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魔法少女となった者の責務

 あれからの事は目まぐるし過ぎて覚えていない。

 ただ、家族が全員無事だった。それだけ理解出来ていれば他はどうでも良かった。

 落ち着いた日常が戻ってきたのはどれくらいしてからだっただろうか。

 そして魔法少女になったものの何も起こらないままアミは生活を送っていた。

 いつもの様に学校に行き、帰ってくる。

 ありふれた日常だ。

 しかしまだあの日の事は忘れられず、扉を開ける度に脳裏に焼き付いた家族の死が再生される。

 もう起こる訳がない。そう理解していても真実を見るまでは気が気ではいられない。

 だが、今日も大丈夫だった。皆無事に生活している。

 明日もきっと大丈夫。そう思い就寝のためベットに横になると、突然目に映る景色がポリゴンの様に荒くなり、崩れ始めた。


「なっ……何!?」


 状況の分からない中、アミはベットから飛び起きるとベットもポリゴンと化し消えていく。

 崩れた先に映るのは真っ白な世界。

 所々に白い四角柱が生えている、果てもなく続く純白の大地のみだった。


「やぁ、また会えて嬉しいよ」


 どこからともなくあの日出会った小鳥が飛んできて目の前に降り立つ。


「こんばんは。キミは新しい魔法少女かな?」


 それだけではない。

 アミの背後には見知らぬ少女が2人立っていた。

 話しかけてきた少女の背中には液体の入った大きなパックが背負われており、そこから伸びたチューブが両の腰にセットされている銃に繋がっている。

 それだけではない。物腰柔らかそうな顔付きのショートボブの少女の腰の後ろには、手榴弾のような物体も取り付けられていた。

 スキニーのタンクトップ姿にゴーグルをかけたその姿は装備も相まって、ゲームに出てくるような軽装で戦場へと赴く兵士のようだ。

 もう一人ポニーテールのキリッとした顔立ちでいかにも生徒会をやっていると偏見を持たれそうな面立ちの少女はと言うと、紅い袴を着ており、身の丈を優に越える弓を携えている。

