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源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
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八十四 烏帽子の行方 一

 八郎太は以前、大殿の頼朝様が住まう伊豆北条館へ、殿の実平様に同行して行った時、大殿様からのねぎらいの言葉と、食事などの丁寧な対応を受け感激し、以来、二人に尽くすことに至上の喜びを感じている。


 そして今回の頼朝の艱難(かんなん)を救う手伝いができることに、兄七郎丸とともにうれしく思っていた。


 八郎太は、今夜、切株に忍んでいく際に、七名分の衣服を用意するよう命じられていた。


 大殿様を始め武将の方々は、いくさ場から切株までの移動の間、雨に濡れた森の下草の中を這いずり回ったことで、衣服がとんでもないくらいに汚れている。


 近いうちに切株から脱出するにあたって、清潔な衣服を着用しなければならない。


 衣服の色は、夜でも目立たぬように紺や薄墨色などの暗い色であれば、古着でよいと言われていた。


 これらは家にあるもので足りるから問題なかった。


 困ったのは烏帽子(えぼし)である。


 さすがに大殿様たちは偉い人なので、烏帽子(えぼし)だけは古着というわけにはいかないだろうと八郎太は思った。


 くれぐれも失礼があってはならない。しかし新しい烏帽子は持っていない。


 どうしようかとしばらく悩んでいたが、いつもこの真鶴や湯河原の地に来る烏帽子商人が何人かいた。


 その商人が来ていないかと思って、真鶴の漁村にいる身内の者に銭を持たせて街道で待たせた。


 昨日までの厳しい検問は、今日はなかったので石橋村で待機させられていた各種の商人たちが続々と真鶴や湯河原に訪れるようになっていた。


 その身内の者は、うまく烏帽子商人と会えたので、頼まれた烏帽子七(とう)を買って八郎太に届けた。


 八郎太も喜んで、これで大殿様たちの衣服が整ったと思って一安心し、夜、切株に忍んでいく荷物を運びやすいようにまとめ始めた。


 それから、もう一つの準備をするために真鶴の港へ向かった。


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