四十二 久重の策
昨日、雑人の後を追った郎党は、街道脇で休憩中の雑人を背後から忍び寄って一突きに殺した後、しばらく山の中に潜んで様子を観察していた。
成り行きを見守るよう、久重から命じられていたからである。
とある旅人が通りがかり、倒れている人を不審に思い、おそるおそる近づき、死んでいるとわかると一目散に北に走って行った。
しばらくすると旅人と二人の武士がやってきて、旅人が死体を指さし、武士がそれに近づいていろいろと検めていたが、行李の中の書状を見て驚いたように反応し、もう一人にも見せたのち、それを懐に入れて急いで戻って行った。
残ったもう一人の武士が旅人に手を振って、もう行っていいという仕草で追い払うと、近くの村の方に歩いて行った。おそらく死体を片付けさせるためであろう。
そこまで見届けて、郎党は帰途についた。
久重は、郎党からの報告を受け、確実に土肥実平館の武士に書状が回収されたことを確信した。
これは景親の要望通りであり、久重はその責務を果たしたことになる。
しかし久重は、もう一つ景親の要請を果たさねばならないことがあった。
それは書状が急いで北条館に届けられ、その後の頼朝の反応を至急確認して、景親に報告しなければならない事である。
平井久重は、台所の女が、もしかしたら頼朝方にバレているかもしれないと思い、情報を得る新たな方法を思案していたが、その時良い考えが浮かんだ。
かつて台所の女からの情報を間で中継していた商人は、筆を専門に取り扱う商人で、山木館は伊豆国の役所であったから、筆の需要は常にあった。
今回、山木館が焼失したことによって、役所の機能は北条館が担うようになってくる。
すると書類事務は激増するであろうから、筆の需要も高まるであろう。
だから筆商人を北条館に向かわせて、以上のような事情を説明させても怪しまれないだろう。
そうすれば少なくとも館内の様子は観察できる。
久重は朝一番で、家人に命じて筆商人のところに行かせ、ここに連れてくるよう命じた。
しばらくしてやって来た筆商人に事情を話し前金をはずんで、北条館行きを承諾させた。




