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四十七 台所の女の不安
北条館にいる台所の女は、不安に苛まれていた。
時政様たちが山木館に討ち入り、勝利して凱旋してきた直後に、捕らえられていた山木館の雑人が放免された。
納屋に閉じ込められている雑人を、心配になって覗きに行ったが、納屋の裏から誰か出てきたので、慌てて引き返したから、元気なのかどうかはわからなかった。
特に厳しい尋問があったわけではなさそうで、納屋から出され、門のところで縛めを解かれ追い出されたのが見えた。
それ以来、雑人とは会っていない。
元々、女は北条館の工作には気乗りしていなかった。
だが雑人が酒好き博打好きで、金にだらしないことを知っていたので、しかたなく小遣い稼ぎに協力をしているだけだった。
それと雇い主の平井久重に何度か会ったが、笑顔の裏で何を考えているか分からないような不気味な印象があった。
雑人の身に何か良くないことが起こっているに違いないと女は確信した。
いつも夜になると自分の家に忍んで来るのだが、それがぷっつりと途絶えている。
……もしかしたら久重に殺されてしまったのではないの?
そして自分も用済みで処分されてしまうかもしれないという、不安が込み上げてきて、それを抑えきれなくなっていた。
女は、頼朝が出発した夜、誰にも告げることなく北条館からいなくなった。




