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β  作者: みち木遊
2/2

β No.002

遅くなりましたがβの続きです。

特撮のワクワク感が伝わっていると嬉しいです。

 前回までのあらすじ。

 俺こと古海ふるみ 宗司そうじは旅から日本に帰ってきた夜に、デカハサミ怪物に襲われてしまう。

 死んだと思えば、なんてことだ、傷付けられたはずの部分が何事もなかったように塞がってるじゃないか、それに、記憶にもない公園で寝かされているし。

 そんな俺を公園で見つけてくれた上に、服まで買ってくれた恩人、新田にいだエミ。

 俺は彼女のお礼代わりに買い物を手伝うことにしたのだが、その途中で、再びデカハサミ怪物に出会う。

 俺は、エミちゃんを先に逃がし、応戦するも、歯が立たず、そのまま膝をついてしまった。

 その時、どこかで声が聞こえ、その声に答えると、俺の姿はたちまち化け物みたいに変わり、なんとデカハサミ怪物を撃破した。

 でも、疲れで、変身が解けた直後に気絶してしまった。

 そんな俺の終始を遠くで見ていた謎の男、コイツは誰だ!?

 第二話、始まるよ!




  二話「種子と怪物のどっちつかず」




 古海は目を覚ます。

 戦いを思い出して、目を覚ます。

 体を勢いよく起こし、あたりをグルグルと見回しながら


 「あの後、俺は、怪物が消えて、どうなったんだ!?」


 と、誰でもいいから答えてくれと言わんばかりに叫んだ。

 しかしそこには誰もおらず、窓と思わしきところにカーテンが掛けられた病院の個室だけが広がるばかりだった。

 古海は少し、あたりを見回し、自分があの戦いの後に倒れ、何者かに呼ばれた救急車で病院ここに運ばれたのが妥当だろう、そう考え、ため息を付いた。

 近くにあった時計を見れば、八時を短針は指示している。

 カーテンが掛かっているのを見るに、午後の方だという事は容易に想像がついた。


 「…はぁ、なんなんだ、本当に」


 古海は頭を押さえ、ため息を付く。

 全部がありえないはずの体験なのに、それを体験してしまっている。

 戸惑いというよりも、驚きだけが頭を駆け巡る。

 それでも、古海はそうしているだけでは進まないことを知っていた。

 だから、無理やり受け入れ、静かにまた体を横にした。

 そのまま、ぼそっと、


 「俺の体…、どうなってんだろ…?」


 素朴な疑問を口にし、天井を見つめた。




 気づけば寝ていたらしく、古海は再び目を覚ますと、カーテンは開けられ、朝日が窓から入り込んでいた。

 その光を目に焼き付けさせられるような光景の中、体を起こし、古海は窓の外を見る。

 そして、旅の間に変わった日本の街並みがそこに広がり、呆然としてしまう。

 まるでおかしくなって仕舞った古海自身の状況と重なるように、古海の目には鮮烈に町並みが焼き付いた。

 そうしている、古海に、


 「うわぁ、古海さんが、古海さんがぁ!!」


 呼びかけているんだか、なんだかわからない知った声の叫び声が聞こえ、窓の対面にある病室の入口の方へ向くとそこには腰が抜けたようにへたり座りこんだ新田がいた。


 「ねぇ、エミちゃん、いくらなんでも、病院で叫ばないでよ」


 古海はそう言って、口元に人差し指を立て、近づけ、シー、と注意する。


 「す、すみません…。で、でも、搬送されたとき、古海さん、瀕死の重態だったんですよ。なのに、見た感じ、傷とかなくなってるし…」


 新田は古海の体をまじまじと見ながら、その時の状況と、今を比較して言った。


 「え…、瀕死って、ホント?」


 新田の言葉に古見は驚き、聞き返すと、


 「本当ですよ、心配したんですから」


 と、嬉しそうに新田は笑って、立ち上がり、古海のいるベッドに近付いて、そのすぐそばに置かれたパイプ椅子に座る。


 「…ナースコール押した方がいんでしょうか?」


 そして、なんとも言い辛そうに、新田は古海に素朴な質問をすると、


