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ファーストコンタクト

突然見知らぬ部屋へと飛ばされた主人公。


そこで待ち受けていたのは2034年に作られる「個人の適性」を活かして作られたゲームの世界だった。


所詮ゲームだと軽く考えていたが自分の家にはすぐに帰れない事が発覚。


案内人の言うことに従って渋々ゲームを始めたが、目の前に広がるのはあまりにもリアルな世界だった。


彼の物語はここから始まる。

目を瞑ってから数秒後、辺りの雰囲気が変わった。


穏やかな風を感じる。


目を開くと色鮮やかな自然が飛び込んできた。


「……え? これ本当にゲームなのか? 」


体には風、耳には音、鼻には匂い。


それは自分が知る限りで自然としか言えなかった。


「うわー、スゲー! ……いや本当凄いな! 」


男が知っているゲームと言えばコントローラーを握って画面の中のキャラクターを操作する物。


しかしverbはコントローラーもキャラクターもない。


現実と何ら変わらないのだ。


更に目の前に広がる景色もポリゴンとは思えない表現力。


風が吹けば草が揺れ薫る、太陽と雲が重なれば影が生まれる。


足元に広がった草原に座り、足を投げ出し空を仰いだ。


「っかぁー……何か久しぶりに外出た気分だな。」


男はここ最近、高校の夏休みをいい事に引き篭もってゲーム三昧だった。


「……すげーなー、こんなゲームがあったら余計に引き篭もっちゃうなー」


ここまで現実に近い状態だと引き篭もってる事すら忘れてしまいそうだ。


一息ついて目を瞑りこれまでを振り返った。


学校は休み。



昼からゲームをしていても怒られない。



宿題は後でやればいい。




「嗚呼、夏休み最高……じゃない! 帰らないと! ステータス画面どこだ? 」


キョロキョロと見渡しても何もない。


「イヴー! ステータス画面どこだー? 」





ーー返事は無かった。


「あれ、んー。……ステータス画面の確認方法聞いておけばよかった。」


後悔先に立たず、未来の世界でも通用する先人の言葉は偉大であった。


「仕方ない、他のプレイヤー見つけて聞いてみるか。」


足の汚れを手でパンパンっと払い、立ち上がった。


「あー、腹減ったなー。 町にご飯とかあんのかなー。」


そう呟きながらフラフラと歩き始めた。



ーーこの後、約1時間程歩いたが町のまの字も見えなかった。



「……くっそー、白い部屋もそうだったけどここどこだよ! 」


現実の様に整備された道ではない分、体力の消耗と愚痴を零すのは思いの外早かった。


傍らにある切り株に腰掛け一息ついたその時、後方から女性の声が聞こえた。


「そこの男! 動かないで!」


不意に聞こえた声に驚き後ろを振り返るが姿はない。


「誰かいるのか!? 丁度よかった! ちょっとこのゲームについて教えてくれ! 」



「……なーんだ、ルーキーじゃない。」


そう言って木の上から女性が声と一緒に降りてきた。


着地の瞬間、さらりとなびく赤髪がとても綺麗だった。


臙脂色のジャケットに銀色の軽鎧、黒のロングブーツが細身の脚に良く映えている。



「ルーキーがこんな所で何してるの?」


彼女は両手を腰に当て、訝しげにこちらを見ている。


「おぉ! やっと人に会えた! ステータス画面ってどうやって見るんだ?」



待ちに待ったプレイヤーだった。


これでようやく帰れると思うと、ここまで歩いた疲れはどこかへ飛んでいく様だ。



思い返せばイヴには色々教えてもらったなー


帰ってプレミアムエンディング見よかなー


そうだ! 帰ったらこのゲームもそのうちやろうかなー



そんな事を考えながら数歩、歩み寄ったが女の一言が全てを砕いた。



「え、ヤダ。」



アニメならここで大袈裟に絶望する所だがここは正念場だ、聞き出す為の戦いが始まる。


カーーンと気持ちの良い試合開始のゴングが頭に響いた。



「………えーっと、いやーいきなりゴメンね! ちょっと時間いいかな? 」


「ゲームの中なのにナンパ? だとしてもそんなんじゃ釣れないよ? とりあえず初対面なんだからはじめましてからじゃない?」



ーーこれはいきなりラスボス級。



「あー、ゴメンゴメン!俺の名前は……」



ーーあれ? 俺、名前決めてない……!


