八十六 烏帽子の行方 三
兵たちが並ぶ街道には、さまざまな人々が往来していた。
景親が街道をゆっくり思案しながら歩いていると、北の方に向かっていく二人の商人の会話が耳に入った。
「湯河原の村ではさっぱりでしたな。来る時に真鶴の村では、七頭もいっぺんに売れたと言うに……」
「やはり、いくさのせいでしょうかな……」
景親はこの会話の、七、という言葉に引っかかった。
「そこを行く商人」
と声をかけた。
振り返った二人の商人は、声をかけた武士がかなり身分のある武将と思われたので、慌てて頭を下げた。
景親が質問した。
「つかぬ事を聞くが先ほど汝ら、七頭、と言っておったな? 何が七頭なのじゃ?」
「はい、昨日の午後、この真鶴の街道上で烏帽子を七頭買い求める民がおりましたので、売りましてございます」
景親の目がギラリと光った。
「その民とは、どのような者であったのだ?」
「はい、身なりが漁師風の男で、顔はよく見ませんでしたので、詳しい人相はわかりませぬ」
「確かに、七頭の烏帽子を売ったのじゃな」
「はい、その通りでございます」
景親は、売った場所と、買った者の分かる限りの特徴を詳しく聞いてから商人を解放した。
……やはりいた! この付近に頼朝らは潜んでいる……
こんな田舎で、新しい烏帽子を七頭まとめて買うことなど、普通ではない何かがあったはずだ。
武士がいくさ場を離れて兜を脱げば無帽となる。
頼朝一行は七名。
彼らのために購入されたのであろう。
被り物がないのは、恥とされていた時代である。
すぐに景親は郎党を呼び、伊東祐親に土肥館の包囲を解いて、軍を率いて真鶴に来るようにと言づけた。
もう湯河原に兵は必要ない。




