八十七 烏帽子の行方 四
先ほどの商人の言葉は、いくつか重要なことを明示している。
――頼朝一行がこの真鶴付近に潜伏していること。
――頼朝と連絡を取り、支援している者がこの真鶴にいること。
烏帽子を買い求めたのは漁師風の男であったと言う。これは頼朝が海上に逃れることを示唆している。
……頼朝が脱出するのは、この真鶴付近の漁港と考えて良い。
さらにもう一つ決定的に大事なことが判明した。
――頼朝一行が伊豆北条館に到着し、再起の準備を整えつつあるという噂は、真っ赤な嘘であったということ。
……これは間違いなく頼朝が、自分に向かって放った罠だ。
それにまんまと嵌まって、武士たちを帰国させてしまった。
景親は苦笑した。
頼朝一行は、石橋山のいくさに敗れたのち、一旦、聖岳の山稜付近に落ち延び、そこから真鶴の潜伏地までまっすぐ向かったに違いない。
おそらく敗戦の時に、どのように身を処すかを事前に想定し、準備をしておいたのだろう。
これだけ探して見つからないということは、潜伏地が余人には思いもよらないような場所なのだ。
その準備をしたのは、この地に精通している土肥実平であろう。
また一方で、加藤景廉は山稜付近で陽動し、頼朝一行の居場所を悟られないように配慮した。
頼朝軍は敗走しながらも、実によく連携が取れている。
ただの小勢と侮ってはならない。
そして今は、脱出の機会を虎視眈々と窺っている。
……頼朝よ。やるのう。このいくさ、面白うなってきたの。




