もあったが、サンダーソードが欲しい訳だから、最終的に俺は剣士になりたい……はず。

 そんな俺が商人になってサンダーソードを手に入れるより、剣術という意味でサンダーソードに相応しい力を得る必要があると考えた。

 だから、サンダーソードを購入するまでの期間、冒険者をするのは修業という側面もあると思う。


 そうして冒険者業に身を投じた訳だが……正直大変だった。

 元々異世界人としても特別強い訳でもないし、この世界に来るまでまともに喧嘩もした事が無い様なありさまだったからな。

 だが、サンダーソードを手に入れたい、という消えない想いが俺を突き動かしてくれた。


 がんばって剣の使い方を覚えたし、冒険者としての心得も覚えた。

 同業者達が金をじゃんじゃん使っている中、節制を心掛けてお金を貯めた。


 もちろんドケチになるのは違うという、漠然とした考えもあったので、冒険者同士や異世界人同士の交流も出来るだけ続けた。

 同業者でコネクションを構築しておけば仕事が回ってくる可能性も高くなるし、戦闘的に秀でる他の異世界人と交友を持っていれば利点も多い。


 当然、俺に比べて強い彼等を羨ましいという思いはあったと思う。

 だけど、いつかサンダーソードを買うんだと考えたら、そんなちっぽけな嫉妬は消えていた。

 そうして腐らずにいたら彼等からの評価も悪い物ばかりではなく、友好も築けた。


 何度も死に掛けたし、辛い事も沢山あった。

 だけど、サンダーソードの為にがんばれたんだ。

 悪どく稼ぐ方法も無い訳じゃ無かったけれど、あの剣を持つのに相応しい存在になりたくて良いことでお金を稼ぐ事を決めた結果、随分と遠回りしてしまった。


 そして……気が付けば十年が経っていて、冒険者としてはベテランの分類に入っていた。

 俺の手にはサンダーソードを購入出来る金銭が貯まっていた。

 だから、すぐにサンダーソードを買う為に武器屋へ向かった。


 時々見に行っていたし、武器屋の店主とは顔見知りだ。

 まあ十年の付き合いになるので、店主も俺がサンダーソードの虜になっている事を知っている。

 なので、お金を見せた時は喜んでくれた。

 まあ、店の名物兼不良在庫を買ってくれる訳だから、別の意味で嬉しいのかもしれないが。


 俺は金銭を店主に見せてからサンダーソードの前に掲げる。

 すると俺の十年の財産はふわりと光りを放って浮かびあがり、何処かへと消え去って行った。

 そして……サンダーソードを守っている何か結界の様な物が消え去る。

 俺は徐に手を伸ばし、サンダーソードの柄に触れ強く握る。

 若干ピリッとした様な気がしたが、苦も無くサンダーソードは俺の手に収まった。


「よっしゃー!」


 こういう経緯があって、俺は念願のサンダーソードを手に入れたのだ!

 俺は雄たけびを上げた後、鞘にサンダーソードを納めて武器屋を後にした。




 ……。


 …………。


 ………………。


「何をする!」


 そう叫びながら飛び起きた。

 のだが……辺りは俺の想像していた光景とは違っていた。


 神殿とでも表現すれば良いんだろうか?

 広大な石畳が敷かれ、洗練された建造物が見える。

 まさに神殿。

 この世界の神殿を大きくして、豪華にした感じだ。


「それが貴様の最後の言葉だったな……」

「誰だ!」


 振り返ると筋肉がムキムキの禿げた爺さんが立っていた。

 頭はツルツルだが、白い髭が生えており、異様に長い。

 どこぞの仙人みたいな姿だ。


「我が名はエロッチ。哀れな最後を迎えた貴様に提案をする為、ここに招いた」


 エロッチ?

 確かこの世界の神様の名前だったはず。

 俺のサンダーソードに加護を掛けた神様だから覚えている。


 いや、さすがに本物ではないだろう。

 神様の名前を自分に付けるとか年寄りの癖に恥かしい奴だな。

 そもそもエロッチとか、日本人的には酷い名前だと思う。

 この世界の人達は特に何も感じていないみたいなので、日本人特有の感性なんだけどさ。

 でも、エロッチはないよな。


「うるさい。異世界人はどいつもこいつもワシの名前を恥かしいなどと言いおって……これだから異世界人は……」


 な、何?

 俺は口には出していないはずだが?


「口には出していないはずだが? と思っておるだろう?」


 やはり心を読まれている!?

 あれか、サトリ的な能力を持った奴か。

 どんな思惑があるかは不明だが、敵だったらやばいぞ。

 そう警戒しながら俺は腰に提げていたサンダーソードの柄に手を伸ばした。

 が……空を切った。


「な、ないっ!」


 サンダーソードが、俺のサンダーソードが無い!

 全財産をはたいて買った、俺のサンダーソードが!


「ああ、実に哀れだと思ってな……アレだけの徳を積み、サンダーソードを手にしてあの結末は……な」

「何か知っているのか?」


 エロッチと名乗ったムキムキサトリ仙人が同情の目を向けてくる。

 敵意は無さそうだが、何故そんな感情を向けられているのかわからない。


「ムキムキサトリ仙人と思うのをやめろ。端的に言えば、貴様は死んだ」


 俺が死んだ? どうして俺が?

 というか、ここに来るまでの記憶が無い。

 いや、薄ぼんやりとサンダーソードを手に入れた後の記憶が蘇ってきた。


 俺はサンダーソードを手に入れて舞い上がっていた。

 足取りは軽く、これから大冒険が始まると心が躍っていた位だ。


 そこで……野蛮な目つきをした連中に取り囲まれ……そして……。

 意識が消えるほんの僅かな時間、俺はこう言った。


「な、何をする……」


初めに読んでくださりありがとうございます。

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