表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

心理戦

パオと二人で作戦会議をしたトーマ。


戻ってきたユーリはアンプルを使用し、トーマの能力を確認したかと思うとまた逃走。


また逃げられた!と憤慨するトーマに残された時間はたったの5分。


状況は先程とは一変した為、再度二人で作戦を練り直す。



はたしてトーマvsユーリの決着は。


「ぁぁぁあ! もう! せっかくのチャンスだったのに!」


トーマは自分の太腿を強く叩いた。

まぁまぁとトーマをなだめながらパオは言う。


「……まだバーサスは終わってないよ! よかったじゃないか!これで、その……5分間戦略を立てられるっ!☆ミ」


そう言いながら手にメモを取る様な仕草をした。

パオは当初の予定とは違う結果に若干動揺し、これまでとは少し違うポーズになっていた。


「そうだけどさぁ……これでユーリは俺の能力の詳細が分かったんだよね? 」


パオは若干申し訳なさそうにしている。


「そうだよ、きっと今頃作戦を練っているはずさ!☆ミ」



はぁ……とトーマは溜息をついた。


「じゃあこっちも作戦立てよう。」


とりあえずステータス画面を開き、所持品を確認。

アイテムなどは特になくソード・ランス・シールドの3種だけだった。


「うーん、後はアンプルだけか……」


トーマのアンプルは左右所持している物を【代える】と、最後に自分が触れた物を自分が所持している物と【代える】の二つ。


腕組みをしながらトーマはしばらく考え込んだ。


「……なぁパオ、バーサスに勝つ為に必要な事って何?」


パオも腕組みをしながら応える。


「んーそうだねー、当たり前だけどやっぱり裏をかく事じゃないかな? 」


「だよなぁ……そうなるとユーリが知ってる情報と知らない情報が何なのかだな ……」


「んー、大概の事は知ってるだろうね……あっ、まだユーリの前では能力を使ってないよね。だったら知らないのはアンプルの発動アクションくらいかな?」


「発動アクションか……あ、そのアクションって何でもいいの? 例えば指定した武器を具現化したらアンプル発動とかも出来る? 」


「可能だよ!ちょっとやってみようか? ☆ミ」


そう言ってパオは実際に設定を変えて見せてくれた。

パオの右手が光り、剣が現れて一拍。

再度右手が光り、アンプルが発動した。


「おぉ!思ったより発動するの早いね! 」


「そうとも!このゲームのアクションはラグが無いってのも人気の一つなんだ。同じ様に武器の具現化も出来るよ! ☆ミ」


そのままトーマは少し考える。


「なるほど……」



ーーそう言ってトーマは目を瞑った。



「ユーリを欺いてアンプルを使わせる……」



トーマは大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き、目を開いた。


「これだ…… 俺が勝つには恐らくこれしかない!」


「おぉ!閃いたのかいトーマっ!ちょっとその作戦教えてくれよ!☆ミ」


パオは何故か自分の様に喜んでトーマに聞いた。


コレをこうするとこうなるから……


ーー本日2回目の作戦会議はユーリが戻るギリギリまで続いた。




ちょうどユーリが逃亡してから5分が経った頃、予定通りにユーリはのんびりと徒歩で戻ってきた。


トーマとパオが話をしているのが見えても特に焦る様子も無く、この後の戦いを知っているかの様だ。



「……あらトーマ、いろいろと準備してるみたいね。 ちょっとは遊べるようになったかしら? 」


ユーリの声が聞こえ振り向くトーマ。

その手には槍が握られている。



「おー、ユーリ来たか。俺のアンプルにビビって逃げたのかと思ったよ。」



「素人のあんたにビビる訳ないでしょ?」


腕組みをしながらの上から目線。

ユーリは相当自信があるようだった。



しかしそんなユーリを見てトーマはヘラヘラと応えた。


「そのわりにはキッチリとアンプル使って能力確認してたじゃん、しかも5分逃げたしー?」


ユーリの眉がピクリと動く。


「なっ……バカねぇ、あんたに考える時間あげたのよ!」


「ユーリにはこの作戦分からないだろうなー。いくらアンプル能力が【聴く】でも使わずに負けちゃうんだから。」


眉間に皺を寄せ、口元もピクピクと動き、ユーリは怒りを露わにしていた。


「は?何それ、うっざー。」


トーマはニヤリと笑い、耳に手を当ている。


「え? 何て? 聞こえないよー? 」



「もういい! 手加減してあげようかと思ったけどやめた! 」


ユーリは構えた槍よりも鋭い眼でトーマを睨みつけた。


「怖っ!よーし、やるか!」


それに合わせてトーマは身を震わせ同じく槍を構える。


「二人ともっ!頑張ってね!☆ミ」


パオの決めポーズを皮切りに二つの槍は動きだした。


距離は縮まり、瞬く間に鍔迫り合いの音が響く。

