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七十六 頼朝反撃 二
大庭軍のある武士が夜明け近くに尿意を催して、篝火がまだ消えずにいる陣から、少し山に入ったところで用を足していた。
終わってから大きな伸びをし、戻ろうと思って体の向きを変えたその時に、何かが動いたのが目の隅に入った。
……うん?
暗くてよくわからないが、何かがすばやく動いたような気がした。動物か?
いやそんな感じはしなかった。もっと小さく細長いものだったような……。
辺りの暗さに目が慣れてくるとそれが、太い木の根本に、突き立っている矢であることが分かった。
……こんなところで、こんな時刻に誰が矢を放った?
周囲の森の中に人影は、まったく見当たらない。
その突き立っている矢の方向を延長してみると、大きな切株が二つある。
……もしや?
だが、武士は切株には歩いて行かずに、そのまま陣に戻った。
そしてこのことを誰にも話さなかった。




