魔女
「ふわぁぁ……」
大きなあくびをしながら目を覚ますと時間は午前十一時を回っていた。
彼は神童集、明日から高校生になる。
集はゆっくりと体を起こすと前日買っておいたパンを手に取りテレビをつけた。
「また能力者による強盗ですか、ほんと怖いですね」
「能力者だから警察も手を焼いているとか……」
ニュースでは能力者たちによる強盗や犯罪などを取り上げていた、最近このような事件がとても多い。
「物騒だねー。あっ、そろそろ準備しないとな」
そう言いながらパンを食べ終えた集は出かける準備をし家を出た。
今日は四ノ宮透と遊ぶ約束をしていた、場所は神原駅で時間は十二時、家の近くの駅から二つ先にある駅なのですぐに着いた、そして改札の前に透は居た。
「来ないかと思ってたよ」
にこっと笑い手を振りながら俺を待っていた。
「時間ギリギリだろ」
集は時計を見ながら答える。時間は十一時五十八分を回ったくらいだった。
「まぁそれはいっか、それより買物だーー!」
桜木高校は全寮制なので明日から二人は寮でそれぞれひとり暮らしをしなければならないのでその準備も兼ねてデパートに買物にきていた。
「どこから行こうかな~、まずは日用品かな」
なかなか大きなデパートで全部回るにはかなり時間がかかりそう。
五階建ての建物でここ一つで日々の生活のほとんどの品を揃える事が出来るのでは無いかというくらい様々なお店がある。
「お前ははしゃぎ過ぎだ、子供か」
ため息を吐きながら後ろからついて行く、それからしばらく二人はデパートの中をいろいろ回って買物をした。
それこら二時間ほど店内を歩き二人はレジで会計を済ませると両手いっぱいに買物袋を持ってそのデパートを後にした。
「明日から高校か、俺ら一緒のクラスだといいな」
「どうせ俺らはD組だろ?」
俺は透の質問にさらりと答えた。
そう、桜木高校異能力専攻科は個々の能力値によってクラス分けがさせる少し特殊な学校なので能力値の低い集と透は自動的にD組になるのである。
「きゃぁぁぁああ!」
話しながら帰っていると大きな女性の叫び声が聞こえてきた。
「行くぞ透!」
「あぁ!」
二人は声のする方に走って向かう、そこには一人の女性が複数の男に囲まれていた。
「おい! なにしてだ?」
「はぁ? お前らには関係ないだろ、死にたくないならそこをどけ」
その女性の前に立ち集は男に質問したが答えるつもりは無いらしい。
そして、さらに周りに氷の氷柱のようなものを出現させ脅してきた。
「お……おい、あとは頼んだぞ集」
あまり争いごとの苦手な透は女性の腕を掴み一緒に連れて下がっていく。
「わかったよ、任せとけ」
集は一度大きくため息をつくとゆっくりと右手を体の前に出した、するとどこからともなく大きな太刀が出てきた。
「お前も能力者なのかよ、今さっきの奴といいお前といい今日はついてねぇな」
その男はそう言うと「死ねーー!」と叫びながら体の周りに停滞させていた無数の氷柱を撃ち放つ。
このくらいなら避けることはさほど難しくはない。が、後ろには透と女性が居るので避ける事も受け流すことも出来ずただその攻撃を受け切るしかなかった。
「透! 一瞬だけ彼女を守れるか?」
「分かった! そんな奴ら倒しちまえ」
すると男達と集を覆うように半球形の空間が姿を表した、そして次の瞬間には太刀の刃先は氷の能力を使っていた男の首ギリギリにあった。
「くそっ! 退くぞお前ら」
その男達のリーダーであろ人物が指示すると他もそれに続きいかにもモブキャラであろう台詞を吐きながらどこかへ行ってしまった。
「よかった……」
男達が去った後少しすると女性はその場に崩れ落ちた、側にいた透が「大丈夫か?」と心配そうに顔を覗き込むと安心したのか彼女は泣いていた。
「ちょっ……なんで」
「あーぁ、泣かしてやんのー」
集も茶化しながら二人に近づく、しばらくすると女性も落ち着いたのか泣きやんだ。
「お前達はそこで何をしている?」
その時彼女ではない声に問いかけられた、後ろを振り返るとそこには腰の辺りまで伸びた赤い長い髪にルビーのような綺麗な赤い目、身長は百五十後半くらいのいわゆる美少女の類いに入る女性が冷たい眼差して三人を見ていた。
「何をしているって言われても……な?」
集と透は二人で顔を合わせた。
「涙目の女性を男二人で囲んで言わせないぞ」
「まっ待て! 俺は彼女を助けただけで何もしていない!」
二人でその美少女の問いに全力で否定する。
しかし、その美少女は聞く耳を一切持たない。そして何かぶつぶつと呟いていると彼女の足元に五角形の紋章が浮かび上がる、一般的な魔法陣と呼ばれるものだ。
「お、おい集。これやばくないか?」
「何も悪い事はしてないがとりあえず逃げる!」
『魔法陣』それを扱える人物はほんのひと握りの能力者のみである。
今さっきのチンピラのようには絶対にいかない。間違いなく、死ぬ。
「待ちなさい!」
そう言いながらメラメラと燃え上がる炎の球を飛ばしてくる。
大きさはそれほど無いが威力はかなりのものだ、当たれば火傷では済まないだろう。
「くそっ、行き止まり!?」
「や……やばくない?」
入り組んだ路地を逃げていたがとうとう行き止まりになってしまった。
何か打開策は無いかと辺りを見回すがもちろん何もない。そして後ろからは。
「鬼ごっこはもう終わり?」
赤い長髪を揺らしながら少女はゆっくり近づいてくる。
その時だった、確かにそれはあった。
「……髑髏のあざ?」
「ん? どうした集?」
「あいつ魔女だ……」
髪が揺れた一瞬だったがはっきりと見えた、首筋にある髑髏のあざを。
『髑髏のあざ』それはこの世界には多種多様な能力が存在するがその能力を持つものは世界的に見ても確認されているのはたった八人しか居ない能力ーー魔女。
「そうよ、私は霧崎凪……能力は魔女」
そして、霧崎凪と名乗る女性は『女性の敵は私の敵、さようなら』そうあと付けしてまた先ほどと同じ火の玉をもう一度出現させた。
これはあれだ、絶対絶命というやつか?
しかし、その不安は聞き覚えのある声とともに無くなった。
「はぁ……はぁ……待ってください! その人達はわたしを助けてくれたんです!」
後ろから先ほど集と透が助けた女性が息を切らしながら駆けつけてきた。
「あら、本当だったのね」
凪はその彼女の言葉を聞き辺りに漂っている火の玉を消してくれた。
そして、一度ため息をつくと『時間の無駄だったわ』そう言い残して立ち去った。
その後、二人は彼女とも別れた。
「あの子可愛かったな!」
「確かに可愛かったな」
二人はそんな会話をしながら再び歩きだした。