表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
9/100

九 大庭景親の器量

 翌日、使者に出した家人とともに懐島景義(ふところじまかげよし)が到着した。


 頼朝は、笑顔で自室に迎え入れる。


「急に呼び出してすまぬな」


 景義は、びっこを引いていて、頼朝の前に置かれた(とう)の円座に、片足を投げ出して座った。


「近頃はいろいろ物騒な気配がして参りましたな。何かございましたか?」


 頼朝は、景義の前に三善康信の書状を置いた。


 景義はそれを受け取って開き、文面に目を通すと、再び書状を丁重にしまって頼朝に返した。


「なるほど……我が弟が敵方の将軍となって、殿にいくさを仕掛けてくると言うのですな。

 この景義が弟景親に内通しているとの、お疑いですかな?」


 頼朝は、あははと笑った。


「もしそうなら、(なんじ)はとっくにこの頼朝を討ち果たしておろう。

 本日来てもらったのは他でもない。

 汝の弟景親について、いろいろ(たず)ねたきことがあっての」


「弟景親についての何をお知りになりたいのでございますかな?」


「この頼朝、保元のいくさのみぎり、その方ら兄弟の良きいくさぶりを覚えておる。

 こたび汝の弟が敵将となるのであれば、武士としての器量を詳しく知りたいと思ったのだ」


「なるほど。されば正直に申し上げますと、殿は(あし)き相手といくさをすることになりましょうな……」


「悪き相手?」


「左様。我が弟景親は、この景義より器量は上にございます」


「ふむ? どのように?」


 景義の話に引き込まれる。


「普段は、もの静かな男で、関東武士に通有な豪快さなどとは無縁でござる。

 我ら大庭一族は、昔、奥州のいくさにおいて右目を矢で射抜かれながらも、返し矢にて相手を討取った鎌倉権五郎景正の子孫でありまするが、弟景親にはそのような勇猛さはございませぬ」


 景義は、弟の武芸に触れた。


「打物・組物・乗馬は我れの方が上。弓矢の腕は弟の方が上。特に遠矢に優れてござる」


 頼朝が何か言おうとしたが、それを(さえぎ)り、


「これだけではございませぬ。弟の最も恐ろしきは、(かしこ)き頭にござる。

 その怜悧(れいり)で理詰の考えは、(いたずら)な勇猛などよりはるかに恐ろしく、将棋に例えますなら、こなたが(ぎょく)を堅く守っていても、必ずそれを打ち破る策を案出いたしまする。

 打物・組物の一騎打ちなら、弟に勝る武士はいくらでも居りましょう。

 しかし多くの者を引き具して合戦するのであらば、かの諸葛孔明の再来と言ってもおかしくありますまい」


 この言葉を聞いて頼朝は、腕を組んで黙り込んだ。


 景義の話からすると、弟景親は恐るべき頭脳をもった武士であり、自分には到底かなわぬ相手であるような気がした。


 ……やはり奥州に逃げる算段を早めにつけたほうがいいかもしれぬ……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