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源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
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十五 景親の思案

 七月中旬、宇治合戦に参加した関東武士が、続々と帰国しはじめた。


 大庭景親も、ようやく帰国の途についた。


 京にいる間、弟の俣野景久からは、たびたび書状が届き、関東の武士の状況や頼朝周辺の動向を知らせてくれていた。


 その中で、三浦義澄(よしずみ)と千葉胤頼(たねより)が頼朝を訪問したことは、この二人と近しい後白河法皇の意図が頼朝に伝えられたとみて良い。


 後白河法皇は、平氏討滅の急先鋒である。


 ……いよいよ頼朝は動くだろう。


 弟景久の元には、相模・武蔵の武士から、平氏に味方する請文(うけぶみ)が続々と到着しているという。


 俣野景久以下、長尾新五・新六、八木下(やぎした)五郎、漢揚(かんのや)五郎、海老名季定、荻野五郎季重・彦太郎・小太郎、河村能秀、曽我祐信、佐々木義清、渋谷重国、山内瀧口経俊・四郎、稲毛重成、久下直光・実光、熊谷直実、岡部忠澄、浅間三郎、広瀬太郎、笠間三郎等三百余騎、従者合わせて三千名余となる。


 伊豆東岸の別動隊として、伊東祐親の三百騎も控えている。


 しかもこれらの武士たちは、すぐにでも動員が可能である。


 ……景久はよくやりよったな。短期間でよく集めたものじゃ。


 これに対し、頼朝方には、伊豆の工藤茂光・狩野親光、宇佐美平太、安達盛長、天野遠景、新田忠常等。相模では土肥実平・遠平、岡崎義実、土屋宗遠等で、おそらく従者合わせて三百名程度ではないかと思われた。これが頼朝本隊となる。


 ただ、頼朝の味方はこれだけではない。


 三浦や千葉といった軍勢も控えているのだが、現在は伊豆・相模西端と三浦・房総とに所在地が分断されている。


 景親一行は、京を出て東海道をゆっくり歩んでいる。


 景親は馬上で思考に(ふけ)っている。


 馬が歩む規則的な揺れが体に心地よく、思考を促進してくれる。


 ……だが、頼朝はどう動く?


 頼朝の目標は、父義朝の亀谷(かめがやつ)館があった鎌倉に入ることであろう。


 ここは源氏にとって最も馴染みの深い土地であるし、三方を山で囲まれる要害の地でもある。


 伊豆から軍を率いて鎌倉を目指すとすれば、箱根越えか、伊豆の山を越えて東海岸に出て、相模湾沿いに進むことになるだろう。


 だが相模中央を流れる相模川のすぐ東隣は大庭御厨(みくりや)である。当然戦いとなる。


 頼朝がこの合戦に勝利するには、伊豆を出る段階で十分に軍勢を増やしておくことと、大庭御厨を背後から()けるよう、三浦や千葉との連携を密に取る必要がある。


 だが、もう一つ別の可能性もある。


 頼朝は、こちらが三千を越える大軍になることを察知してはおるまい。


 しかし彼我(ひが)の差が十倍にも上ることを知れば、頼朝は一旦伊豆から逃走してしまうかもしれない。


 実は、伊豆北条は海に出るには都合がよい。


 そこからわずか西へ半里余に駿河湾に面した口野(くちの)の港がある。


 不用意にこちらが大軍で北条を攻めれば、ただちに口野から海に逃走してしまうだろう。


 そうなったら頼朝を再び捕捉することは困難となる。


 ……では頼朝をどう攻める?


 まずは、頼朝に時間を与えないことだ。


 時間を与えれば、頼朝本隊に合流する武士が増え、三浦千葉らとの連携を密にし、結果こちらが不利な状況に追い込まれる。


 だから準備する時間を与えず、頼朝本隊が小勢なうちに、(あわ)ただしく挙兵させてしまえばよい。


 そしてこれをすかさず(たた)く。


 今一つは、伊豆北条の地から誘いだすことである。


 できれば狭隘(きょうあい)な地に(さそ)い出すことができればもっともよい。


 北条から東に向かわせ、伊豆の山を越えて湯河原・真鶴あたりの海沿いに誘導できれば、北からは大庭軍が南下し、南からは伊東祐親(すけちか)軍が北上して(はさ)み撃ちにすることができる。


 ……頼朝に仕掛ける(わな)が必要だ。


 八月一日に大庭御厨内の自邸に帰着した時には、景親の頭の中に頼朝攻めに必要な策がすでに出来上がっていた。


 まずは一通の書状を家人に渡して出立させた。


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