 「んー、なんか歩けそうだから、自分で何とかするよ」


 と、古海は返し、新井田から自分が倒れた後のことを教えてもらった。

 後から心配になった新田が目撃者たちから情報を集め、三時間かけて、古海を探した事。

 全身傷だらけで倒れている古海を見つけ病院に連絡した事。

 古海を除きそこにいた人たちほとんどに警察の取り調べがあり、どういう訳か、治療費含め、化け物が暴れた被害に掛かるお金を警察が負担してくれた事。

 そして、化け物関連の事を関係者以外に公言してはいけないと誓約書まで書かされた事。

 そんなことを、古海は聞いた。

 聞いて、古海は頷いて、受け入れることにした。

 それを理解しようとしたところで呑み込めなくなるのはわかっているから。

 そして、古海は言う。


 「それにしても、エミちゃんが無傷で何よりだよ」


 その言葉に新田は、


 「…古海さん、何か、変ですよね」


 そう、呟く様に返した。

 その表情は、どうしてか、悲しそうな表情をしていた。


 「どうして?」


 対して、キョトンとした表情で新田に聞き返す古海に新田は答える。


 「古海さんって、自分のこと考えていますか?」


 それに古海はあたりまえと言ったように、


 「そりゃあ、考えているよ。風邪ひかないように健康管理はしているし、こういう生活だから、その日だけでもちゃんと暮らせるように日雇いの仕事だってちゃんとやってるんだから」


 『古海の中』の答えを言った。

 新田は古海の答えに、やっぱりか、と思った。

 そして、新田は言う。


 「そんなの普通以前の問題なんです。古海さんの言ったことは最低限、必要な事なんです。私が聞きたかったのは、自分の事をなんで大切にしないのか、ってことなんです」


 「…」


 その新田の言葉に、古海は少し考えるような仕草をして、


 「…理由は言いたくはないんだけど、少なくとも、俺は――」


 古海はそう言って一度区切り、


 「俺がこうして生きるって決めた日から、誰かを助けるって事しか考えてないよ」


 自分のことなんて考えていない、言葉に出さなくともそう言っている気がしたのを新田は感じた。

 それと同時に古海 宗司という男に恐怖を抱き、自分だけでもこの男を心配してやりたい、と思った。

 だから、新田は古海の手をゆっくりと取り、新田の目さんまで上げ、言う。


 「なら、私の近くにいてください。店長をどうにか言いくるめて、古海さんの泊っている部屋を古海さんの家にします」


 それに古海は苦笑いを浮かべて、


 「それはうれしいけど…、店長さん、かわいそうじゃない?」


 と、聞いた。


 「気にしないでください、店長なんで」


 新田は、やっぱり、と形容するような古海をなだめるようにそう言って携帯を意地悪そうな笑みと共にチラッと見せた。

 そして、そのまま、なにかを操作する仕草をして、携帯を耳に当てだした。

 常識外れの大概、限度というものがあるはずなのだが、新井田はそんなの関係なかった。

 いくら個室と言えどそこで電話をしだしたのだ。

 相手は例の呉服屋の店主。

 その行動に古海は制止を呼びかけたのだが、そうする前にはすでに通話を開始していたせいで、古海の行動は不発となって終わってしまった。

 そしてそこから二十分経った今、やっと新田は通話を切り、ゆっくりと古海の方を向くと、サムズアップした。

 その意味は、『居候してもいいって言ってました』、という事は別に言う必要もなくわかり、


 「店長さん、二十分粘って、負けたんだ…」


 と、同情と憐れみの言葉を呟いた。




 新田はその後、大学の講義があると言って、また呉服屋の住所と大体の一を書き留めたメモ用紙を古海に渡して、病室から出ていった。

 新田を見送った古海はナースステーションに自らの足で向かい、看護士に驚かれながらも、その日の内に検査を受け、問題ないと判断されて、めでたく早期退院することになった。

