作戦会議
これも帰る為…
そう思いながらユーリとのレイドバーサスを開始した主人公トーマ。
しかしユーリは戦い方を教えると言いながらも意地悪ばかり。
横にいるパオはウザいポーズばかりでトーマのイライラは最高潮。
どうしてもユーリに勝ちたい!
その意思を受け取ってくれたパオとユーリ攻略に向けて作戦会議を始めるが…
ダサい決めポーズが炸裂して数秒の間、何も言えずトーマとパオは固まっていた。
……
「……そのポーズ、お気に入りなのか? 」
トーマは突っ込んではいけないと分かりつつも聞いてしまった。
どう考えたって何か言う度に変な格好をするんだから決めポーズに違いなかった。
その質問にパオは姿勢を崩さずに応えた。
「トーマっ!君にはコレがお気に入りじゃないように見えるのかい!?☆ミ」
満面の笑みで見られるとなぜかこっちが申し訳無くなる。
「そっ、そうだよな、イイと思うよそのポーズ……違う! ユーリが逃げた! どうすればいいんだよ! 」
無駄な二人の問答はユーリのアンプル回復時間に貢献していた。
「トーマっ!恐らく君一人の力じゃ今のユーリちゃんは倒せないよ! 僕が手伝ってあげよう! ☆ミ」
この時の決めポーズはなんだか頼り甲斐があるように見えた。
「おぉ! 本当か!じゃあちょっとアンプルについて教えてくれ、俺のアンプルは【代える】なんだけどどんな能力なんだ!? 」
するとパオはうーん、と言いながら胸の前で両腕を組んだ。
「僕もそのアンプルを持ってる人に会ったことがないみたいだから分からないなぁ。とりあえず使ってみるのはどうかな!? ☆ミ」
「えっ、でも使ったら5分間発動出来なくなるんだろ? もったいないよ。」
パオはトーマに近寄り、目の前で指を振った。
「チッチッチ、トーマ甘いよ!甘過ぎるよ! スイーツだよ! 戦闘に必要なのはまず自分の戦力を知る事だ、戦力を知らずして戦略なんか立てられないよ!☆ミ」
パオが言っている事はもっともだった。
ここに飛ばされる前にイヴが言っていた
事を思い出した。
「自分が選択した能力を活かす為の発想力により、戦闘に大きく差が発生する……」
「そうだよトーマ! その通り! ビターになってきたよ! 」
うんうん、とパオは嬉しそうな顔をして頷いた。
「……でもアンプルってどうやって使うんだ? 」
目の前で動き回るパオがピタッと止まった。
「ん? チュートリアルで教わったはずだよ! もしかしてトーマは説明書を読まないでゲームを始めるタイプかい?☆ミ」
チュートリアルは受けていないが説明書を読まずにゲームを始めるのは図星だった。
「あぁぁぁぁあ! 何で俺だけチュートリアル無かったんだよ! パオゴメン! 教えて! 」
パオはニヤッと笑い大きく頷いた。
「OKトーマ! ユーリちゃんが戻って来るまで時間がないから急いで話すよ!☆ミ」
この後様々な決めポーズと共にパオは戦闘について教えてくれた。
このゲームは様々な行動を自分で決めたアクションで発動する事が出来るらしい。
例えば武器の出現。
ソード、ランス、シールドの三種類は戦闘中に発動させることが多いらしく大多数のプレイヤーは手の形を変えて発動させるそうだ。
アンプルの発動も同じだ。
しかしアンプルの場合は両手が塞がっていても使える様にプレイヤーによって異なる。
トーマはアンプルの発動条件をとりあえず【奥歯を二回鳴らす】に設定した。
ちなみにパオのアンプル発動は例の決めポーズの中のどれからしい。
実際にアンプルの能力を見る為に発動するとステータス画面に詳細が現れた。
アンプルの能力は二つ。
①両手に持っている物を左右【代える】事が出来る。
②最後に自分が触れていた物を自分が所持している物と【代える】事が出来る。
この二つだった。
「んー、この能力ってどうなんだろう。ステータス差が無いなら武器交換したって微妙じゃない? 」
トーマは額に皺を寄せながら両手を交互に見比べた。
一方のパオはうーん、と唸りながら深く考え混んでいた。
「トーマ、恐らくだけど能力というか状況を上手く使えばユーリちゃんに勝てるかもしれないね……」
