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源頼朝挙兵物語  作者: 中野掘門
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十 景義の指摘

 景義は、頼朝をじっと見つめていた。


 目の前に座っている男は、悪辣(あくらつ)非道でのし上がった父兄とあまりに違う自分に戸惑い、源氏の棟梁としての期待に、どう向き合えばいいのかわからず、自分を見失っているのだ。


 こんなことでは、あの怜悧(れいり)な景親に勝てるわけがない。


 主筋の人に言うのは無礼であることは重々承知していたが、やはり自分が背中を押さねばならないと考えた。


「……殿、ひとつ、よろしゅうござるか?」


「うん?」


 沈思中の頼朝は、目の前に景義が座っていることも忘れていたかのように顔をあげた。


「殿にはお(しか)りを頂戴(ちょうだい)することを覚悟の上で申し上げますが、殿はご自身の中にある良きところに気が付いておられぬように思われまする」


「良きところ? 何のことかの?」


 頼朝は、きょとんとしている。


「まあ、聞いて下され。

 武士の本分はいくさに勝つことにござる。

 お互いに名乗りを上げ、正々堂々と一騎打ちを行って、相手の首を頂戴する。

 これに勝る名誉はありますまい……」


 景義は、頼朝を凝視した。


「……と、お思いでしょうが、それはいくさの一面にしか過ぎませぬ。

 すぐに、矢合わせを始め、集団でのいくさに突入します。

 そうなれば、忠誠心でつながった良き兵どもと息を合わせて、それを縦横無尽に駆使できる采配者がおらねば、相手を凌駕(りょうが)することはできませぬ」


 頼朝は、景義の顔をみつめた。


 ……何を言わんとしている?


「殿は父君や兄君のような、悪鬼が肉を喰らうがごとき、勇猛さ、残忍さ、強欲さを持って周囲を切り従えるやり方に対し、ご自分はとても真似できぬと悲観されているのではありませぬか?」


 景義は、首を横に振りながら続けた。


「我が大庭御厨は、かつて父君義朝殿からすさまじい侵略を受け、それに屈して家人となったいきさつがございます。

 義朝殿はそうやって、関東でご自身の家人を増やしていかれました。

 しかしそれに反発している者も大勢おります。

 いくさで敗色が濃厚となった時には、そのような(やから)が真っ先に逃げ出します。

 人は圧力のみには従いませぬ。圧力は憎しみを生みまする。

 現に義朝殿は、最後には信頼する家人に裏切られて、首を()かれてしまったではありませぬか」


 景義は、さらに続ける。


「いくさにおいて最も頼もしきは、心の御恩を受けた者たちにござる。

 殿の周りに居られる方々は義朝殿と異なり、殿のお優しさを慕い、殿のために心底お役に立とう思っている者ばかりです……」


「そして、いくさを采配する者は、兵どもを(いつく)しみ、私欲を離れ、感情に流されず、物事を冷静に見る目を持って、良き策を案出できる賢き頭の持ち主でなければなりませぬ。

 恐れながら殿は、この景義が見るに、弟に劣らぬ知恵者とお見受けいたしました」


「恵まれたお味方と、殿の優れたお知恵、これこそが最大の強みであると考えまする。

 この二つを駆使せば、弟景親に十分に対抗できましょうぞ」


 ――源氏の棟梁として、またいくさへの(のぞ)み方として、何も父兄が行った方法だけがすべてではないのです。

 頼朝殿は、それとは異なる優れた武器を既に手にしておるではありませぬか。

 何故それに気づかれぬのです?


 頼朝は、じっと景親の顔を見つめながら、これまでにない何かが、心の中に()き立ってくるのを感じた。


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