 検診の時先生から、瀕死の重態での搬送から二日程度で全快した僕に、人間なのか?、と疑われたが、人間じゃないならこういう検査できないじゃん、と少し怒りながら返すとぐうの音も出なかったらしく、先生は引き下がった。

 そして、診断の終わりに、この町の警察署にその日の内に行け、と言われ、病院から解放され、そこを後にした。

 という事で警察署に向かって、事情聴取を受けることにした古海はそこでは単純な物だったがいろいろと聞かれた。

 変な化け物について。

 当時の状況について。

 そして、これ古海は意図が解らなかったのだが、体の変化についてだった。

 あとは他愛のない身の上話と世間話。

 もちろん、時9文が化け物に姿を変えたことは言っていない。

 旅人をしている古海に少し興味深そうに体験談を聞いていた担当の刑事さん、罪納ざいな 有馬ゆうまと名乗った男は彼自身の名刺を差し出し、「また会う機会があればお話を伺わさせて下さい」と言い残し、古海を外に帰したのだった。

 この一連のことが終るまでおよそ五時間。

 その後は、メモ通りに古海は呉服屋へと向かい、その店長と顔を合わせ今に至る。

 現在、古海の眼の前にいる、ハンチングハットとデニムのエプロンを付けた中年より少し上の年層であろう男性、彼が例の呉服屋の店長だった。

 名前は半田はんだ たくみと言い、見た目こそ少し怖いモノの、笑顔を絶やさない優しい男だった。

 彼は古海に「まぁ、エミちゃんにあんだけ強請ねだられたら、ねぇ」、と言い笑って、古海を快く居候として引き受けてくれた。

 しかし、タダでは居候にはさせてはもらえず、不定期ながらも週に一回と言うあまりにも少ない頻度での仕事の手伝いを約束させられた。

 それは古海にとっては、ありがたいことではあったのだが、それ以外にも、次の旅に行く為の資金集めでバイトに行かなくてはならない為、どうしても、不定期というのは面倒臭いことになっていた。