至近距離で武器を重ね、睨み合いながら両者が交わす言葉には余裕が無かった。


「っ……へぇ。まさか真っ向勝負を挑んで来るとは思わなかったわ。」


「これも作戦の内さっ……悪いけど勝たせもらうぞ、ユーリ。」


ユーリの口角が少し上がり、そのまま少し息を漏らした。


「ふん、やってみなさいよ。コレを避けられたら……ねっ!」


そう言うとユーリの槍が光り、盾へと姿を変えた。

お互い攻めの姿勢であったはずが状況は一変し、トーマの攻撃が盾で防がれる形になった。


「えぇ!? ちょっ、え!?」


トーマは一瞬盾に気を取られユーリから視線を外した。


「そんなにキョロキョロしてたら終わっちゃうわよ!」


次の瞬間、ユーリの右手には剣が握られ切っ先が最短距離でトーマに襲いかかった。


「くそっ!」


トーマはそのまま槍を押し込み身体を右へと流し、刺突を避け距離を取った。


「あら、避けられちゃった。」


ユーリはゆっくりと突き出した右腕を戻し、つまらなさそうにしている。



「何だよ今の、槍が盾に変わって……」


トーマが若干の焦りを纏い、そう呟くと溜息が聞こえた。


「はぁー。 今のでサクッと終わると思ったんだけどなー。 パオに教えてもらったの?」


「待たせてもらってる間に少しだけ……ね、でもまさかこんなに切り返しが早いとは思わなかったな。」


「あらそう、なら私が勝ったも同然ね。つまんなーい。」


ユーリは口を尖らせまた溜息をついた。


「……ねぇトーマ。 あんた3ポイントゲットして勝ちたいんでしょ?だったらかかってきなさいよ、あんたが攻めずに私がアンプル使うとでも思ってるの?」



ーー先程の作戦会議で立てた予想と現在の状況は大幅に違った。


ユーリを挑発し、攻撃を防ぎ、隙を見て作戦を仕掛けて勝つプランを立てた。

しかしユーリの攻撃はトーマの予想を遥かに超えたスピード。

自ら攻撃を仕掛けるどころか防御するのが精一杯だった。


どうする……ユーリの隙を誘う方法はあるのか。



「……分かったよ。正直無理ゲーっぽいけどやるしかないよな!」


「じゃあかかって来なさいよ。普通やっても勝っちゃうからオマケでアンプル使ってあげる。」


「相当舐められてるな……絶対勝つ!」



トーマはそう言いながら槍を強く握り、爪先に力を込め走り出した。




ーー作戦は最早皆無。




出来る限りの攻撃を仕掛けてユーリの隙を作り出す、それしかない。

剣よりも攻撃のアドバンテージが有ると思い摑んだ槍だったがユーリのスキルを上回る事が出来なかった。



ーー突けども盾で塞がれ。




ーー薙ぎ払えど槍で止められ。




ーー石突をも使い連撃を仕掛けても剣で弾かれるばかり。




遊ぶように武器を変え、何も言わずに攻撃を捌くユーリからは何も感じられない。

いくら軽いとは言えど腕を振り続けるのも辛くなった。








ーーしかしトーマの仕込みはここまでだった。






「くそっ!全然……当たらないっ!」


「ほらほら、そんなんじゃアンプル使えないわよー? 」


ユーリの言葉と同時に両手で握っていた槍は左へと弾かれる。


「くっ……ここだぁぁぁあ!」


危うく手離しそうになる左腕に力を込め再度振り上げた時、槍は光を放ち姿を変えた。






ーーその姿は自身を守る為の盾。







「ええっ!? 間違えた!! 」


「はぁ? あんた何してんの? だっさー。 」


そう言ってユーリが手にしていた槍を下げた。


しかし、トーマはニヤリと笑いの腕はそのまま振り下ろした。



「これならどうだぁぁぁぁぁ!」


渾身の力を込め振り下ろした盾は加速中に再度光り、姿を変えた。






ーーその姿は自身の意思を貫く為の槍。





その攻撃を見たユーリも笑みを零し、右手からキラッと光を放つ。

右手に持っていた槍を剣へと変え、トーマの強襲をいなした。


そのままトーマは体勢を崩し、前方へと転がり受け身を取る。


「っふぅー、残念でしたトーマ君。君の【代える】は見えてましたよー? 」





ーーここだ。





トーマは転がりながらその場にある石を手に取りユーリを睨みつけた。



「石?それ使ってもポイントにはならないよー?」



そのままトーマは手にした石を地と平行にユーリに向かって投げ放つ。



「ざんね〜ん、もうおわ…」





ーートーマはまだニヤリと笑っていた。





何かある、ユーリの全身に寒気が走った時にはもう遅く身体が強張ったまま投げられた石に目を向ける。





その時トーマの左手とユーリに向かって投げられた石がキラッと光った。





次の瞬間、ユーリに向かって飛んできたのは高速で回転する槍へと変化していた。






「えっ、ウソ……」






槍はそのまま呆気に取られたユーリへと至り、打撃音の次にユーリの声が上げた。



「え!? 今の……ぃいったぁぁぁぁぁい!!」



ーー当たった!


