三十七 いくさの勝利
兼隆が絶命するのを見届けて、小長刀を引き抜いた。
そして兼隆の頸を掻き落とし、左手に兼隆の髪を掴み、右手には小長刀を持って、部屋を出ようとした時、背後に人の気配がした。
「勝負はついた。落ちよ……」
景廉は振り向かずに言った。
刀を構えているが、震えているのが判る。おそらく兼隆の祐筆か何かであろう。武士でない者は殺すに忍びない。
しかし相手は意を決して斬りつけてきた。
……愚かなことを……
景廉は持っている小長刀の石突を後ろに突き出して顎を砕き、振り向きざま片手で袈裟切りにした。
相手は白髪の老人だった。
……無益な……
景廉は、小長刀を振って血を払い、部屋を出た。
建物内のあちこちで味方が敵兵を切り伏せ、頸を掻いている。
時政が近寄ってきた。
「首尾は?」
景廉は黙って、左手に持っている兼隆の首を見せた。
「うむ。でかしたな」
景廉は、時政の横を素通りし、建物の縁に出て大音声を上げた。
「山木大掾兼隆はこの加藤景廉が討ち取った!」
その瞬間、あちこちで斬り合いをしていた敵方の者たちの抵抗が失せた。
建物の火は再び勢いを増し、全ての建物を呑みつくそうとしている。
掃討は夜明け近くまで続いた。
夜が明けて白々するころには、建物は全て焼け落ち、火も消えて白い煙のみが立ち上っていた。
もはや抵抗する者は一人もいなかった。
時政は、倒れた者を数え、逃げて行った者も含めて、敵は三十数名程度であったことを知った。
この人数でも敵の抵抗は頑強であった。
もし三島神事であっても通常の人数を維持していたなら、こちらの攻撃が跳ね返されていたかもしれない。
また小人数でも間者の通報によって守備が万全であったなら、果たして勝てただろうかとも思った。
……どうやら佐殿は大将としての運を持っているらしい。
「引き上げるぞ」
時政は全軍に声をかけ、負傷者には介添えし、討ち死にした者は館にあった荷車に乗せて筵で覆った。
兼隆の首を拝領の小長刀に刺し貫いた加藤景廉を先頭にして、北条館に引き上げる。
すでに勝利の報告を聞いていた頼朝は、凱旋してきた一行を出迎えた。
兼隆の首実検を終えた後、北条館の中に集まった将兵にねぎらいの言葉をかけ、食事や負傷者の手当てを家人に命じた。
……勝った……
頼朝は、寝不足と疲労と緊張からの解放感に意識が半ば朦朧とする中で、この甘美な語音を今日だけは心ゆくまで堪能したいと思った。




