閑話 魔王さまの伝説 歌の洞窟
物語の中の物語的なやつ
≪うた≫というものを知った
初めは鼻歌から、てきとうに音を紡ぎ続ける
生き物たちはうたで恋を呼ぶ。ルルゥは生き物たちの恋というものが好きだった。
恋は子をなすことにつながっているし、自身の役割からしても大いに結構なことだと思う
たまに本来の目的から逸脱した恋の形もあるようだが理解はできないものの特に反感を抱くこともなかった。
ルルゥのうたに魅了されて徐々にいろんな生き物があつまってくる
皆、恋を歌う生き物たちだ
しかし、残念なことに大きな仕事を終えたばかりで当分休む気でいたから今はそういう気分ではない
けれどせっかくたくさんのものが集まったから、皆に歌を披露させた
たくさんの恋の歌はとても素敵でルルゥはいい気持ちになれたので記念にと自身に集まった音を一斉に奏でてみた
しかし結果は惨憺たる有様である
いいものといいものを掛け合わせてもさらにいいものがうまれないことがある、ルルゥは知っていたが音も同じであった
ルルゥは不協和音という言葉こそ知らなかったけどこの日、事象としてははっきり自覚する羽目になった
さて、気を取り直して
ルルゥは学ぶことができる生き物である
きょうはたくさんのうたを学んだ
今日、ルルゥは学んだばかりのうたというものが大好きになった
この素敵なものがたくさん増えればいいと思ったしもっと素晴らしくなったらいいなとも思った
今日はそういう気分ではなかったはずなのに、俄然、仕事をしたくなっていた
蝙蝠たちにきいた、ちいさな入口のおおきな洞窟でルルゥは仕事を始めることにした
もうルルゥのうたは初めに紡いでいた拙い鼻歌とは比べ物にならない
その素晴らしい歌を誰にも聞かせることはなくおおきな洞窟に響かせる
すると、はねかえったうたがかえってくる
うたう。かえってくる。うたう。
やがてルルゥのうたは自身の全身にしみわたり体の中で渦巻いた
渦巻く歌はルルゥのからだのしかるべき場所にたどり着くとそこで実を結んだ
≪うた≫と交わるのははじめてで、いつ、なにがうまれるのかはわからないけどルルゥにとってはそれが当たり前だった
自分のうたとの間の子にこもりうたを聞かせながらルルゥは新しいモノの誕生を待つ
からだの外にうたの子を生み出すと同時にうたも解き放ってしまったから、もうルルゥが歌うことはないけれど、あの時誰にも聞かせなかったあの歌をちいさな入口のおおきな洞窟だけは聞いていた。
もしも魔王のうたが聴きたいなら、ちいさな入口のおおきな洞窟を探せばいい。
新しいモノ、魔王ルルゥが産んだ恋の歌の女神は洞窟に渦巻く風で魔王のうたを真似奏でているという。
3年前に携帯で打ってた未公開SS
ゆるふわ系魔王様ルルゥ
各地に遺跡があります(魔王生きてるけど)
観光地とかになってる