 それでも、その日暮らしの生活に屋根が生まれたことには変わりはないわけで、古海はそのことに大いに喜んだのであった。

 そして今、半田と古海は意気投合し、話に花を咲かせていた。


 「やっぱり、ロシアは相変わらずそうだったのか」


 「十年前と変わってないのってすごいですよね」


 半田も過去に様々な国に足を運んでいた経験があったらしく、それなりに話題が合って、信仰を深めている。


 「それにしても、あそこは砂漠と違う寒さで辛いんですよ」


 「古海君は砂漠のある国にも言ったことがあるのか?」


 「ええ、もういろんなところに言ってますからね」


 「国境越えのプロじゃないか、ははは」


 「そんな名誉な事、ありがとうございます。あははは」


 話が広がり、最終的には二人で大笑いをしていると、


 「何がおかしいんですか?」


 新田が大学の講義から帰って来たらしく、二人の間にひょこっ、と顔を出した。

 それに古海と半田は仲良く、「「うわぁっ!?」」と驚き跳ねた。


 「酷くないですか?…それにしても、仲良くなったんですね、店長と古海さん」


 そう言って、新田は笑顔で胸を撫で下ろした。

 それに古海は、


 「居候のコト、頼んでくれてありがとう、エミちゃん」


 そう言って、笑いかけた。

 それに新田は返すように、


 「いいえ、気にしないでください」


 と、笑ってそう言った。

 古海は、そして、と言ったように店長の方に向き直し、


 「これから、いつまでかわかりませんが、宜しくお願いします」


 そう言って、ペコリと頭を下げた。

 それに半田は、


 「頭挙げてよ、そんなにかしこまられても、やりにくいだけじゃない?」


 と、笑いながら言い、頭を上げた古海と握手を交わした。


 「それじゃ、今日は古海さんが居候になった記念として、店長の家でパーッと夕食を食べましょうか」


 と、そんな二人を見た新田は二人に突飛ながらも友好的な提案し、古海と店長は笑顔でうなずいた。




 そこから数時間後、午後十時過ぎ頃の事。


 「私、もうそろそろ帰らなゃ」


 一通り騒ぎながらお腹を満たしたくらいの時に、新田は部屋の壁に掛けられた時計を見て、そう言った。


 「なら、家の近くまで送ってくよ。最近、物騒なんでしょ?」


 古海は新田の行動に反応し、そう訊く。


 「そうだな、宗司君、送ってあげたほうが良いな」


 と、聞いてもない半田が古海に促し、


 「んー。…じゃぁ、そうしてもらいます」


 と、新田は古海の同伴を受け入れた。




 夜道を二人で歩いていると、ふいに、新田はこんなことを訊いた。


 「…そういえば、古海さん、病室で、わたしの質問に答えた内容覚えてますか?」


 「え?あ、うん、覚えてるよ」


 突然の質問に古海は少しだけ戸惑ったように返事をした。


 「私、あのあとちょっと考えたんです。古海さんがどうしてそんなことをいっているのか」


 「へぇー」


 その後に続けられた新田の言葉に何も気にしていないような声で反応すると、その反応が気に入らなかったのか、ムスッと頬を膨らました新田が古海を見て言った。


 「古海さん、それなんですよ」


 「え?」


 その言葉に古海は足を止めた。

 それと合わせるように、新田は古海の正面に行くように歩き古海の方へ向いて立ちどまった。


 「古海さんって、自分のこともそうですけど、人のことも考えていますか?」


 そして、古海はその質問に答えというものを失いただ立ち尽くした。

 そんな古海を見つつ、新田は続ける。


 「私、思うんです。古海さんには何かひとつの縛っている条件のようなものがあってそれに準じて生きているだけなんじゃないかって」


 古海と新田は出会って、一日、二日ほどの長さだった。

 しかし、新田は古海を見抜いていた。

 だから、新田は聞く様に言った。


 「古海さんのこと教えてください。何か為になれることがあれば、私じゃ頼りないけど、話し相手くらいにはなれるはずです」


 だが、古海は一度俯いてから、息を吐いて、言った。


 「確かに、俺はエミちゃんが言う通りだよ。病院でも行ったんだけどさ、俺は誰かを助けることしか考えてないんだよ。そこには、少なくとも助けられる人が本当に必要としてるのかっていう感情、とか、状況とかが関わってくる。それは考えるよ、俺だって人間なんだ。でも、その助けに善か、悪か、そんなモノをこだわったことが無い。ただ手が届く範囲で誰かが笑っていて、幸せに暮らしているのなら、それでいいんだよ」


 今度は新田が古海の言葉に言葉を失った。


 「だから、目の前がそうなるまでは少なくとも俺は倒れないようにしなきゃいけない。正直、そうなってしまえば、俺は居ても居なくてもどうでもいいけど、そうなるまでは責任持って頑張んなきゃいけないからさ」


 古海は、そして、笑顔をつくり、


 「この話は、ここで終わりだ。ほらほら、早く帰んないと。もう遅いんだから」


 新田に近寄って、肩をポンポンと叩い言った。

 すると、ハッとしたような顔をしてから下手な作り笑いをし、


 「そ、そうですよね。急ぎましょうか」


 そういって新田は帰路へと向き直して歩き出し、その後を付いて行くように古海も歩き出した。





 「ありがとうございました。明日もバイト行くんでその時には宜しくお願いします」


 「ううん、こっちも色々宜しくね。じゃぁ、お休み」


 「おやすみなさい」


 バタン。

 新田の住むアパートに着き、夜の挨拶を返された直後、ドアを閉められ、一人古海はそこに取り残された。

 (別に寂しいわけじゃないけど、こうも一気に静かになると何か来るものがあるなぁ)

 と古海は適当に思った。

 新田は大学の為に上京し、一人暮らしをしていた。

 その事実を古海はつい五分前に聞き、驚いたばかりなのだが、

 (初対面でしっかりしてる変な子っていうのはそういうのも関係してるのかな)

