十三 密偵の女
二人の武士が、頼朝のいる伊豆北条館に訪ねてきたのは、六月二十七日夕刻のことであった。
武士に付従っている郎党や家人たちは薄汚れていて、はたから見ても長旅をしてきたことがすぐに分かる。
頼朝は、早速二人を自室に招き入れた。
三人の談合は、夜遅くまで続いた。
翌朝二人は帰途についたが、その様子を台所から見ている女がいる。
女は二人の武士が何者か分からなかったが、二人に従う家人が担いでいる荷物に印された家紋を覚えた。
その夜、館の近くにある女の家に、雑人が忍んできた。
明け方近く、女は隣で寝ている雑人の頬をつねって起こし、昨日館を立ち去った武士の歳恰好を説明し、板切れに囲炉裏の炭で家紋の絵を描いて雑人に渡した。
雑人はすぐに出て行った。
雑人は、山木館に顔を見せた馴染みの商人に、女の板切れと武士の特徴を記した紙を渡した。
この時代、紙は大変高価であったが、雑人は館の紙をいくらでも盗める立場にあった。
商人は、その日の商いを終えると平井郷の館に行き、平井久重に板切れと紙を渡した。
久重は、板に描かれた拙い絵を見て顔をしかめたが、その家紋がどこのものなのかは理解できた。
一つは《月に星》で三浦氏の家紋。
もう一つは《丸に三つ引》で千葉氏の家紋である。
……三浦と千葉が来たようだ。
年恰好からして京の大番役を終えた三浦義澄と千葉胤頼に相違あるまい……
久重は、急いで書状をしたため、相模の俣野景久に届けた。




