二十七 山木討入り日時
「お話しは、御済みにございますか?」
平井館の別室で、景親が武家の服に着替え終わったころに、部屋の外から久重が声をかけた。
景親は、戸を開けて久重を招じ入れた。
「うむ。上々の首尾であった。礼を言う」
「とんでもございませぬ。それはようございました。時にこれが届いておりまする」
と言って、台所の女からの書き損じの書状を手渡した。
景親は受け取って、それを開いて見た。
書状には、山木館への討ち入りが八月十七日早暁であることが記されている。
……山木討ち入りは、八月十七日か。
「当然、この書状を山木の雑人も、見ておろうな?」
久重は、景親が密告を心配しているように感じたので、
「大丈夫でございますよ。雑人は欲が深い男でございますゆえ、この久重から銭を稼げる間は、裏切る気遣いはございませぬ。それに山木兼隆をとても憎んでおります」
「うむ。ならばよい。貴殿から、当日は何か用事を繕って館から出ているように伝えよ。そしてこのことは決して口外しないように申しておいて欲しい」
「承知いたしました」
その後、景親は、新たな一通の書状を作成し、頼朝の山木討ち入り成功を確認したら、直ちにこの書状を某所に運び、怪しまれることなく某館の武士に見られるよう久重に依頼した。これは、頼朝を罠にかけるための策である。
その日、平井館に一泊し、翌朝、帰途に就いた。
景親一行は、平井館から十国峠に向かい、来宮から道を北にとって、湯河原、真鶴、根府川、早川と辿って行く。
……おそらくこのあたりが戦場となるはずだ。
景親は道々、それとなく辺りを見回し、大まかな地形や特徴を頭に刻み込んだ。