ユーリの声が聞こえた瞬間に祈りが確信へと変わる。

トーマは膝を地に付け、両手を握り締め空を仰ぎ雄叫びを上げた。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」




しかしその喜びも束の間、変わらない口調のイヴの声が聞こえた。



『トーマ、腹部へのダメージにて1ポイント。』




「……え? 1ポイント? 」

聞こえるはずだった内容とは違う言葉がトーマに深く突き刺さっている。

頭の中で状況確認をしていると後ろからユーリの声が聞こえる。





「残念でした、私の勝ちね。」





あっ、と思った時にはユーリの槍がトーマの頭にコツンと軽く叩き、敗北の衝撃をもたらした。

頭皮全体に走る電撃の様な痺れは形容し難いもので只々叫ぶしかなかった。


「いだぁぁぁぁぁぁぁあ!! 」




そしてこの戦いに終わりを告げるのは、やはり彼女だった。





『ユーリ、頭部へのダメージにて1ポイント。合計3ポイント、ユーリの勝利です。』




「ふぅー。でもまさか1ポイント取られるとは思わなかったわ。」


ユーリは武器を消し、呑気にステータス画面を見ている。

しかしトーマにはその意味が理解出来なかった。

頭を押さえながら素直に聞いた。



「……絶対勝ったと思ったのに、何で?3ポイントじゃなかったんだ? 」


「……あぁ。 簡単な話よ。ただ私がここに来る直前にアンプルを使って来たからあんたが3ポイント取れなかっただけよ。」


「えぇ!?最初の時点で使ってたの!?じゃあ何でさっき光って俺の不意打ちを避けたんだよ、あれアンプル使ってたんじゃないのか? 」


「そうよ、でもアンプルは先に発動済みだったから3ポイントじゃないの。私は事前に『トーマが作為的に武器を代える瞬間』をアンプル使って聞いたの。光ったのは私が武器を変えたからよ、耳は光らなかったでしょ? あと、使ったふりをすればトーマの作戦も見れるかなーと思って。」



「そんな事にアンプル使ったら俺がアンプル使う時に避けられないんじゃ……」


「私のアンプルは元々攻撃的な能力じゃないから自分が2ポイント取られてる時以外は事前に発動した方が圧倒的にリスクは低いの。だけど今回の相手は素人、しかもレイドバーサスで私が2点先取。別に戦闘中にアンプル使ってもよかったんだけど万が一で逆転負けするのはイヤだったから事前に発動しておいたの。」


「……踊らされてたって事か。」


「そうね、はっきり言って3-0か3-1で私の勝ちってのは戦う前から分かってた。 けど戦ってる途中でそのままやってもつまらないな〜思ったから3-1にする為に『トーマがアンプルを発動させて逆転勝ちした』と勘違いさせて隙を狙うことにしたの。」


「うわーっ! なにそれ! 心理戦ってそういう事!?」


「そういう事、さーてユーリ先生のによる戦い方のレクチャーは終わり!」


「あぁぁぁぁぁいけると思ったのに! 悔しいぃぃぃぃ!!」



トーマは叫びながら大の字でその場に寝転んだ。


顔を横に向けると土埃を上げながらパオが爆走して来るのが見えた、かなり早い。


「ユーリちゃんっ!美しいバーサスだったよ!流石だねっ!☆ミ」


忘れた頃にやって来たパオの決めポーズは相変わらずダサかった。


「何が流石だねーよ、入れ知恵したくせに!あーあ、お腹も減ったしご飯おごってよ。愛しのユーリちゃんレベルアップ祝いで!」


「序でに食事を要求するなんて!姫スキルも上がってるねっ!☆」


「うるさい!その一言がいつも余計なのよ!」



ーー二人の争いを横目にトーマはこれまでを振り返っていた。


リアルの世界でゲームが好きでたくさんプレイし、その度に攻略法を考え、画面の中のキャラを勝利へと導いてきた。

クリアを重ねる毎にそれは自信となり、楽しみが広がっていくのが自分でも分かっていた。


しかし、突然放り込まれたこの世界で今までの経験を駆使して戦い、手にした物は敗北の二文字だった。



悔しい。



出来る限りの事はしたつもりでいたが完全に裏をかかれたトーマには敗北よりも悔しさの方が強く刻まれていた。




「……でも、すっげぇ面白い。」


そう呟いたトーマの声に気が付いたのはパオだった。



「トーマっ!頑張ったね!ユーリちゃんの方が一枚上手だったけどかなりセンスあるよ!お祝いでトーマの分もご馳走してあげよう!☆ミ」



そう言ってパオは決めポーズではなく、トーマに手を差し出した。


「へぇー、このゲームは食事まであるのか、じゃあご馳走になろうかなっと。」


パオの手を掴み立ち上がり、既に先を歩くユーリを二人で追いかけた。







ーーverbの魅力に取り憑かれたトーマ。






ーー帰る手段をユーリから教えてもらってない事に気が付くのはまだ先だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