三十五 加藤景廉
頼朝は、勇者として名高い景廉を討ち入りに加えず自身の護衛としていたが、思い直して自分の持つ小長刀を与え、参陣するよう命じた。
「汝は、佐殿のお側におったのではなかったのか?」
「殿がの、汝らの攻めでは心もとないと仰せでの、この景廉が加勢に参ったのじゃ」
景廉は、味方が劣勢であることを見て取ると、
「なんじゃ、この体たらくは……」
と独り言を言いつつ、従者に向かって、
「弓じゃ」
と言って、自慢の重藤の強弓を手にした。
その間、建物や櫓から景廉に向かって何本もの矢が放たれ、そのたびに甲冑が跳ね返すにぶい金属音が連続していたが、景廉は全く意に介していない。
「いつまでもいい気になるなよ」
と言いつつ、櫓に向かって強弓で狙いを付けた。
櫓の上も全方位を掻楯で防御してあり、敵はその隙間から矢を放ってくる。
景廉は満を持して矢を放つと、掻楯の隙間を通って敵に命中した。その瞬間、
「ぐわっ」
という声がして、櫓の上から数枚の楯とともに人間が地上にたたきつけられた。
矢は敵の右目から後頭部を貫通している。
景廉は後ろを振り返り、従者に命じた。
「首を取れ」
素早く死体に取り付き、頸を掻き落とすと、刺さった矢で頭を肩に担いで戻ってきた。
それを門の前に繋いである馬の鞍に、頭部の髪の毛で括り付ける。
櫓が沈黙すると、一気に味方が優勢となった。
掻楯を前進させ建物に迫る。
なぜか建物の火の勢いは小康状態となっている。
敵の攻撃は明らかに勢いを失いつつあった。
搦手の定綱も押しているようで、敵は建物内の一角に押し込められつつある。
それを見守っていた景廉は、従者に向かって、
「拝領の小長刀じゃ」
といって、先ほど頼朝から下賜された小長刀を手に取った。
頼朝の父義朝の秘蔵で、柄は銀の小蛭巻、目貫は螺鈿という逸品である。
小長刀は、柄が短く全長が人の肩ぐらいで、刃先で刺す、斬る、払う、柄で叩く、石突で突く、などの多種多様な使い方ができ、接近戦では有用な武器となる。
その時、時政が景廉に声をかけた。
「山木兼隆には必殺の突き技があるそうじゃ。気を付けよ」




