三十六 山木兼隆
景廉は、後ろを振り返らず、小長刀を高く掲げて時政の忠告に応え、二三度打ち振いながら悠然と建物に上がった。
正面から向かってきた敵を一刀で切り伏せ、右横の敵の足を払って切断し、左横の敵には脇腹から反対側まで刺し通した。
敵の脇腹を刺したまま、ぐんぐん押して進み、奥の板戸にぶち当てたところで、小長刀を引いた。
脇腹を刺し貫かれた敵が、外れた板戸とともに派手な音を立てて、奥の部屋に転がり込んだ。
部屋の中央には紺の小袖に腹当をし、静かに座っている男がいる。
男の側には、抜き身の刀が三本、床板に刺し立ててあった。
建物の燃える光が、男の顔半分を照らしている。
景廉が声をかけた。
「山木大掾殿とお見受けいたす……」
兼隆が、ゆらりと立ち上がった。
「汝は何者だ」
「加藤景廉」
「おう、あの鎮西八郎為朝の首を刎ねた景廉か?」
景廉は無言で頷いた。
「これは剛の者に出会えた……」
兼隆は、一本の刀を抜き取って、正眼に構えた。
「参る……」
兼隆は突進し、鋭い突きを連続して繰り出してきた。
その都度、景廉は体を右へ左へかわしながら後退する。
そして敷居際のところで小長刀で強烈な足払いで反撃した。
兼隆は跳躍してかわしながら、大上段から太刀を振り下ろす。
しかし太刀は鴨居に食い込み、抜けなくなってしまった。
すかさず景廉は、正面から小長刀を突き入れる。
それを間一髪、体をひねってかわした兼隆は、横からむんずと小長刀をつかみ、景廉の胴に強烈な蹴りを入れた。
景廉がよろけて後ろに下がった隙に、兼隆は二本目の刀を手に取って再び正眼に構える。
今度は、景廉が小長刀を下段に構え、蛇のようにスーッと近づき、まるで箒を掃くように兼隆の足を狙って連続攻撃を行う。
兼隆は器用に足を動かして刃をかわしながら後退し、板壁のところまで来た時、再び跳躍して景廉の頭骨頂に太刀を叩き入れた。
兜の飾り金具を削り落として、太刀は真っ二つに折れ飛んだ。
景廉は、頭への打撃で意識が一瞬飛ぶ。
……さすがは前検非違使、剛の者じゃ。
その間に、兼隆は三本目の刀を手にし、三たび正眼に構える。
お互いに間合いを取り、兼隆が裂帛の気合とともに鋭い突きを放ってくる。
景廉は、相手の突きを見切った。
自分の肩をかすらせてかわしながら、小長刀を正面から兼隆の腹当ごと突き入れ、背まで刺し貫ぬく。
兼隆は自分に突き立っている小長刀の柄をつかみ、景廉を見て呟いた。
「見事じゃ……」




