七十八 頼朝反撃 四
昼過ぎに、東の方から一人の民が山を登ってきた。
途中の街道を横切ろうとした時に、封鎖している武士たちに行く手を阻まれた。
「何奴じゃ」
「へえ。この下の真鶴の者で、山に焚き木を拾いに参りましてございます」
「ここの山に入ってはならぬ」
「でも……」
その時、他の武士が声をかけてきた。
「あー、昨日も参った真鶴の者じゃな?」
「へえ」
「この者は大丈夫じゃ。昨日厳しく吟味したが何も怪しいところは無かった」
この言葉で、すんなり通らせてくれた。
深く武士たちに頭を下げて、そのまま山に入って行った。
民は、少しずつ背負子に焚き木を載せて行きながら、二つ並んでいる切株に近づいた。
そして切株近くの太い木の根元に、狩猟用の矢が刺さっているのを、素早く確認すると、この周辺で背負子に焚き木を満杯にして元来たところを通り、封鎖の武士たちにお礼を言って帰って行った。
その夜の亥の刻すぎ、切株の周辺でコオロギの鳴き声が聞こえてきた。
すぐに実平が覗き穴に口を近づけて、器用にコオロギの鳴き声を返した。
覗き穴の近くから小声が聞こえた。
「八郎太にござりまする」
すかさず実平が小声で応える。
「ご苦労。もそっと覗き穴に近づけ」
実平と八郎太の会話は、同じ切株下の他の者が聞こえないぐらいの小声であった。
話は小半刻ほども続き、八郎太は、飲み水の竹筒数本と干飯の包みを渡して、音もなく去って行った。
森の中で八郎太の様子を一人の武士がじっと見つめていた。




