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源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
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七 景親の思い

 六波羅から宿舎へ戻った大庭景親(おおばかげちか)は、平清盛の命令について考えていた。


 ……源頼朝か……


 大庭御厨(みくりや)に大挙乱入した源義朝の嫡男だ。


 突如、大庭館に押し入ってきた大勢の武士たちが、笑いながら物や女を略奪三昧にする悪夢のような光景が今でも時々(よみがえ)る。


 あの時自分は、まだ十二三歳だった。


 父の郎党に連れられて、避難しながらそれを見ていた。


 兄の景義(かげよし)はその時たまたま外出しており、弟の景久(かげひさ)はまだ幼児であった。


 そのせいで兄弟でも源氏への憎しみには違いが現れた。


 景親はもちろん、いつか必ず雪辱(せつじょく)を果たすと心に誓っていた。


 ……目標は、頼朝の首ただ一つ。


 源頼政の孫などは雑魚(ざこ)だ。どうとでもなる。


 景親は、その冷徹な思考力を回転させる。


 いかにして頼朝に勝つか? どうしたら確実に頼朝の首を()げられるか?


 今、関東の武士たちは、都の情勢を知るたびに激しく動揺している。


 平治の乱後、源氏が没落し、平氏が台頭する情勢の中で、関東の武士たちは所領を守るために平氏に臣従するしかなかった。


 しかし、近年の平氏政権の動揺を聞くにつけ、自分は平氏の味方のままでいるか、それとも源氏に鞍替えすべきか思い悩んでいるのだ。




 そして、このふた月ぐらいの間に、以仁王の令旨の内容が関東の武士たちに()れ伝わって、緊張感は一挙に高まった。


 早晩、平氏と源氏の間で合戦が起きるだろう。


 その時、もし負けた方にいれば、自分の命とともに先祖伝来の所領もなくなる。


 勝った側の所領になるのだ。


 中立も許されない。日和見(ひよりみ)(あざ)けられて、勝者から厳しい処分が下されるだろう。


 この状況を的確に把握している景親は、平氏に味方する武士を増やす良い機会と考えた。


 いくさに勝つ基本は味方を増やすことが第一である。


 今、自分は京にいて、すぐに帰国することはできない。宇治合戦の後始末がまだ残っているからだ。


 帰国できるのはおそらくひと月以上後になるだろう。


 だが頼朝討伐の準備は進めておきたい。




 まずは弟の俣野景久(またのかげひさ)を使って、平氏への勧誘をさせよう。


 そして平氏か源氏か迷っている武士には、頼朝は朝敵であることと、平氏に味方すれば手厚い恩賞が約束されるという(えさ)で引き入れるのだ。


 一方で、敵方にまわるであろう武士も把握しておく必要がある。さらに伊豆の頼朝を秘密裏に監視する策も講じよう。


 景久は、自分の要請には素直に応じてくれるだろう。


 こればかりは身内の信頼できる者にしか託せない。兄の懐島景義(ふところじまかげよし)はすでに頼朝に()みしている。


 この時代は、兄弟が成人すると一族の所領内に分かれて館を作り、その地名を苗字として名乗るのが慣例となっていたので、兄弟でも苗字が異なっている。


 景親は個人的には、清盛が健在な限り、平氏政権が崩壊することはないと考えている。


 自分が頼朝を討って、源氏に味方する三浦や中村らの大庭御厨の東西に隣接する領地を得て、一挙に相模半国を我が物にしたい。もちろん、大庭館が受けた屈辱も同時に晴らす。


 ……頼朝よ。(なんじ)に直接の(うら)みはないが、命をもらうぞ。


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