 と、彼の中では結構な興味に早変わりしていた。




 新田を送った帰り道、再び例の公園を通った古海はその風景を見て、違和感らしきものを覚えた。

 まるで間違い探しの絵を見ているような、そんな違和感。

 そして、古海は違和感に気付く。

 それはその公園に人がいることだった。

 別に人が公園にいること自体はあたりまえのことだ。

 どんな時間であろうが、人がいること自体は何の問題はない。

 ただ、その人が問題だった。

 その人は人の形をしていたが手が明らかに人ではなかった。

 半袖を来たその人は袖口からのぞかせるその腕がどう見ても人以外の、まるで木の根や蔦が人間の手を成しているかのような、異形の何かだった。

 古海はソレを見て、どういう訳か、古海自身に近い何かを感じ、その『人』に向かい近寄ろうと歩き出した。

 公園内に入り、その人が男の姿をしていることが分かり、更に進み、そのおとこの輪郭がはっきりと見え始めたその瞬間、その『人』が古海に気付き、


 「お前の力はまだまだだ。それに、俺に会うには少し早い」


 そう古海に向かって言い放つと突然、草木のざわめきが増し、その後突線北突風に目を閉じた。

 突風が通り過ぎて、目を開けるとその『人』が消えていた。

 古海はソレに異常な疑問を浮かばせつつ、放たれた言葉に、なぜか云われのない恐怖を感じたのだった。



 日は開け、今日は古海が呉服屋の手伝いをする日だった。

 半田から頼まれた服を依頼者に届けるためにバイクに乗り、古海は街を移動していた。

 バイクを走らせに十分が過ぎ、市街地の大きな公道で渋滞にはまり、古海は何事かと先をみようと背を伸ばすと、突然、三百メートル以上先から車が飛んできた。


 「は?」


 呆気を取られ、古海は素っ頓狂を挙げた瞬間、車は古海のかなり後ろでバッギャン!!という現実離れした音を立て、落下した。

 そして、それからすぐに、


 『きゃああああああ!!』『うあああああああ!!』『助けて!!』『ぎゃあああ』


 前方帰ら聞こえ始めた悲鳴や古海のいる後方へと逃げ出す人々が波のように古海の近くにいる人間たちまでにも伝染し、伝染した人たちは伝染させた人間たちと同じように逃げ同じ方向へと消えていく。

 その人混みの波が古海を通過して取り残された古海は走って逃げた人々と逆方向へと向かった。



 三百メートル程、車を避けつつ走ると、そこに原因はいた。


 「今度は…亀?」


 その姿を見て、古海はそう呟いた。

 目の前にいたのは亀のような甲羅を持ち、人と同じように二足歩行をした、二十センチほどの爪が到底人とは思えない四本指から生えた腕と水かきが付いた湿り気を含んだ足跡を残す足、そして、とても亀に似ているが亀には似ても似つかぬ四つの目がついた顔を持った怪物だった。

 それを見て古海は自分が眼の前の怪物と似た怪物になり、カニのような怪物を破った瞬間を思い出した。

 その時、古海は自問自答を始めた。


 (俺はなんでこんな怪物に出会ってしまうのだろうか?)

 (その答えはわからない)

 (では、どうしてあの時、俺は怪物に変わることができたのだろうか?)

 (わからない、でも、あの時は変な声が頭の中に響いて、俺は戦うことを決意した)

 (では、なぜ戦うことを決意したのか?)

 (怪物がいると人々を襲い、悲しみが増えるから)

 (ならば、今やる事とは何か?)

 (アイツを倒す力で、戦う)


 古海は自問自答に答えを気付き、車をずっと鳴き声も上げず、まるで赤ん坊がおもちゃを何かに叩き付けるように普段は決して聞くことが無い轟音を響かせながら車を怪物自身の手で叩いていた。

 車の中に気絶しているであろうぐったりとしている男性が見え、古海は走り出す。


 (あの人を助けなきゃ!)

