震える指先
『震える指先』
冬。
僕は決めた。
人生初めての経験。ずっと大好きだったあの子に告白をする。
入学したてで一人ぼっちだった僕。そんな僕に明るく話しかけてくれた黒髪ボブの小さな整った顔立ちの女の子。その子から放たれる純粋無垢な笑顔に僕は見とれてしまった。それからというもの、いつも僕に気軽に話しかけては笑顔を振りまいて、暗い顔をしたのは見たこともない。
あの子は僕にとって太陽みたいな人だ。僕は彼女に憧れた。あの子と一緒にいたら、僕も、彼女のように明るくなれるかもしれないし、もしそうじゃないとしても明るい気分で過ごせるかもしれない。
僕はあの子のことが好きだ。明るいところはもちろんのこと、優しいところや、怒りっぽいところ、時々見せる女の子っぽい一面も全てが好きに思えてくる。
僕は人一倍彼女と接してきたつもりだ。時々喧嘩したりもしたけど、彼女に嫌われるようなことはしたつもりはない。でもあの子はスポーツ万能で勉強もできる。だから今まで色んな男に告白されては振っての繰り返しをしてきたという噂も絶えない。僕もそのうちの一人になるかもしれない。でも、この好きという気持ちを伝えずにはいられない。
ここは屋上。彼女に話があるから午後5時に屋上に来てくれと伝えた。そして今は4時50分。教室でいてもたってもいられなくなり早めに屋上に来てしまった。外は雪が降っていた。それがとても幻想的に見えた。
寒い。手がかじかんだせいか、それとも緊張しているせいか震えがとまらない。何とか静まってほしくて手をこするけど、それでも震えがとまらない。これは緊張しているせいだとすぐに分かった。
彼女に告白して、もし失敗したら今までみたいに一緒に過ごせないかもしれない。そう思うと寂しい気持ちがした。でも。もう後戻りはできない。僕は決意を新たにし、ドアの方を振り返った。すると、彼女が立っていた。
彼女の方が先に口を開く。
「どうしたの?こんな雪の中わざわざ屋上に呼び出して」
僕は答える。
「話があるんだ」
彼女は察したのかいつもの笑顔から一変、真剣な表情に変わった。
僕はその表情を見て、振られるかもしれないというとてつもなく嫌な予感がした。
でも、もうここまで来ると後戻りすることはできない。
僕は意を決して次の言葉を放った。
「僕は君のことが以前から好きでした。僕と付き合ってください」
「………」
彼女は黙りこんだ。
沈黙の時。それはとても長く感じた。
彼女は真剣な表情のまま。
僕はドキドキしながら、彼女の動きを待った。その真剣な表情からは、OKなのかダメなのか全く分からない。いつの間にか止まっていた、手先がまた震えだす。
すると、彼女が突然ニヤニヤし出した。僕は、思ってもいない彼女の行動にどうしたんだろうかと思い、尋ねた。
「な、何がおかしいんだよ!」
すると彼女が似てもいない僕の真似をして、
「ボ、僕ハ君ノコトガ以前カラ好キデシタ。付キ合ッテクダサイ。だって。緊張しすぎだよ。」
僕は拍子抜けしたように、気が緩んだ。緊張が解けた気がした。
そしていつの間にかいつもの調子の二人に戻っていた。僕は怒ったように、
「俺は真剣なんだぞ!」
「だっておかしいんだもん。そんなに緊張している君を見るの初めてだし。ハハハ」
そして、彼女は頬を染めながら満面の笑みを浮かべて続けた。
「ごめんごめん。じゃあ私からも。私も、君のことが以前から好きでした。だから、私と付き合って欲しいな。」
僕はとても嬉しく思ったのと同時に、好かれていたことに対して急に恥ずかしく思い、顔がカーッと赤くなった。
「お!赤くなってる赤くなってる!」
彼女はまたニヤニヤしだした。
「うるせえ!」
僕は照れを隠すように声をあげた。そして、彼女はいつものように笑顔になり、
「じゃあ、これからよろしくね」
その時の彼女と雪が幻想的に重なりあって、彼女がいつも以上に綺麗に見えた。
頑張って書きました。まだまだ初心者なので良かったら感想などを頂けると嬉しいです。