71/100
七十一 頼朝潜伏 一
ほんの間もなく、北からと南からの両方から、木枝を踏む多くの足音が聞こえてきた。
北から来た足音が、南から来た足音に話しかけている。
「おっ、汝らは今朝、石橋山本陣にいた者たちか?」
「左様。大庭殿の仰せで、急きょ湯河原に向かい、そこから列を作って北へ向かって捜索してきたのじゃ」
「怪しい者たちは、見つけたのか?」
「いや、焚き木拾いのため森に入って来た民を見たぐらいじゃの。厳しく詮議したが特に怪しいところは無かった」
「とすると、石橋山から湯河原の間に、敵は見つからなかったという事か」
「山稜を探している連中の話を聞いたが、敵方の二人の武将が、さんざんに暴れて西に逃れて行ったらしい。その時、頼朝殿を追うぞ、と言っていたらしい」
彼らが話しているすぐ下の七名には、それが誰か分かっていた。
加藤景廉と大見実政である。
「それでは、目指す敵はこちら側ではなく、山の西側ということになるな」
小半時ほどした後、東の方から馬の足音が聞こえてきた。
「各々方、もうすぐ日が暮れる時刻となる故、この真鶴から湯河原にかけての一帯を包囲して夜を明かせと大庭殿の仰せである。松明と篝火の用意をして、それぞれの部隊ごとに散会して配置に付くように。よいな」
この言葉の後に、足音は去っていた。