 (力が欲しい!)

 (俺が怪物アイツに通用するほどの力が!)

 (戦う!)

 (俺が戦わなきゃ誰が戦うんだ!)


 古海は力強く一歩を踏みだして、自らに宿った不思議な力を改めて受け入れる。

 理解は出来なくとも今は必要な力を。


 「俺が戦う!」


 古海が心の声を通り過ぎ叫ぶようにそういった瞬間、古海の身体は白い光を放ち、あの時と同じ『白い怪物』へと姿を変え、


 「おりゃあああああああああ!!」


 雄たけびを上げながら、車に夢中になっている亀のような怪物の側頭部を助走を付けて、殴りつけた。


 「ぎゅるる!?」


 湿り気のある鳴き声を上げ、よろけるように殴った方向へと退いた。

 だが、それだけで、亀のような怪物は、


 「ぎゅりりりりりりりり!!」


 叫び声のような鳴き声を上げながら古海へと大振りに手を振りかざした。

 ブォウン!と長い爪が空気を切り裂くのと同時に、古海は転がるようにそこから遠ざかり、構えを取りつつ、亀のような怪物と向かい合った。

 一息の間を置き、最初に動き出したのか亀のような怪物で、動きこそはそこまで早くは無かったが、手を大きく振り、長く鋭い爪で古海に連撃を仕掛けた。

 一撃は避け。

 二撃は避け。

 三と四と五は掠りつつも避けたが、その先の六、七、八、九、十と、連撃をまともに受け、純白の身体に四本づつの爪痕がつき、古海が痛みによろけ、体勢を崩した瞬間、


 「ぎゅぎゃりゅりゅ!!」


 怪物は唾液をあたりにまき散らしながら体当たりを古海に直撃させ、


 「ぐあああああああああ!!??」


 叫び声をあげながら五メートルほど古海は吹き飛ばされ、誰かの車の上に落ちる。

 車の方は異常な力で大破したが、


 「…っく、っあぃっ…」


 打撲では到底味わえない激痛に呻くだけだった。

 その痛みに耐えながらも、古海は体を起こし、地に足を付け、腰を落とし、カニのような怪物を撃破した時と同じように拳に意識を集中させ、拳の周囲の空間が歪み始めた。

 それと同時に呆然と立ち尽くしていた亀のような怪物がこちらに向かって、走り出した。

 その時、古海はこの一撃をカウンターとして当てるため、亀のような怪物に狙いを定め、一歩一歩の歩行動作、攻撃に移る可能性である予備動作を観察し始め、三メートル、二メートル、一メートルと距離をすぐに縮め、お互いに射程圏内に入った瞬間、亀のような怪物は大きく手を振り、また集めでも攻撃を仕掛けようと予備動作をした。

 古海はソレを見逃さず、拳を腹部辺りに叩き込み、他t期込んだ空間が歪み、戻り、亀のような怪物は三メートル吹っ飛ばされた。


 「ぎゃるりぁるるぅら!!??」


 悲鳴のような鳴き声を上げて吹っ飛び、地面に堕ちる所を古海は目視で確認し、走って追撃しに行く。

 ノロノロと起き上がった亀のような怪物の顎に飛び膝蹴り、一歩下がった瞬間、腹部に中段突き、顔面への肘打ち、下あごに目掛け上段突き、そして止めと言わんばかりに後ろ回し蹴りを腹部に叩き込み、亀のような怪物はその場から少し飛んで地面に倒れた。

 古海は大きく息を吐き、大きく後ろへ飛び二メートルの距離を取って身構えたまま、亀のような怪物を観察した。

 数秒後、倒れた亀のような怪物の指がピクリと動き、


 「ぎゃしゃぁ!!」


 鳴き声を上げすぐさま立ち上がった。


 「…!?」


 そして怪物の腹部を見て、古見は驚いた。

 古海の一撃の着地点である腹部にはしっかりといまの姿の歪な拳の跡が残っていた。

 だがしかし、亀のような怪物はその跡を摩り抑えるだけで、


 「ぎゃりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ!!」


 そんな叫び声に似た鳴き声を挙げ乍ら摩る手を離し古海へとは仕込んだ。

 

