表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行旅に添えるガーニッシュ  作者: 萱津
・ 旅の一幕 
5/17

猫猫飯店

注意というか今回ゲテモノチックな食事です。

主人公たちの名前出すことにしました。語り手の騎士がエド。主がルカ。


「水脈の変化だかなんかで後背地の村が移動しちまってねえ、あそこ、今は只の空き家なんだよ」


 中継地点として立ち寄る予定だった宿がすでに廃業しているというのを聞いたのはまさにそこに向けて出発せんと荷を畳み終えてからのことであった。

 その宿は街道のはずれを少し進んだところにある開拓村との中間地点にあった。

 おもに村人が利用する公営の食堂兼街道を通る旅人向けの宿場であったが、肝心の村の状況が芳しくなく水脈の異変というトラブルをきっかけに離散してしまったらしい。

 旅人のほうは今いる村から次の村まで少し急げば一日もあればたどり着けるし、なによりさらにひとつ前の街から街へは馬車も運行している。

 自分たちのような道楽旅人でなければそもそも通る必要もない場所ゆえに廃業するのもうなずけた。

 本来の予定ではここを昼過ぎに出発して件の宿で名物料理を楽しみ一晩明かした後、ゆっくりと次の目的地まで向かう予定であった。

だが、いまさら荷ほどきをし直して翌早朝に出直すのも面倒だ。

 幸いにして食料はずいぶんと余裕があるし、村がなくなってからそう時間がたっていないらしいから建物としてはまだ無事だろう。食事を持ち込んで勝手に寝泊りしてしまえばいいじゃないかということで、予定通り昼過ぎから向かうことになった。





「おや、もしかしてお店、再開したのかな」


 同行者であるルカに言われてみればなるほど、煮炊きの香りが向かう先から漂い始めていた。

 事前に聞いていた通り街道からすぐ見える位置でないが少し脇道に入るとそれらしきものがみえてきた。

 やがてあらわれた建物はどうにも人の手が入っていないようにはみえず、赤や黄の極彩色の装飾が施された異国風の看板には「猫猫飯店」と書かれていた。

 変わった料理を出していたらしいし自分たちのように料理めあての旅人向けに店を続けたのかもしれない。


「いらっしゃいませ!お食事ですかな?お泊りですかな?」 


 むこうはずいぶん前から俺たちがむかっていることに気付いていたらしく、似たような顔の店員たちが店先で出迎えてくれた。


 夕朝、2食つきの一泊でずいぶん手頃な価格の割に部屋は清潔で頼めば湯もくれるらしかった。宿の主たちは金をあまり使わない生活らしく、名物料理をより多くの人間に食べてもらう事が大きな目的の一つらしい。


