六十 頼朝逃亡 四
頼朝と実平と七郎丸の三人は、山頂に達した。
……おそらく、聖岳の近くであろう。
実平は思った。
だが、闇夜で見通しが全くきかないため、本当に聖岳かどうか自信がない。
……無理に進んで、土肥館と違う方向に行ってしまうとまずい。
今は、ここに身を潜ませ、見通しがきく夜明け前まで待った方が良い。
聖岳から例の切株までは、一里ないくらいの距離である。
……山道ではあるが、夜明け前に出れば、午後早くにはたどり着けるだろう。
実平は、七郎丸が持っている兵粮の干飯と竹筒の水で、頼朝に食事を提供し、自身と七郎丸も空腹を満たした。
風雨はまだ強く、山の上は気温が低い。
大きな木の根元に三人で身を寄せあって、寒さをしのいだ。
しばらくすると、近くで人の気配がした。
森の下草をがさがさという音を立てて、複数の人間が近づいてくる。
実平と七郎丸は、唯一所持している短刀の柄に手を添え、抜かりなく音の方に注意した。
その時、
「殿はおわさぬか?」
という小声が聞こえた。
実平は、その声に聞き覚えがあった。
我が嫡男の土肥遠平である。
実平が身を乗り出して、小声で言った。
「遠平か?」
「おお父上。ご無事で。殿はいずれに?」
「大丈夫じゃ、我らと御一緒に居られる」
遠平の後ろから、新開実重、土屋宗遠、岡崎義実の三名が姿を現した。
「皆、無事じゃったか。よかった」
頼朝が、四人に声をかけた。
「殿もご無事でなにより」
四人の声が半泣きになっている。
実平が気を利かせて、
「遠平、汝ら食事は取ったのか?」
「いえ父上、逃げるので精いっぱいで何も食しておりませぬ。喉の渇きは雨に濡れる木の葉を舐めて忍びましたが、空腹でたまりませぬ」
「七郎丸、兵粮をありったけ出せ」
四人になけなしの兵粮を全部与えた。
皆もくもくと干飯を口に入れている。
食事が済んだころを見計らって、頼朝が四人に声をかけた。




