九十三 頼朝脱出 六
八郎太が実平に体当たりし、持っていた太刀を奪って鞘を払った。
八郎太は、烏帽子を購入したことを平氏方に察知され、購入者が密かに探索されている事を知り、自分の軽率な行動が大殿たちを窮地に陥れてしまったことを、深く悔やんでいたのである。
「兄者! 大殿と殿を頼みましたぞ!」
「八郎太!」
七郎丸が叫んだ。
八郎太は、納屋の裏口から飛び出した。
「うおー!」
大声を出しながら、八郎太は、頭上で太刀を振り回し、港とは逆方向に全速力で走ってゆく。
船の周囲で警戒に当たっていた敵兵が、八郎太を追いかける。蔀戸の隙間から船の周囲を見ていた七郎丸が、溢れる涙をぬぐおうともせず、
「大殿! 殿! お早く!」
その声で頼朝一行は、船に向かって走り出した。
船の周辺には、まだ数人の敵がいたが、大声で走り去る八郎太の方に気を取られて、こちらに気づいていない。
太刀を持つ新開実重、土屋宗遠、岡崎義実が、頼朝の前に出て、敵兵に襲いかかる。
実平、遠平、七郎丸は、船にたどり着き、三人で船を押して海に出す。七人乗りの漁船は軽く、三人でも素早く海に押し出すことができた。
いち早く頼朝を船に乗せ、その後自分たちも飛び乗る。
「早く乗り込め!」
実平が、敵と切り結んでいる武士たちに叫んだ。七郎丸は、早くも艪を漕ぎ始めている。
新開実重、土屋宗遠、岡崎義実の三人は、敵を蹴倒して船に走ってくる。海に膝まで浸かりながら、船の縁を手でつかみ、体を持ち上げて転がり込んだ。
数名の敵が迫ってきたが、実平が狩猟用の弓で残る三本を素早く撃ち込んだ。敵は海の中に倒れた。
七郎丸は、少しでも岸から離れようと、懸命に艪を漕ぎ続けている。
岸から数名の敵が遠矢を放つのが見え、新開、土屋の二人は頼朝の上に覆いかぶさった。矢は幸い船を外れて海中に落ちたのが見えた。
岸から二町ほど離れると、八郎太らしき人物が十数名の敵に取り囲まれているのが見えた。
七郎丸は艪を漕ぎながら、それを見続けていた。
八郎太の太刀が高く上がって打ち振られ、こちらに合図したように見えた次の瞬間、敵が一斉に八郎太に襲いかかったのが見えた。
七郎丸は目を閉じた。