 「…っくぅ!!」


 苦虫をかんだような声をあげながら古海も亀のような怪物に走って助走を付け、飛び蹴りをぶつけた


 「ぎゃきゅ!」


 そんな鳴き声を挙げ、亀のような怪物は飛び蹴りを出した古海の足を片手でつかみ、


 「ぎゃりゅぎゃっ!」


 まるで踏ん張るときに出る声のように、鳴き声を上げ、怪物は古海そそのまま投げ飛ばした。

 だが、古海は決して、地面に叩き付けられることはなかった。

 投げ飛ばされた方向はちょうど高く空へと打ち上げる形になっていて、それを利用した古海は標識のパイプにつかまり、そこで飛距離を止めたのだ。

 すぐ、古海は手を離し、普通に着地し構え直す。

 後ろには人びたがまだ避難を続ける道がある。


 (通すもんか…)


 古海はそう思い、地面を蹴り、怪物との距離を一気に詰めると、 古海は再び連続で攻撃を浴びせかける。

 正拳突き、回し蹴り、肘内、裏拳、掌底、後ろ蹴り、人間では到底できない威力と速さで、次々と攻撃を怪物に打ち付け、古見は最後の止めと言わんばかりに、全力を込めた大ぶりな拳で怪物の顔面をとらえ、地面へと叩き付けるように降りぬいた。

 ドギャン!!

 アスファルトから出た音ではないと思えてしまうほどの轟音を立て、怪物は膝を着くが―――。

 ――――ただ、それだけだった。


 「ぎゃるぶ!」


 そんあ短い鳴き声と共に、即座に体制を立て直した怪物は連打後のほんの少しの域を整える隙に攻撃を放つ。

 今度は爪でも体当たりでもなく、開かれた口から伸びた『舌』だった。

 その舌が古海の腹部を貫通し、古海の動きを止めたのだ。


 「…ぐっ…」


 痛みで呻き声しか上がらない古海に怪物は長い爪でトドメと言わんばかりに古海を引っ掻き、怪物の下が引き抜かれると、古海はその場に膝をついた。

 怪物はそんな古海を一蹴し、転がる古海を端にどこ変えと消えていってしまった。


 「…車の中の人…は?」


 (怪物の姿のままではさすがに怖いだろう、でもそこは目を瞑ってもらって助けなきゃ)


 古海はそう思って、体を引き釣りながら、車に取り残された男性を引き釣りだし、気力を振り絞って背負い安全な場所に運ぶと、古見は出来るだけ人目の摘まないところに移動し、その場に倒れた。

 その瞬間に怪物の姿が解け、人間の姿に古海の肉体は戻った。

 それと同時に古海の意識は途切れた。

こんにちは、みち木遊です。

前回からだいぶ間を開けての投稿になってしまいました。

先ず謝罪です。

遅くなってしまって、すみません。

この罪悪感のまま、今回の解説のようなものに移りたいと思います。

今回、古海宗司の根幹に対しての話をメインにして描いてみました。

自分は幸せな未来には入っていないという恐ろしい自己犠牲というのが古海の今の時点での評価で正しいです。

まぁ、今後、彼がさらに深堀にされて露見するものは多そうですが・・・。

新田が古海のことについて本格的に考え始めるきっかけとしての描写をわかりにくく入れて見たのが今回という事もあり、新田の立ち位置も少しはわかりやすくなったかなと思っています。

そして、type-βの初敗北。

亀の怪物、type-turtleは堅い甲殻が中にある体を守っているという設定のキャラクターなのでその堅い甲殻を古海はどう越えていくのか、これが次回の肝になります。

今回はここまでですが、次回も生暖かい目線で見守り待っていただけると幸いです。

では、また次回お会いしましょう。

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