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源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
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六十一 頼朝逃亡 五

(なんじ)らは、他の武士どもがどうなったか知っておるか?」


 土屋宗遠がしんみりと応える。


「途中の山の斜面のきついところで、工藤茂光(くどうしげみつ)殿が討ち取られましてございます」


 頼朝は、太って(ひげ)もじゃの茂光を脳裏に浮かべた。


 山木館討ち入りの兵の多くは、工藤配下の武士たちであった。


 工藤なくして山木館討ち入りの成功は無かったと言える。


「そうか……」


 頼朝の心は沈んだ。自分の不甲斐なさで、また一人の()しい武将を失った……


 新開実重が言った。


「近くに居た敵方の話を盗み聞ぎしたところ、北条宗時殿が伊東祐親軍に参陣している平井久重に射殺されたという話を聞きましてございます」


「宗時がか!」


 頼朝は絶句した。北条時政の嫡男である。


「時政はいずれに落ちたのか、知っておるか?」


「いえ、分かりませぬ」


 風雨がまた一段と増してきた。空はまだ暗く夜明けはまだ遠い。




 実平は四人に声をかけた。


「我らは、夜明け前にここを出立いたすつもりです。各々方(おのおのがた)はいかがなさるおつもりか?」


 岡崎義実が応える。


「ここで殿にお会いできたのじゃ。ぜひこの先も御供(おとも)したい」


 他の武士たちも口々に言う。


「我らもぜひ御供にお加えくだされ。お願い申す」


 実平は、できれば三人での逃避行を望んでいた。余計な人数を加えれば敵に発見される危険は増大する。


 その時、頼朝が声をかけた。


「実平。連れて行こう」


 ……しかし……


 実平は思ったが、その言葉を()み込んだ。


 頼朝の衰弱が激しいことを見て取った。


 身体的というより精神的な衰弱のように感じられた。


 ここに来る途中も、かろうじて足を動かしているだけで、まるで人形のようであった。この負けいくさが相当に応えているものと思われた。


 ……無碍(むげ)に退けるより、この四人を連れて行った方がよい。


「承って候」


 四人は、ほっとしたようだった。


 実平は夜明けまで、六人でかわるがわる交代で見張りを行い、それ以外は少しでも体を休ませるために、仮眠を取ろうと提案した。


 皆了解し、見張り当番以外は、木の根元で仮眠についた。




 大庭景親は、一計を案じた。


 小田原の手前の酒匂(さかわ)川付近にいる三浦軍が、渡河してこちらに向かおうとしている。


 我らは夜が明けたなら、頼朝を捕捉するために軍を大規模に展開させねばならない。


 その時に三浦に攻め込まれると少々面倒である。


 そこで景親は、味方の大沼三郎という武士を呼んだ。


 大沼は、武蔵小平(こだいら)に小さな領地を持つ武士で、敵や味方にもほとんど知られていない地味な存在である。


 景親は、大沼が並々ならぬ領地欲を有していることを知っている。


 大沼が来ると、少し異例ではあるが、頼みたきことがあると前置きして言った。


「貴殿はこれから酒匂川に向かって北上し、渡河しようとしている三浦軍に、頼朝軍が昨夜のいくさで大敗し、あまたの将兵が討たれ、どうやら頼朝殿も死亡したらしい。

 そういう事情なので、自分は頼朝殿にお味方していたが、これから帰るところである。

 貴軍はこれから頼朝殿のところに馳せ参じても最早無駄であると思う、という説明をして参陣を断念させてほしい。成功すれば恩賞を保証しよう」


 大沼は、快諾して手勢を引き連れ、出発していった。


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