 だがあるのは弓だけで、矢はなく、矢筒すらない。


「戸惑っている様だけど、残念な事に時間がないの。完結に言うわ。今からアナタには私達と共に敵と戦ってほしい。そのアナタの武器で」


 袴の少女がアミを指差すと、そこでようやくアミは自身の背中にあの日扱った巨大なハサミを背負っている事に気が付く。

 何でくっついているのかは分からない。

 そんなハサミを手に取ると、あの日の感覚がまるで今体感したかの様に頭に流れ込んでくる。

 その時に気付いたが、服装もあの日と同じフリルの付いた胸元の大きなリボンが特徴なドレス姿へと変わっていた。

 だが今は姿に関してはどうでも良かった。

 人を殺した感覚が手に焼き付いて離れない。

 それにより思い出されるあの日の光景。

 無我夢中だったとは言え、人を殺したと言う事実がアミの心を深く蝕んでいく。

 立っていられない程、胸が苦しい。

 過呼吸に頭痛、吐き気とどんどんとアリスの中を抉っていく。

 助けてほしい。

 しかし、誰に、何処に求めればいいのか分からない。

 誰か、誰でもいい。助けて。

 声にはならずとも、心の中で精一杯叫んでいると、不意に温もりがアリスに触れる。


「大丈夫。落ち着いて。深呼吸、深呼吸」


 そんな中、優しく温かい手がアミの背中を撫でてくる。

 不思議なことに銃の少女に擦られると徐々に気持ちが落ち着いていく。

 魔法とかそういう類いではない。

 人との触れ合いが、寄り添う姿勢がアミの心を鎮めていく。


「ありがとうございます」

「いいってことよ。堅苦しいから敬語はなしでいこ。アタシは水道橋水蓮(すいどうばしすいれん)。スイレンって呼んでよ。キミの名前は?」

「一ヶ谷亜美です」

「だから敬語じゃなくていいって」

「ご、ごめん」


 アミはスイレンの差し出した手をとり立ち上がる。


「ほら、アカリちゃんも自己紹介」


 アカリと呼ばれた袴の少女は乗り気ではなさそうでため息をついた後、自己紹介をする。


結城明ゆうきあかりよ。馴れ合いは後。準備しないとアナタ死ぬわよ」


 アカリの発言とほぼ同時、世界が震え始めた。

 それは先程見た世界崩壊と同じで、純白の世界はポリゴンと化して崩れていく。

 そして純白の世界が塗り変わり、巨大で透明な結晶が至る所から縦横無尽に突出している世界となる。


「アミには今からあの怪物と戦ってもらうっぴ」


 突然口調の変わった小鳥が羽で遠くを指すと、そこには角錐が組み合わさって出来た5メートルはあろうという程の大きさの人の形に近い何かが立っていた。


「何あれ……」

「スイレン行くわよ」

「あいあいさー! アミちゃん、今からアイツを倒すから力を貸して!」


 アミの戸惑いは置き去りに二人は駆けていく。

 小鳥とスイレンの発言から巨大な結晶をした何かと戦わないといけない事は分かる。

 しかし、経験した事のない状況に困惑し、アミの体は動かなかった。


「アカリちゃん、お願い!」


 二手に別れたスイレンとアカリは、互いに人形(ひとがた)の結晶を挟むように大きく別れた。

 そして、アカリが大きく突出した結晶の頂点に立つと、そこで弓を引き始めた。

 矢はない筈だった。しかし、アカリが弓を引こうとした瞬間に炎で出来た矢が出現する。

 アカリは当たり前のように炎を掴み、弓を引き絞る。

 そして凛とした佇まいから放たれた一撃は、軌道に炎の線を残して飛んでいく。

 敵は気付いていないのか動く気配はない。

 そのまま炎の矢が敵にぶつかると爆発を起こし、炎が周囲を包み込んだ。

 まるでCG映画を見ているようだった。

 だがこれは紛れもない現実。肌を撫でる風が、空気の乾く音が、目に映る全てがそれを確定させる。


「やった?」

「いえ、この程度では終わらないわ」


 煙が晴れるとそこには無傷の結晶体が立っていた。

 結晶体は手と思わしき箇所をアカリに向けると、指を発射した。

 高速で放たれた結晶はアカリのいた箇所の結晶をいとも簡単に砕く。

 当たればただではすまないレベル。

 そんな攻撃を見切っていたのか、アカリは即座に場所を移動し難を逃れていた。

 だが敵の攻撃はそれで終わらなかった。

 もう片方の手もアカリへと向けると、結晶の指を発射する。

 それだけではない。なくなった指はすぐさま補充されていき、休む間を与えることなく連射され続ける。

 アカリは避けて避けて避けまくる。

 走り続ければ避けられる。しかし、それではダメだ。

 いつかは体力が尽きる。敵の補充にも限界があればいいが、それがいつかも分からない。

 終わりが見えないということは、希望がないと言っていることと同義。

 だがしかし、この状況に希望がない訳ではない。何故なら仲間がいるから。


「こっちだ! バカ野郎!」


 背後に駆け込んでいたスイレンは手榴弾を投げ付けると、手榴弾と結晶体目掛けて二丁の銃を乱射した。

 発射されたのは弾丸ではなく【水】。

 これがただの水鉄砲ならダメージなんてありはしない。

 だがスイレンの銃は目の前の敵を屠る為の武器。ただの水鉄砲とは訳が違う。

 高圧高速で撃ち出された水の銃弾が結晶体に浴びせられる。

 それだけでなく、先に投げられていた手榴弾にも弾が当たり中に入っていた水が炸裂する。


「どうだ!」


 一旦距離を取りスイレンはアカリと合流する。

 手応えはあった。仕留められずともダメージはあるはずだ。

 そう、思っていたのだが―――


「なんて硬さ……」


 何処にも傷はなかった。

 アカリの一撃に、スイレンの銃撃+爆発、無防備にあれだけくらって無傷の敵なんて今までいなかった。


「あんなのどうすればいいんだよ」

「泣きごと言わないの。くらわせ続ければいつか壊れるに決まってる」


 どれだけ強固な壁も衝撃を与え続ければいつかは壊れる。

 ただし、それは何時間後か、何日後か、はたまた何年後かもしれない。

 例えそうだとしても、魔法少女には戦う以外に道はない。

 二人は再度、二手に別れる。

 何度だってやるしかない。そう考えて。

