八十 頼朝反撃 六
そう言って、武蔵・相模から来ている主だった武士たちが、本陣にやって来た。
「大庭殿。何やら頼朝一行は既に伊豆北条館に着いて、再起の準備をしているという話を聞いたが、まことなのか?」
別の武士が言った。
「一昨日と昨日、この真鶴から湯河原にかけての一帯をくまなく探したが、どこにも頼朝たちは見当たらなかったが、このまま捜索を続けるおつもりなのか?」
また別の武士も言う。
「聖岳の西斜面に頼朝とその一味の鎧を見つけたとか。さらに加藤景廉らが頼朝を追って西に向かったという話も聞いたが、この話は嘘なのか?」
次々と痛い質問を受けて、景親はどのように返答するか困った。
なんとか話をはぐらかして武士たちを帰したが、かなり危険なほど追い詰められていることを自覚していた。
景親は、脂汗をかきながら、打開策を考え続けた。
切株の下の七人は、今日も狭い空間の中に留まっているものの、明らかな大庭軍の変化を感じ取っていた。
昨日までの猛烈と言っていいような探索が見られない。
切株周辺に近づく足音も、今日はほとんど聞こえてこない。
小さな覗き穴から見ると、篝火があった付近には、兵がたむろしていて、ほとんど動こうとしない。捜索するつもりが全くない感じである。
「今日は、一体いかがしたのだ。敵の足音が聞こえないぞ」
隣の切株の誰かが言う。
頼朝が微笑しながら、連絡筒に口を近づけて話し出した。
「昨日の夜、こなたへ参った八郎太に、一つ策を授けたのよ。真鶴周辺の民に、頼朝は既に伊豆北条館に帰着し再起の準備を整えつつある、という噂を大々的に流せとな。おそらくそれが敵方に広まって、兵の捜索する意欲を削いでおるのであろう」
「そのような事情がございましたか。さぞかし大庭は慌てておることでしょう、それではこれから……」
東の方から一人の足音が聞こえてきたので、言葉が途切れた。
七名の武士は、再び緊張して息を殺した。外で声が聞こえた。
「おーい、もう少ししたら捜索を開始するぞ。今、山菜取りしている者は陣に戻れ。兵粮の足しはそのくらいにしておけよ。わかったな」
なんと、捜索する者たちの何人かは、兵粮の足しに山で山菜取りをしているというのだ。
それをこの武士がたしなめているらしい。
何故かこの武士は、切株の近くから離れようとせず、頼朝の方の切株に腰を下ろしたようだった。




