真実の意味
男は、その惑星に調査艇で到着すると、ハッチを開けた。一面に果てしなく砂漠が広がっている。彼は、必要な機材と食糧を背負うと、移動艇に乗り込み、アクセルを踏んだ。ブロロロと地響きが鳴り、移動艇は、始動した。これから目的の砂漠の宮殿まで、丸一日はかかるだろう。彼は覚悟した。
単調であった。いつまでも続く白い砂漠地帯である。それを窓越しに眺めながら、彼はいつしか欠伸していた。
しかし、彼には、胸に秘めた、或る決意があった。それを見届けるまでは、この宇宙旅行を止める訳にはいかなかったのだ。彼は、眠い目を擦りながら、アクセルを踏み続けた。やがて、砂漠地帯は、岩石と草木の荒れ地に変わった。目的地が近いことを知ったのだ。
彼には、妻とふたりの子供がいた。彼らは皆、声を揃えて、この探検に反対した。万が一の危険を犯してまで、出かけることはないというのだ。しかし、彼は、家族の反対を押し切って、家を出た。そして、職を辞して、すべてをなげうって、この旅路に出てきた。もはや、後戻りは出来ない。それは、彼自身が一番に承知していた。
やがて、荒れ地から、遠くに、深い森に囲まれた奇妙な建造物が見えてきた。あれだ。彼は確信した。彼は、しばらく走行してから、移動艇を停止させた。
パキパキと枯れ木を踏んで、彼は、森の中を抜け、やがて、見上げるように高い宮殿を眺めた。それは、荘厳な光景であった。なんとも形容しがたい形をしているが、その扉は、見分けがついた。彼は、躊躇うことなく、力を込めて、その扉を押した。
彼は、目を見張った。その宮殿の内部は、思った以上に広かったが、無数に広がる通路の至る所に重なるようにして数々の宇宙服を着た隊員たちの死骸が転がって横たわっていたのだ。何だ、この死体は?何があったんだ?
どうやら、目的の部屋の扉は、あれらしい。豪奢に飾りのついた扉であった。
男は、たくさんの死骸の山を踏み越えて、その扉の前まで来た。
その時だった。
彼の前に、ひとりのぼろ布を纏った異星人らしい老人がやって来ると、彼を引き止めた。
「入ってはならん!」
と、老人は、流暢な地球語で話し出した。
「ここに入ってはならん!」
「なぜだ?」
と彼が尋ねた。
「なぜ、俺を止める?」
「これを見ろ!」
と、老人は、背後の死骸の山を指さした。そして言った。
「お前もこうなりたいのか?こうなってしまうんだぞ?」
「しかし」
と、彼は答えた。
「この中には、真実がいると聞いた。宇宙の真実。俺は、それをこの目で見たい。そのために、はるばる、ここまでやって来たんだ」
「分かってる。皆、そうだった。しかし、その結果がこうだ。死骸だよ。お前も死にたいのか?」
彼は、これまでの出来事を、まるで走馬灯のように回想していた。そして、その後に、決意した。
「止めるな。俺の意味がなくなってしまう。俺は行く」
そう言い残すと、男は、その扉を開いた。
やがて、男は、部屋から出てきた。その顔は、虚ろであった。老人が駆け寄ると、男が言った。
「終わったよ。凡てが終わった」
「見たのか?」
「ああ、美しい。美しすぎるよ。..................、もういい。もう生きる気もしなくなったよ、ここで眠るよ、俺は」
「やはり、そうか。お前もそうなのか」
もう、老人は、優しい顔つきをしていた。そして、悲しげに首を振ると、その場を立ち去っていった。
そして、男は、昏々と眠り始めるのであった...................。




