五十八 頼朝逃亡 二
北条時政は、嫡男の宗時と次男の義時と三人で行動を共にしていた。
三人とも、猪狩りのために、伊豆の山には何度も来ていたので、よく地形を知っていた。
それで、他の味方とは行動を同じくせず、北の箱根側に逃げてきたのである。
時政が宗時に言った。
「汝は、これより北条館に立ち戻り、再度、領内の兵を動員して、いくさの備えをせよ。我れと義時は甲斐へ赴く。甲斐源氏の武田殿の出馬を乞い、我らの兵と合わせて、再び平氏に挑むことになろう」
義時が時政に聞いた。
「頼朝殿は、どうなされるのですか? 甲斐源氏と合流した後、頼朝殿のところに参陣するのですか?」
時政は応えた。
「義時よ。佐殿はもう駄目だ。大庭のあれだけの軍勢で押包まれれば、万に一つも生き残れまい。
おそらく、明日には佐殿の首が、大庭の元に届けられるだろう。
つまりは、大将としての運を持っていなかったということだ。
これから我らは、甲斐源氏を頼る」
義時がまた聞く。
「姉上と大姫様は、どうなるのでしょうか?」
頼朝の妻の政子は、義時の実姉である。
「政子はいずれしかるべきところに再嫁させる。大姫はまだ二歳じゃ。甲斐源氏に娶せることになろうが、まだ先のことだ。甲斐源氏は佐殿ほどではないが、源氏の棟梁となれる血筋じゃからの」
宗時は頷いて、配下の郎党とともに足早に去って行った。
十分に気を付けよ、と時政は宗時に声をかけ、義時にも出発を促しながら言った。
「義時よ。本音を言うとな。棟梁などは誰でもよいのよ。それが子供であろうと、少々こちらが足りなくてもな」
時政は、自分の頭を指して笑った。
「大事なことは棟梁を戴いて、その下で、我が北条が辣腕をふるえる形を作ることだ。何か問題が起これば、棟梁が責任を取って腹を切ればよい。さあ時が移る。急ぐぞ」




