七十二 頼朝潜伏 二
切株の下では、足音が去ってからもしばらくはそのままでいた。
もう確かに周辺に敵の気配がないと感じたところで、
「ふーっ、もう大丈夫でしょう」
と、実平が息を吐いた。
頼朝と遠平も、ほっと息をついた。
……あぶないところであった。もう少し切株に入るのが遅れていたら、敵に発見されていただろう。
実平は冷や汗をぬぐって、あたりを見回した。真っ暗で何も見えない。
そこで実平は、入口と反対の壁の上を手で少し掻き始める。
すると少しだけ穴が開いて、そこから夕日が、切株下の空間を少しだけ明るくした。
広さは一間四方ぐらいで、高さが半間程度の空間であることが分かる。
そして奥壁の下に水が入った竹筒が並べられ、その隣には竹籠がある。
中に布に包んだ干飯が入れてある。
また奥に向かって右の壁のところには、猟師が使う短弓と矢五本が立ててある。
弓には弦がまだ張っていないので、直線の棒のように見える。
実平たちがいる切株と七郎丸がいる切株は隣合っており、七郎丸のいる方がわずかに広い。
また両方の空間は節を抜いた径の太い竹が通してあって、この連絡筒を通して話ができるようにしてあった。
「懐かしいのう。昔のままじゃ」
と、実平が呟き、連絡筒の端に口を寄せ、
「七郎丸、聞こえるか?」
と小声で呼んだ。
「聞こえまする」
小声で応えが返ってくる。
「そちらに水と干飯を送る」
実平がそう言って、水の入った竹筒を連絡筒に入れ、弦を張っていない棒状の弓で押し込んだ。
そうやって数本の竹筒と干飯を向こう側に送った。
昨夜から食べ物を口にしていなかったので、それぞれの切株の下で皆、もくもくと食べ、水分を補給して、一息つくことができた。