「村が解散して、ヒトはみいんな居なくなってしまってさびしい限りでしたので、こうしてお客様をお招きしておもてなしするのが私たちの唯一の道楽なんでございますよ」


 似たような顔の店員たちはみんな家族であるらしく、一家そろってこの店に残ったそうだ。




「当店ではお料理は一品ずつ提供させていただきます。アツアツピチピチが美味しいんでございますよ」


「ふうん、黒曜地方の料理みたいな出し方だな」


「ハイ、わたくしめらは元をたどれば黒曜の港の先、舌根砂漠のあたりが出身であります故」


 舌根砂漠というのは俺たちの目的地であり世界の中心とも呼べる白亜の港街から竜喉海を渡った先にある黒曜の港街の西側に広がる砂漠地帯だ。

 実際に一面の砂の世界となっているのは一部で大部分はサバンナ地帯でありそこに生息する様々な形態の野生動物は王侯貴族の愛玩用としてしばしば輸入されている。

 俺は直接目にしたことはないが王宮を出入りしていたルカなら舌根の珍しい動物たちも知っているのだろうな。


 一品目に出てきたのはなんだかよくわからない細切り肉と野菜の炒めものであった。

 肉を買いに行けるような場所ではないし家畜も見当たらないから狩猟したものなのだろう。


「これ食べるのかい?ほんとに?」


 なぜか不安げにルカに聞かれた。


「うまそうな料理じゃないですか。ジビエ料理はだめっていうんですか」


 使われている香草は高価な輸入調味料ではなく地域によっては雑草ともいわれるようなどこにでも生える香りの強い草だが野生の肉の臭みをうまいこと消しているように思える。


「いやそうじゃないけどこの肉は・・」


 何がそんなに心配なのだろうか。ジビエ料理はたまにあたるらしいがこの店は部屋も清潔だったし心配はいらないだろう。

 また食わず嫌いかと、どう説得するか考えていると店員が気を利かせて料理の説明をしてくれた。


「猫猫飯店名物、ネズミ料理ですにゃ!!」


「あ、あああ、やっぱりいいい・・・・。」


 それを聞いてルカは崩れ落ちた。舌根地域でネズミ料理が主として食べられているなんて聞いたことは無かったがもしかしたら王宮を知るルカの知識の中にはあったのだろう。

 ルカほどの拒絶感はないが流石に俺も驚いた。だが俺はすでに食べ始めてしまっていた。


「へえ、ネズミって結構うまいんですね。」


 食べる前に言われてたら俺も躊躇しただろうが食べてしまえば意外にも美味い。


「おや、お客様の方は気に入っていただけたんですね。うれしい限りでございます。ではお次の料理は食材の見た目を隠さずに行きましょう」


 次に出てきたのはまるまる太ったネズミの姿揚げだった。

 まさに見たまんまネズミという姿はインパクトが強かったが、黒曜料理では見栄えのために頭を残したまま盛り付けるらしいからその一種なのだろう。

 丁寧に毛が抜かれていて皮も美味だった。内臓と小骨は抜き取られ、香草と味つけされたひき肉が詰めてあった。

 一匹が少しがんばれば一口で食べられるような大きさだったから頬張ったら非常に熱かったが冷えた酒とよくあった。

 続いて出てきたのは唐辛子とぶつ切りの肉を多めの油で揚げるように炒めた料理だ。

 この頃になるとルカも料理に手を付け始めていた。姿揚げには決して手を伸ばさなかったが。

 唐辛子はかつて見たことのあるものよりずいぶん大きく、輪切りにされていた。

 そんなに刻んで大量に入れてしまっては辛くて食べられたものではなさそうだが意外に辛味は強くなく、唐辛子の部分も含めて食べることができた。

 その後も肉団子、干物、串焼きなど様々な料理が出てきたが一品当たりの大きさが小さかったためかすべて食べきることができた。



 食後は部屋で湯を頼み、体を拭き清めた後就寝した。

 ルカには自分でやらせようと思ったがあまり不器用なマネをして部屋を汚されては面倒だから従者らしく世話をしてやることにした。

 実家のちいさな兄弟たちとか、数少ない家畜を思い出しながらやった。なんてことはないとは言えない。

 幸いにして今回は妙な誘いはかけてこなかったので髪を整えてやるところまでやった。侍女か、俺は。

 血縁のなかでルカとその父だけがもつ、国中みても見当たらないような紅い髪は、艶が出るまですくとまるでよく熟れたすもものようだなといったら、この髪は魔王の髪と同じ色で、だから私はすごい魔法が使えるんだよと由来のよくわからない冗談を言われた。

 魔王の髪がすもも色だなんてのは初耳だ。

 世界を滅ぼす魔王の話なんておとぎ話意外で聞いたこともなく髪の色が同じだと魔法が使えるという理屈もよくわからない。

 ついでに言うと眼差しははちみつ色だが瞳は無いらしい。いったいどこの情報なのだろうか。

 ルカは幼いころ体調が悪く、本(絵本や童話ばかり!)を読んで過ごしていたらしいからそのなかに魔王の容姿を詳しく描いたものもあったのかもしれない。

 すももの髪に蜂蜜の眼差し。そこだけ聞くとずいぶんとおいしそうな魔王である。

 名前も知っているが呼ぶと現れるかもしれないので秘密らしい。ヒマそうな魔王でもある。


 寝具は柔らかく、干したばかりの香ばしいような太陽の香りがしていた。

 てきとうな安い宿では寝具がかびていたり、虫が湧いていたりすることもあるからここは穴場的であるといえる。

 ネズミ料理というと聞いただけでは抵抗感があるだろうが値段も抑えられていて質もなかなかだ。もう少し街道から見つけやすいところにあれば繁盛するだろう。



 朝食のメニューはスープであった。ここでもネズミ肉かと思いきや蛇のスープだという。

 肌など美容に効果があるらしいと店員がルカをみながら説明してくれたが、あいにくこの人は手入れなんかしなくたってそこらの女より美しい肌を保っているし、そもそも美容を気にするような≪女≫ではない。

 蛇の肉も言われなければ魚と見分けがつかないし案外、肉というのはなんでも食べてしまえばいけるのかもしれない。





「それじゃあ気を付けてニャー」


 見送る店主の話し方がそういえばずいぶん独特だなあなんて思いながら振り返って挨拶を返そうとみれば


「えっ?嘘だろ」


そこには最初の村で聞いた通りの無人の空き家がたたずむばかりであった。




 崩れかけの看板は猫猫飯店なんてかわいらしいモノではなくかすれた文字でただ00領第12食堂と書かれていた。


「魔物の料理というのもなかなかであったね。猫たちはかわいらしかったし。」


 伊達に魔法使いであると公言しているだけあってこの人は初めから気づいていたらしい。言われてみれば外套が動物の毛だらけになっていたことに気付いた。

 収穫物を鼠害から守るために農村では猫を飼うことがあるらしいが離散した村では猫を連れて出す余裕がなかったのだろうか。

 置いて行かれてもなお懐っこい彼らの姿になんとなく感ずるものもあったが彼ら自身からはそういった感情は全く伝わってこなかった。案外気にしていないのだろうか。


「しかし奴らが猫だったって言うんだったらなんで代金が普通の金だったんですかね」


「ネズミ以外のものが食べたくなったのかも。魚とかね。猫は自分で獲れないじゃないか」


 猫が人間に化けて買い物にでかけるなんて想像するとほほえましい限りだ。


「うまいもん食えるといいですね、あいつらも。」





狐の宿的な話が書きたかったのと猫って魚自分でとらないしやっぱねずみかなーって思った話。

ジビエ料理:家畜の肉じゃなくて狩猟した野生動物の肉とかの料理のこと。きちんとした管理や調理をしないと妙な病原菌の発生源だったりして貧困国では問題になってるらしいですね。

実在のネズミ料理:中国広東あたりとかベトナムでたべられているらしい。いつか食べてみたいなあ。

作中料理は私が中国で食べた別の料理(蛙とか)をモデルにてきとうに考えているので実際のネズミ料理とは違いますし、ないと思いますが前述ジビエ料理の項にもありますとおり変な病気になるかもしれないのでマネしないでくださいね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