 だがしかし、それは間違いだった。

 今、この場でただ一人、カラクリに気が付いている人物がいる。


「それじゃダメだ……」


 アミは震える手でハサミを握り、走り出した。


 結晶体は学習したのか、スイレンとアカリを同時に狙い、結晶を飛ばし続ける。

 迂闊に近付けない。

 中距離タイプと溜めを必要とする遠距離タイプのスイレンとアカリは、結晶体の攻撃によって反撃出来ずにいた。

 そして、そこに加えて危機も訪れる。 


「しまっ―――」


 結晶の柱の上に逃げたことで、発射された結晶により柱が壊された。

 それによりアカリの足元は崩れさり、バランスを崩してしまう。

 体勢を立て直す―――そんな暇が与えられる訳もなく結晶がアカリの右脚に直撃する。


「アカリちゃん!」


 スイレンは叫ぶが避けることで精一杯で助けに行けない。

 加えて、結晶体はアカリを倒したと思ったのか、アカリに向けていた手をスイレンに向け連射し始めた。

 ここで掻い潜ってアカリの元へ駆け付けても、二人まとめて仕留められて終わってしまう。

 何も出来ないこの状況に、スイレンは唇を噛みしめ、逃げ続けることしか出来なかった。

 そんな中、アカリの元へ一人の少女が駆け付けていた。


「アカリさん、大丈夫ですか!? あ……脚が……!」


 アミは柱に隠れながら見つからないようにアカリの元へと到達していた。

 アミに揺すられると、アカリはアミに掴まり体を起こす。


「大丈夫よ。アナタは隠れていなさい。戦えない者が戦場にいても邪魔になるだけよ」

「わ……私も戦います。それに気付いた事があるんです」

「気付いた事?」


 それは戦っていないからこそ見えた景色。

 遠巻きに敵を観察出来たからこそ気付いた情報だった。


「アイツ、結晶を吸収して傷を治してます。私見ました。二人の攻撃で傷を負った後、周りの結晶を吸収して傷を治してたとこ」

「それ、本当なの!?」

「本当です」


 力強い返事にアカリはそれ以上追求はしなかった。

 アミの情報で霧がかったこの状況に光が灯された。


「私はこの脚で、もうまともには戦えない。だからお願い。アナタの力を貸して」

「もちろんです」


 力強い返事だ。

 だがそれとは裏腹に握る拳は震えている。

 当たり前だ。突然こんな場所に連れてこられ、命の危険に迫られる。

 至極真っ当な反応だ。

 だが、そんな少女が恐怖を圧し殺して、戦ってくれると言ってくれている。

 委ねるしかないだろう。


『ありがとう』


 アカリは心の中で感謝を伝えると、アミに計画を伝えた。


 アカリは結晶化してしまった砕けた右脚を引き摺り、一本の結晶体の上に立つ。

 そして、敢えて己の存在を示すように叫ぶ。


「どうしたの! 私はまだ生きてるわよ!」


 聴覚があるのかは分からない。だが結晶体はアカリの言葉に反応し振り向く。

 それに伴い、スイレンに向けられていた連射が一時的に止まる。

 アカリの行動にスイレンは驚愕したが、チャンスを作ってくれた事は理解していた。

 すぐさま距離を詰めにかかる。

 しかし、敵もバカではない。片手を残し、スイレンへと連射を再開する。

 もう一方の手はアカリへと向けられ、結晶が発射される。

 脚だから助かった。あれが頭にでも当たっていれば脳が結晶化して即死だっただろう。

 そんな結晶がアカリの元へと迫っている。

 柱が崩れれば、先程の二の舞。そもそも負傷した脚では逃げることすら出来ない。

 だがアカリに不安はなかった。

 アカリは柱に登った後、弓をずっと引いていた。

 アカリの矢は絞れば絞る程、威力を増すがその分光を強く放つ。

 故に最初の一撃は溜める時間が少なかった。敵に脅威として伝わりやすいから。

 だが今回は状況が異なる。

 スイレンにヘイトが向いておりこちらに気が付いていない。

 スイレンもそれに気が付いていたのか、アカリに気が付かないよう立ち回っていた。

 溜めに溜めた矢の威力は先程の比ではない。

 アカリは結晶が迫り来る中でも溜め続ける。ギリギリまで威力を増幅させる。

 そして限界まで引き付け、煌々と燃え上がる矢を放った。

 結晶が柱や体に当たって砕ける事は確認済みだ。威力はあれど強度はない。

 放たれた矢は結晶に触れると、結晶を一瞬の内に蒸発させてしまった。

 そして威力は落ちる事なくなく突き進む。

 威力だけでなくスピードも増している矢を、結晶体は避ける事は出来ず直撃する。

 次の瞬間、爆炎が結晶体を包み込む。

 結晶体の甲高い叫び声が響き渡る。

 それまではなかった反応だ。攻撃が効いている証拠でもある。

 しかし同時にまだ生きているという証明でもある。

 元々この一撃で倒せるとは考えていない。

 あくまでも目的は周囲の結晶の排除。回復の妨害だ。


「後は頼んだわよ、アミ」

「任されました!」


 結晶の柱の陰からアミは飛び出すと、炎の中を駆け抜け結晶体の元へと向かう。

 図らずともダメージを与える結果となったが、攻撃はアミの役目だ。

 半身が溶けてしまった事で、核と思わしき箇所が露出している。

 アミはそこ目掛けて全力でハサミを突き刺した。

 叫び声が断末魔に変わる。

 鼓膜が裂ける程の声量で結晶体は叫ぶがアミはハサミを離さない。それどころか更に深くハサミを突き刺した。

 だが断末魔は消えない。

 しかし突然、結晶体はまるで機能を失ったロボットのようにバラバラとパーツが外れていき、光となって消えていった。


「アミちゃん! やったね!」


 両手を広げ駆け寄ってきたスイレンは周囲の高温に驚愕すると、銃からチューブを外し、チューブから出た水をアミに浴びせた。


「涼しいです~」

「熱い、熱すぎるよアミちゃん!」


 熱すぎて頭がクラクラする。

 視界もボヤける。

 敵は倒した。なのにこんな有り様になってしまうとは。

 アミの記憶はここで途切れた。

 次に目覚めた時、アミは自室のベッドの上にいたのだった。

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