入学式
ピピピ……ピピピ……
この音で目が覚めた。
目ざまし時計の時間を見ると、11時。
少し眠いが、二度寝するわけにはいかない。
今日は、高校の入学式がある。
人口5万人ほどの瀬戸内海に面した小さな町翠波市にある翠波高校に、俺は入学する。
通称”翠高”と呼ばれている。
伝統のある学校で、地域の人からも評判の良い。叔父が言っていたが、昔、映画の舞台にもなったことがあるらしい。そんな翠高は、そこそこ進学校である。
ただ翠高に入りたかったわけではない。
都会ならば、電車があり、高校は選び放題だろうが、田舎に住んでいる者は、そういうわけにはいかない。駅は、町に一つしかなく、電車も30分に一本しか出ない。不便で遠くの学校に通おうとするものはほとんどいない。だから、ほとんどの者が、自転車や徒歩で通える近場の学校を選ぼうとする。
俺も隣町の学校も一瞬考えた。隣町は、そこそこ町も大きく、魅力的に感じたが、通勤の不便さなどの理由で断念した。つまり、仕方なく、翠高に入ったという感じだ。
受付は、13時から始まる。
今の時間は、11時。
家から学校までは、徒歩で30分で着く
これから仕度をして、家を12時に出れば、十分間に合うだろう。
俺は、昼食を済ませ、廊下に向かった。
そして、廊下にある学ランを手に取る。学ランは、中学のときも着ていたので、新鮮味はないのだが、高校入学に合わせて新しいものを買ってもらった。身長が伸びて、中学の学ランでは小さくなってしまったからだ。
中学校入学したときが、154センチ。現在が165センチくらい。さすがに10センチ以上伸びると小さい。
俺は、身なりを整え、カバンを持ち、玄関に向かった。
翠波高校の学生靴を履き、玄関の扉を外を開けると、何ともいえないどんよりとした天気が待ち受けていた。廊下から見たときは、太陽が出ていたのだが、いつのまにか天気が悪くなっている。いつ雨降ってもおかしくない感じだった。
今までの人生振り返ってみると、節目は、だいたい雨だった気がする。
名曲の歌詞に中に、”思い出はいつの日も雨”というフレーズがあったが、あながち間違っていないのかも知れない。
ここが翠波高校か。
入口から正門までは、急な坂になっており、俺は、自転車から下りて、押して正門へ向かう。
正門のところには、先生と思われる人が二人。5人ほど、翠波高校の生徒がいる。正門のところに行くと、
「ご入学おめでとうございます」
と一斉に声を上げる。
すると、ショートの眼鏡かけた女子生徒が笑顔で話かけてきた。
「教室までご案内します。」
どうやら案内役の人らしい。とりあえず軽く会釈した。
「それでは、まずは、自転車置き場案内します。」
自転車を置き、いよいよ教室へ向かう。
「何組ですか?」
何組?俺何組なんだろう
「あー知らないですね」
「はがき持ってます?」
そういえば、翠波高校からはがき来てたような気がする。合格後に、クラス分けテストがあり、その結果があのはがきに書いていたのか。
「たぶん捨てましたね」
「え?」
なんかめっちゃ笑われた。
「名前教えてくれる?」
「三嶋直行です。」
「三嶋くんね、ちょっと待ってて」
そういうと、案内役の人は、校門にいた先生のところへ向かった。
しばらくすると、戻ってきた
「三嶋くんは、1年6組」
「そうなんすね。」
そんなことを思っていると、担任の先生が入ってきた。
見た目は、茶髪のショートヘアーで、年齢は20代後半くらいの女の先生だった。名を、”藤江”と名乗った。個人的に、高校の先生というのは、もっと怖いイメージをしていたのが、とても優しそうな先生だった。
その担任の藤江から簡単な入学式の説明を受け、体育館に入場した。
そして、入学式が始まった。
特に、驚くような事もなく、淡々と進んでいった。つまらない校長の話を長々聞くのは退屈だった。周りもそんな感じだ。
しかし、このつまらない雰囲気が一変することが起こる。
司会をしていたゴリラみたいな先生が、
「新入生代表の言葉、1年6組滝宮楓花。」と告げた。
その新入生代表の滝宮楓花が祭壇に立ったとき、体育館の少し空気が変わったのだ。新入生や在校生がざわつきはじめる。
滝宮楓花という女の子は、茶髪のロングヘアー。
とても可愛らしい顔でアイドルにいそうな感じだった。
「めっちゃかわいくね?」「すごい美少女」
といった声が飛び交う。
俺は、その女の子をどこかで見たことあるような気がした。まあ気のせいか・・・
ただあまりにもざわざわしていうので、ゴリラみたいな先生がしびれを切らして言った。
「静かに!」
そういうと、体育館は、再び静まり返った。
確か、新入生挨拶の代表者は、受験テスト一位の人が選ばれると聞いた。あの美貌で、頭が良いとかスペック高い。
そして、新入生代表の滝宮楓花の挨拶が終わり、入学式も終了した。
教室に戻るとあることに気付いた。新入生代表の挨拶していた滝宮楓花が同じクラスの生徒だった。しかも隣の席がだった。慣れない場所で緊張していて、
高校生活の説明、今後のスケジュールなどが説明された。
そして、休み時間に入ったときだった。
隣にいた滝宮楓花が
「私の小物入れがないんだよね」
といい、カバン中をあさっていた。
すると、滝宮楓花としゃべっていた前の席の女の子が
「家に忘れたんじゃない?」
「いや、学校に来たときに見たんだけど、おかしいなー」
ふと、机の中に手を入れたとき、何かが手に当たった。
今日、初めて座った机に物が入っているわけがない。
ん??
ポーチ?
まさかこれが滝宮楓花が探してる小物入れなのか
何故俺の机の中に入ってるだ?
渡すべきか…いや、怪しまれる。
”何故か入ってた”なんて言い訳が通用するはずがない。
こうなったら、後でこそっと滝宮楓花のカバンの中に入れておくしかない。
周りの目を盗んで、入れられるか。
緊張したらトイレにいきたくなった。
トイレから戻って、自分の椅子に戻ろうとしたとき、事件は起こった。
女の子がバランスを崩し、俺の机にぶつかった。
ぶつかった衝撃で、机に入ってたポーチが落ちてしまった。
「あっ!私のポーチ」
「誰の机なの?」
最悪だ。このまま席に戻らず帰りたい気分だ。
無言のまま、席に座ろうとすると、声かけられた。