六十四 頼朝追跡 二
夜明けに、大沼三郎が酒匂川に到着した時には、既に三浦軍三百は渡河を始めていた。
大沼も対岸から渡河を開始したのを、三浦軍の先頭を行く三浦義澄が気づき、いつでも攻撃できるよう、油断なく近づいて声をかけた。
「貴殿は何者じゃ?」
大沼が応える。
「怪しいものではござらん。我れらは頼朝殿にお味方しておった大沼三郎と申す。貴殿は三浦義澄殿とお見受けしたが左様か?」
義澄が応える。
「いかにも三浦義澄じゃ。貴殿は昨日のいくさに参陣されておられたのか?」
「もちろん。ひどいいくさじゃった」
「もそっと詳しく説明してはいただけぬか?」
「さればじゃのう」
そう大沼は言って、三浦義澄に昨日のいくさの経過を説明した。
頼朝が死んだかもしれないということと、大沼自身が頼朝方にいたという二点を除いて、すべて真実を語った。
その話の迫真性は十分、三浦義澄を納得させたが、あくまで義澄は頼朝の生死にこだわった。
「貴殿は、頼朝殿が身罷られたところを見たのか?」
「いや、見てはござらん。あくまでそういう噂が、流れていたということじゃ」
「ふーむ」
義澄は悩んだ。
今から石橋山に向かっても既に戦闘は終結している。
頼朝殿の生死を確認しに行くとしても危険すぎる。
大庭軍は総勢三千、それがこちらに向かって帰途につくのであれば、鉢合わせすることとなる。
我らは三百。とうてい太刀打ちできる数ではない。
……ここは兵を引いた方が良い。
「大沼殿。我らは一旦兵を引く。有用なお話かたじけない」
「いやいや、相身互いでござるよ。御気になさらずに」
大沼は笑みを浮かべて、三浦軍が引き返していくのを見送った。
その後、郎党にこの事を大庭殿に伝えるよう命じ、すぐに出発させた。




