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源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
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二十 景親の決意

 景親は書状から顔をあげ、(うな)った。


 頼朝と時政は、山木兼隆(やかた)に討ち入ろうとしている。


 ……これは予想外であった。そうか、山木か……


 山木は目代(もくだい)であるから、それを討ち果たせば伊豆国の支配権を握ることができる。


 そのままにしておけば、頼朝が関東に向かう時に背後から襲われる危険もある。


 山木館程度であれば、比較的小勢でもいくさをしかけることができる。


 華々しく勝利すれば、噂が乱れ飛んで我れに味方せよという強い宣伝効果も期待できる。


 さらに味方の士気も上がる。


 ……一石五鳥を狙える妙手(みょうしゅ)と見たか……なるほど、頼朝も考えておる……


 それでは、山木への討ち入りをいつごろと考えているのだろうか? 


 今日は八月六日。


 京から引き上げてきたばかりの我ら平氏方は、兵の休養や軍備の修理・補充や兵粮の調達などで、すぐには動けないと思っているだろう。


 来月九月は稲刈りの農繁期となり、農民を兼ねる兵は動員しづらくなる。


 また稲刈りを終えねば、兵粮の調達も難しいと考えているだろう。


 あれやこれやで我らが動ける時期は、十月以降と思っているのではないか。


 頼朝の討ち入りは、自軍の準備が整い、かつ平氏が攻めてくるであろう十月より早い九月下旬あたりと見た。


 山木館討ち入りは、うまくいけば短時間で決着がつく。


 その勢いを駆って目的地である鎌倉に向かって驀進(ばくしん)するという考えではあるまいか。


 そう計画していた矢先に今回の(うわさ)が、頼朝を直撃したことになる。


 今頃は、八月半ばに我らが伊豆を攻めるという噂に激しく動揺していることだろう。


 噂というものは時間が経つと、尾ひれ羽ひれがついて、聞くものをさらに惑わせていくものだ。


 本当か虚報か確かめる(すべ)はない。


 ……おそらく(あわ)ただしく準備を行い、八月中旬ごろに山木に討ち入るだろう……


 それなら同じ平氏方として、山木に警報を入れた方がよいか?


 ……いや……


 山木は、検非違使(けびいし)出身で戦いには慣れている。検非違使とは京の警察官である。


 警報など与えて、何かの間違いで山木が勝ってしまったら、相模半国を我が物にするという夢が消し飛んでしまう。


 ……頼朝を討ち取るのは、この景親でなければならぬ。


 その場に書状を投げ捨て、再び弓を手にした。


 (まと)が頼朝であるかの(ごと)(にら)む。


 矢を(つが)えて引き絞り、満を持してヒョウと放った。


 矢は吸い込まれるように的の中央に命中した。


 ……うむ!


 景親から会心の笑みがこぼれた。


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