ねむるまちに独り
(Side RIN)
ゆらり、ゆらりと紫煙をくゆらす。
窓辺に佇んで、何をするでもなくぼんやりと外を眺めると、視界にはここ数年眺め続けている住宅街が映る。
ありふれた、どこにでもあるような町並み。
けれど、ここにしかない、この町の姿。
所狭しと並ぶ家々は音もなく鎮座して、その内で眠る住人を静かに見守っている。
早朝の町は音もなく、人の気配も感じさせない。
昼間の喧騒が嘘のように、町はひっそりと静まり返っている。
人が眠るだけでこうも変わるのかと、ひとり思う。
「ふぅー…………」
長くゆるく煙を吐き出す。
その呼気の音がやけに大きく響いた。
「………静かすぎでしょ。逆にうるさいわ」
思わずひとりつぶやく。
つぶやいて、ふと思った。
呼気ですら響くなら、自分の声はどこまで響くのだろう。
「叫んだら、どこまで届くのかしら」
ぼんやりとそんなことを思って、煙越しに空を見た。
うっすらと雲のかかった空は、決して清々しいものではなかった。
「あなたまで届くのなら、恥をしのんで叫んでもいいけどね」
ぽつりとこぼして、すぐさまその言葉に苦笑する。
「あなたの望むところではないわね」
届いたとて、それを確認する術がないのなら。
届いたとて、返ってくるものがないのなら。
届こうが届かなかろうが、大差ない。
見えないものなど欲しくない。
私はいつだって、確かなものが欲しいのだ。
あの人だって、そうだったはずだ。
空を見ていた視線が落ちて、視界には無機質なベランダの床が映った。
味気のないコンクリートの床、ゆっくりと視線をめぐらせれば、“それ”は置かれている。
瑞々しいみどりの葉を風に揺らし、気持ち良さそうに朝日を浴びる、
私のアイビー。
「キミもそう思うでしょ、ジョージ?」
叫んだとて、届いたとて、どうしようもないのだ。
――めいいっぱい叫んだなら、その叫びはどこまで響くんだろう。
――わたしの叫びは、どこまで届くんだろう。
――それを聞いて、あなたは何をおもうんだろう。