8話
「というわけで『げっ』」
ゲゲの鬼太郎。
「――何で、そうまでして私についてくるの?」
心の中でくだらない合いの手を入れてしまった僕と違って、何だか、真剣そうな声でクリスがそんな事を言ってくる。
「え~っと、ついてくる?」
だけど、僕がどれくらいに気持ちが悪いかという話から、急にそんな事を言われても僕にはさっぱり。
付いてくる? 突いてくる? 憑いてくる? それとも、追跡してくると書いて、ついてくる? だったら僕はクリスのストーカーだね。
「私の仕事によ」
あっ、そこに会話が戻るのね。
「う、う~ん……何でって言われてもなぁ」
『僕がドMでモンスター達ときゃっきゃ、うふふするのが大好きだからです』
なんて、何となく真剣な雰囲気が支配しているこのシチュエーションで言ってもいいものだろうか?
「安っぽい正義感? 思い上がり? 破滅主義者? ――自殺願望を持っている、なんて言わないわよね?」
真実を言おうか、言うまいか、僕が悩んでいると、クリスがそんな単語を淡々と並び立てる。
「う~ん。残念ながら、全部違うよ」
僕に正義感なんて無いし、何に思い上がればいいのかも分からない、破滅主義者……う、う~ん、ドMの僕は他人から見たらそう見えないことも無いのかな? でも、自殺願望なんて絶対に持っていない。
そ、そりゃ、プレイの結果、こう、事故的なあれで命を散らすのはやぶさかではないと思っているけれど、好き好んで死のうとは思わない。
「だったら何故? 毎回、酷い目にあっているのに何故頑なについてくるの?」
い、いや、酷い目というより、僕としてみれば嬉しい目何ですけれど……
「ねぇ? 何故なの?」
どう答えれば良いのか分からずにキッチンに立ち尽くしている僕をクリスの碧眼が真剣に見つめてくる。
会った時と同じように、寂しそうな、どこか悲しそうな瞳で。
僕はこの瞳を知っている。
この瞳は「助けて」と、か細い声で僕に手を差し伸ばした妹の瞳。
この瞳は小さい頃、家族がいなくなって悲しくて仕方なくて、心の中で誰かに、きっと神様とかいう存在に「助けて」と叫んでいた僕の瞳。
だから僕は傲慢かもしれないけれど――こんな瞳をしたクリスを助けてあげたい。力になってあげたい。そう思ったんだ。
きっと、そんな事が理由といえば理由なのかもしれない。
「そう、だね、多分、それはきっと――僕がドMだからじゃないかな?」
だけど、僕はそんな理由を胸の奥底に仕舞い込んで、ニヒルな笑いを浮かべてそう答えた。
「……人が真面目に聞いているのにっ」
すると、そっと僕を見つめていた瞳を伏せて、クリスが拳を戦慄かせる。
まぁ、この後の展開は分かるよね?
――ご褒美タイム突入ですよ。