「え? 何で? だってユーリの能力は俺の考えてる事とか能力を読めるんだろ? 」
ユーリの能力は【聴く】。
通常であれば初めて戦う相手の能力の詳細は戦闘後に記録される。
だがユーリの場合は能力を使う事で戦闘中に相手の能力を知る事が出来る為、戦闘を優位に運ぶ事が出来る。
「確かにそうなんだけど、このゲームの場合能力はもちろん大事なんだけど基本的には心理戦なんだよ。」
心理戦なのはトーマも十分理解しているつもりだったがパオが言っている意味を理解出来なかった。
「??? どーいうことだ? 」
「そうだねー、例えば。ユーリちゃんはまだトーマの能力の詳細は知らないだろ? だからユーリちゃんは自分の能力を使えばトーマのアンプルがどんな能力なのか知る事が出来るよね?」
「うん、だからバレちゃったら意味ないじゃん。」
「そうなんだけど、ユーリちゃんはそんな事に能力を使うかな?トーマの能力が分かった所で自分は5分間能力が使えなくなるし、能力を知る為だけに使うとユーリちゃんはトーマが【代える】を発動た時に攻撃を避けきれるかわからないでしょ?」
「確かに……でもユーリは俺の攻撃なんて余裕で避けられるんだろ? 当たったとしても1ポイントしかもらえないんだから知る方が最優先なんじゃ? 」
「そう、そうなんだよ。 だけどこれは確かレイドバーサスだったよね? 知らないと思うけどレイドバーサスは自分よりレベルが高い人にしか挑めない戦闘で、挑まれた人は拒否出来ないんだ。そして何より重要なのは2ー0で挑戦者が負けてる時だけ、挑戦者がダメージを与えると3ポイントもらえて勝つ事が出来るんだ。」
「え!? 逆転出来るのか!? 」
「その通り!だからユーリちゃんから見ると無闇に能力を使ってダメージを追う方が負けちゃうリスクが高いのさっ!☆ミ」
ここぞとばかりにパオの決めポーズが炸裂した。
「おぉ!なるほど! 」
「でも3ポイント取得するには条件があるんだ。勝っているプレイヤーがアンプルを発動させた直後にダメージを与える事。」
「ん?でもそれってユーリがアンプル使って時間が経ってたら意味ないんじゃないか? 」
「そう、だけど今ユーリちゃんは能力が回復するまで逃げるよね? って事は戻ってきた時がトーマにとってはチャンスなのさっ!☆ミ」
「俺が勝つチャンスはそこしか無いって事か……分かった、後はユーリがどうするか予想して作戦を練ればいいんだな! 」
パオはその言葉を聞いた瞬間、その場でクルクルと周りだし恒例のポーズを決めた。
「その通り!で、作戦についてなんだけど……多分ユーリちゃんがそろそろ戻って来る頃だから戦いながら自分で考えるんだっ!☆ミ」
「えぇ!? もう5分!? ちょ、どうしよう……」
そう言っているとタイミング良くユーリの声が聞こえた。
「やっぱり……。 パオ! トーマに何か教えたわね! 」
「おぉ!愛しのユーリちゃん、帰りを待っていたよ!君が楽しめるようにトーマにはイイ事を教えてあげたのさっ!☆ミ」
「うわー、最悪。まぁでもどうせ能力の話でしょ? 」
「パオにはいろいろ教えてもらったからな、さぁユーリ! かかって来い! 」
トーマは剣と盾を取り出しユーリに勇ましく吼えた。
「……ふーん、じゃあ私からは勝つ為の術を教えてあげる。 」
そう言うとユーリの耳が光った。
「え? ウソ、もう能力使っちゃうの!? 何で!? 」
まさかいきなり能力を使ってくるとは予想していなかったトーマは為す術もなく躊躇していた。
「……なるほどねー、予想とは違ったけどこれはめんどくさそうな能力ね。それじゃ。」
「え? ちょっと待った! どこ行くんだよ! 」
トーマの制止の声も虚しくもユーリはそのまま姿を消してしまった。
……
「おいパオ……どういう事だよ……?」
パオは少し考える仕草を見せ、例の決めポーズをした。
「トーマっ!多分ユーリちゃんはまた5分間逃げて能力を回復させるつもりだよ!流石愛しのユーリちゃんっ!自分の能力をよく分かってるねっ!☆ミ」
「……ふざけんなよぉぉぉぉぉお!! 」
ーーこの瞬間、トーマの中で今日一番ムカつくポーズが更新された。