「えーっと、アハハ……何だっけ。」


「はぁー…… もういいよ。本当に始めたばっかりなんだね。私の名前はユーリ、よろしく。」


「よ、よろしく! …本当にゴメン、自分の名前もよく分からないんだよね。」



ーーこれはマズい、語弊があるかもしれない。



「何それ、記憶喪失設定? だっさー。」



ーーもうダメだ、勝てる相手じゃない。


「ははは……名前ってステータス画面で見れる……?」



「はぁ… ホント最近会う奴はバカばっかり。」



頭の中で試合終了のゴングが鳴った。


心の中でタオルを投げ1ラウンドTKO負けだ。



何も言えず黙っているとユーリは荒っぽく口を開いた。


「 チュートリアルで教わったでしょ? アンプリファーの赤いボタンを押せば開くわ。」


「その……アンプリファーってやつ持ってないんだよね。」


「落としたの?うわー、再取得申請大変らしいから頑張ってね。デフォルト設定なら右腕を振れば開くはず。」


そう言いながら彼女は開いた右手を前に突き出し、腕を右に振る。


「ほら、ステータス画面は自分以外見えないから試してみたら?」


言われた通り右腕を振るとイヴが映っていた様なホログラムが現れた。


そこには自分の情報が羅列されているが何を表しているのかは分からなかった。


一つ分かったのはこの世界での俺の名前は「トーマ」だということだ。


ゲームをする時によく使うハンドルネームだった。


しかしまさかここでも同じ名前になるとは思わなかった。



「うわっ! スゲーなコレ! こんな事本当に出来るんだな……」


「……リアルでもこれくらいあるでしょ。田舎者なの? 」


初対面だというのに女は呆れた顔を隠す素振りすら見せなかった。


「本当にさっき始めたばかりだからさ、よく分からないんだ。悪いんだけど色々教えてくれない? 」


「えぇー? めんどくさいなー……」


女は考える素振りを見せるが甚だ怪しい所である。


そんな事を考えていると彼女はあっ! と声を上げた、迷案がうかんだらしい。


「じゃあこういうのはどう?私が教える代わりにpvpポイント貢献してくれない?」


「pvpってプレイヤーvsプレイヤーの事か?」


「あなた本当に何も知らないのね、丁度いいじゃない。おまけで戦い方についても教えてあげる。」


「お、ホントか! じゃあお願いします!」


これで帰れる……と思ったのも束の間、男の叫ぶ声が遠くから近付いてきた。




「……ゥゥゥハッハッハァァァァ!! 愛しのユーリちゃん会いたかったよーっ!☆ミ」



走った勢いで滑り込みながら登場したこの男、見るからにお調子者である。


「はぁー……出たよ、バカ1号。」


そう言ってユーリは顔を手で覆った。



「クックック、お待たせしたねー! ユーリちゃんっ! いつでもどこでも貴女のナイトことパオ様参上!☆ミ」


ーーこいつ、ポーズが激ダサい。


「誰がナイトよ! 誰もアンタなんか呼んでない! 人の名前を気安く呼ぶな! あとダサい!」


「今日も褒めてもらえるなんて光栄です☆ミ」


「誰も褒めてなんかないわよ!」



ーーこの感じはきっといつもの流れなんだろうなと思った。



「これはこれは! 今日も元気な御様子で何よりです!☆ミ」


「うるさい!あんたもホントしつこいわね!」


ーーつい先程、ユーリから自分がこの素敵なナイト様と同じ様に見られていたんだという事に気付き、かなりショックを受けた。


「いや〜、たまたま、【たまたま】通りがかったところにユーリちゃんがいたからつい、ね?☆ミ」


「待たせたとか言ってたくせに何が『たまたま通りがかった〜』よ! ホントは走って追いかけて来たくせに、アンタバカ!? 」


「これは様式美……」


思わず口にしてしまい、ハッと両手で口を塞いだが遅かった。


2人に物凄い形相でこっちを睨んでいる。


ヤバい……と思ったが、次に続いた物も素晴らしい様式美だった。



「「アンタは黙って(ろ)っ!! 」」

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