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九十五 頼朝狙撃 二
貴船神社は、周辺を森で囲まれている。
海近くの一本の太い木の裏に隠れた景親は、遠矢の準備を入念に行っていた。
以前、自身が伊豆平井館に赴き、北条館の台所の女から聞いた話を思い出していた。
――頼朝の神仏に対する尊敬は度を越えるくらいである。外出をした際に、寺院や神社に通りかかると決まって立ち寄って祈りをささげる。神仏へは素通りができないご性格である……
頼朝一行は、岩の港で一人の武士が陽動して討ち取られ、その隙に船に乗り込んで逃走したと聞いている。
頼朝は、その死んだ武士のために、また航海の安全のために、必ずこの貴船神社に詣でる、と景親は確信していた。
おそらく上陸はしまいが、船をかなり神社に近づけるだろう。
景親の背後の尾根筋には、郎党が松明を隠し持って、景親の合図を待っている。
その時、北の方の朝靄の中から、小さな船が姿を現し、こちらに近づいてくるのが見えた。
……来た!
景親は、緊張で胃から込み上げる苦汁を口の中に感じていた。
隠れている木の裏には、愛用の強弓と矢が数本用意してある。
だが、一本で事足りるはずだ。おそらく二本目を撃つ余裕はないだろう。
……この一矢にすべてを賭ける。




