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行旅に添えるガーニッシュ  作者: 萱津
・ 旅の一幕 
10/17

ロールキャベツ系

今回短め

 宿屋の女主人が突然言い出した。

「悪いけど怪我をして料理ができなくなっちまったから食事は露店で何とかしてくれ」


「そんな、汁物が食べたかったのに!」


 ルカは激しく落ち込んでいた。

 最近急に肌寒くなってきたから温かいスープが用意されると献立の予告を受けていたのですっかり舌がその気になってしまっていたらしい。

 器の関係から露店では串焼きや揚げ物が多く、スープを扱っている店は少ない。

 別の宿に食事だけとりに行けばいいだろうにそのことに気付かずに女将に食い下がっていた。


「そんなに言うならアンタが作ったらどうなんだい!」

 そして怒られていた。


「そんなことを言ったって私は調理場に立ったことは無いよ」

 公爵家の一人息子で魔法使いサマだ。当たり前である。


「なんだって?!お嬢ちゃんいい年してそんなことじゃ美人なのに嫁の貰い手がつかないよ!教えてあげるからさあこっち来た来た!」

「よ、よめっ……!?いや、お嬢さんはそちらのほう……」

 盛大な勘違いをされているが俺も初見で思いっきり間違えた身なのでなにも言うまい。

 下町の人間は日に焼けて肌が老いるのも早い。ほとんど日に当たらずに育ったお坊ちゃんの年齢を読み違えるのも仕方ない。あの人は俺より一回り上だ。本来の年齢と性別から考えたら確かに女将の方がお嬢さんである。


「エド、エドワード。おまえからも説明してやっておくれ」

「今日はもう予定もないのでごゆっくりどうぞ。」

 なにはともあれ旅の相方が料理を覚えてくれれば俺としても楽なので調理場に連れ去られる主を俺は笑顔で見送った。

 花嫁修業というなら繕いものも覚えて頂けると有り難い。今度やらせてみるか。




「まったく教えがいのない子だったよ!」

 夕食のメニューは肉入り巻きキャベツのスープだった。

 黄金色の野菜だしの中に大きくてきっちり巻かれた緑のキャベツと小花のように飾り切の施された赤い根菜、絹布のようにふんわりと広がる白い雲呑が入った見た目にも華やかな一品だ。添えられている副菜も大きめの白皿に余白をたっぷりとって美しく飾られている。

 旅人向けの宿で供される品というより宮中晩餐会にでも出てきそうな繊細な見た目の品に仕上がっていた。そんなもの見たことはないが。


「ずいぶんと手の込んだものをお作りになったんですね。驚きました。」

 初心者に作らせるには飾り切やら破れ目なく薄く延ばしてまとめられた雲呑は繊細すぎる。見栄えをよくしようと女将が足したのだろうか。いや、そもそも女将が怪我をしていることがきっかけだったのでそれは無いか。


「この子があんまりにもなんでも簡単にこなしちまうからアタシもムキになって色々無理難題吹っかけちまってねえ」

「そう?とっても楽しかったよ」

 女将の言葉にルカは微笑んで言った。幼いころ手の込んだ華やかな料理ばかり口にしていたからか、まず野菜を切るように指示したらいきなり飾り切に挑戦し出したらしい。宿場町の女将が知る由もないモノを作り始めたりと教える前からずいぶんかわいくないことをするものだから、いろいろ挑戦させた結果がこのきらびやかな料理という事らしい。

 嫁に嫌われる姑になりそうな女将だ。


「まあ味はふつうですね。」

 俺がそう言うと

「ええっ、そんな……。」

「なんてことを言うんだい!兄ちゃんそんなんじゃ嫁がもらえないよ!」

 どちらにも良くない印象を与えてしまったようだ。心外である。しかしこの女将は嫁、嫁うるさい。お見合いババアめ。

 だがルカの事を女だと思っていながら俺たちのことをカップルだとは思われていないようで安心した。俺は今相手の気持ちを知りながら無視を決め込んでいる状態なのでそこに触れられると気まずい。

 触れられたとしてもはっきり違うと答えるだけだがわざわざ宣言することでルカが落ち込むことはわかりきっているから避けたい。二人旅であるのだし。


「いや、固焼きパンそのまま齧ってた人がずいぶんな進歩だと思いまして。褒めてるつもりだったんですがね」

「弁明してるんだろうけどそれでも褒めてるようには聞こえないなあ。おまえが王宮になじめなかったのも頷けるね」

 やっぱりうまく伝わらないようだ。だけどそちらの言い方も大概だとは思う。人のふり見て我がふり直せないあたり俺たちはよく似ているな。


「じゃあ俺たち似た者同士ですね。貴方も到底馴染んでいたとは言い難い!」

「その通りだね!今はとても、楽しいよ。どんな戯曲を観覧するよりも、邸宅で夜通し踊り明かすよりも、おまえと一緒にいろんなことをして、今は何もかもが楽しい。」

 告白まがいのセリフと受け取れなくもないが今回に限っては純粋にそう思っての賛美のようだから素直にうれしく思っておこう。

 この人と友人になりたいと思ったのは2度めだ。

 気持ちにこたえることはできないが、このような人が親友であったらどんなにかいいだろう。この旅のはじまりで抱いていた嫌悪感は薄れ、今ではそう思えるようにまでなっていた。





いつも部分ネタだけ思いついて書くのでオチに困ります。

なんとなく目指すものとして親友エンドがいいかな。

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